(3) 兄の彼女
今回は兄の彼女目線です。
「よっ。授業お疲れ~」
あ、ゆうすけだ。
「うん、お疲れ。今日はどうだった?」
ゆうすけは良く喋る。だから私がいちいち訊かなくても良いんだけど、その言葉を挟むと嬉しそうに笑うから、付き合いだしてから訊くようになった。
「お~、今日はな、矢田部のジイさんが、ムチャクチャな課題を出してきてよ~。……」
ゆうすけは楽しそうに笑う。文句や愚痴をこぼすときも、良く笑う。だから、普通に見て居ると、本当に苦しいのか楽しいのかよく分からないと思う。
「今日は楽しそうだね」
「そうなんだよ。あのジイさん、本当面白いわー」
我が意を得たり、とばかりに嬉しそう。ゆうすけが笑うたびにクセのある髪が揺れる。柔らかそうだな。
「…どした?そんなに見つめられると…」
見つめていたことがばれて、慌てていると手を伸ばされた。
「抱きしめたくなっちゃうな~」
「わぁ!ちょ、止やめてよ!」
ぎゅ、と引き寄せられて、反射的に押しのける。
「人前はだめ!」
「ちぇ~、恥ずかしがり屋め」
「~~!!」
うわぁ、絶対顔赤い!どうしよう、どっかに隠れたい。
「あれ~、ゆーすけ!」
女の子特有の甘えた声で、一瞬で熱が冷めた。
「何なに、もしかして新しいコ?」
何の『新しいコ』なのか。
「そうだよ。彼女」
「え~!カノジョ!?うそー」
嘘も何も無い。この子に悪気が無くても嫌になる。
「ま、いいや。何時ならあたし達と遊べる?」
「あ~、取り敢えず今日はムリ。また今度な」
「ええ~。まぁ、仕方ないか。カノジョさん出来たんだもんね」
そう言って去って行く女の子を見送る。
「……。彼女の目の前でああいうのはどうなの?」
ひやりとそう言えば、ゆうすけはへらりと笑う。
「いや~、あいつ、しつこくてね。どっかでOKしないと、付きまとってくるから。あずさが嫌なら絶対二人きりにはならないようにする」
「うん。でも、あの子って…」
少し馴れ馴れしくは無いだろうか。
「あー、あいつね。昔っから男女いろんな奴に声かけてみんなでわーわーすんの好きなんだよ」
「ふーん」
ゆうすけは全く悪気はないし、そう言う付き合いの範囲にはなるべく口を出したくないけれど。気になってしまって言葉が冷たくなるのも止められない。
「あずさ」
「…?」
呼ばれて顔を上げると、ゆうすけが珍しく真面目な顔をしていた。
「俺はあずさが一番だから」
そう言って笑う。
その笑顔があまりに可愛くて、私は溜息を吐ついた。やっぱり、ゆうすけには敵わないなぁ。
「でも、弟君のことだって好きでしょう?」
悪戯っぽくそう言うと、ゆうすけはぐっと難しい顔を作った。
「いや、なんて言うか。あいつとあずさは別枠って言うか…」
そんなに悩まなくても良いのに。おかしくって笑ったら、拒むまもなく抱きしめられた。
「やっぱ、あずさ可愛い~!」
「~~っ!!!人前は嫌だって言ってるでしょ!?」
思わずボディブローをしてしまったのは仕方ないと思う。
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