(6) 在りし日
今回は過去編です!仕様が他のとちょっと違います。
「うぅ~」
「じゅん、我が儘言わないの!」
「母さーん、ちょっとくらい良くない?」
「良くないっ!ゆうすけは黙ってなさい!」
とある街のスーパーで、家族三人、買い物をしている。母、俺、弟のじゅん。父は海外赴任から、今日の夜帰ってくる。その準備のための買い物をしていて、弟が自分の欲しい物をねだって怒られている。が、いつもなら直ぐに謝る良い子なのに、今日は全く折れる気がしない。
初めは珍しいな、位の感想だったけれど、あまりに粘るので助け船を出してみた。見事に母に鎮められたけれど。
「もうっ…!今日は忙しいから我が儘言わないでよ~」
母まで泣きそうになっている。普段は優しい人なのだが、今日はお帰りパーティを開くので準備に時間がかかる。あまり買い物で時間をつぶすわけにはいかないので、母も切羽詰まっているのだろう。
「母さん、じゅん、おれが見てるから。他の買いに行ったら?」
母は渋っていたが、結局は溜息を吐ついて頷いた。
「じゅん、何でそれ欲しいの?」
母がいなくなったあと訊いてみる。弟は大きめの、家族四人が乗った、キャラクター物のおもちゃの車を持ち続けている。
「みんな、いっしょ」
それだけ言って黙ってしまう。みんな、いっしょ?…ああ。
「おれら(家族)みたいってこと?」
こくりと頷く弟。でも、それだけじゃ無いとばかりに目で訴えてくる。
「ん~?…分からない。けど、大事(?)なんだろ?」
またこくり。
「じゃ、兄ちゃんが買う」
「!?」
じゅんは『びっくり』と言うのがぴったりな表情になる。その車のおもちゃは小学生の俺にはキツい値段だけれど、まぁ、買えないわけじゃ無い。
「いいの?」
「おう」
「ありがとう、ゆーにいちゃ」
弟は花が咲くように笑った。
この瞬間に、俺のブラコンの気けが出始めたのかもしれない。
このときの弟はもう、言葉にならないほど可愛かった。
その日の夜。弟は食事を終えた父と母に、俺が買ってやった車を突きだした。
「みんな、いっしょ。ぱぱもままも、いっしょ。ひとりじゃない」
いつもはあまり喋らない弟の言葉は、拙い。だけど、俺はやっと、じゅんがそれを欲しがった理由が分かった。
「それって、父さんか母さんがまたかいがいふにんしても、寂しくないようにってことか?じゅん」
俺の言葉にじゅんが嬉しそうにこくりと頷く。父も母もそれ(弟の笑顔)に釘付けだ。
「うう~、ごめん~、じゅんちゃん!あのとき怒ったりして~」
母が涙目でじゅんを抱きしめる。じゅんも、照れているのかすぐには反応を返せていないけど、嫌がっては居ない。
一番感動しているのは父のようだ。
「じゅん!お前って奴は…!」
そう言って母ごと抱きしめる。
それ、俺が買ったんだけど!?
…ああ、もう、俺も混ぜてよ!
その中に俺も飛び込んだのだった。
「ってな事あったの覚えてる?」
古びたおもちゃの車を弄いじって兄が言う。忘れたことは無い。というか、忘れられるわけが無い。何故なぜならその車は親が何処どこかに赴任するたびに、親の赴任先まで持って行かれ、帰ってくると俺の目に付く所に置かれたからだ。今思い出すと無性に恥ずかしくて、この年ではもうあんな事は出来ないけど。良い思い出だ。
「てな訳でさ」
「……」
嫌な予感がする。
「久々に『おにいちゃん』てよん…」
「嫌だ」
「即拒否!?あ~、俺傷ついた…。どうしよう、弟が反抗期!」
このテンションにはついて行けない。
「兄さん」
「はいはい、メシな」
あの日みたいな気持ちになったら、言うかも知れないけど。
読んでいただきありがとうございます!




