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ラ・カンパネラ  作者: Opus
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菩提樹の家 Opus 3

 Sanglier通りの菩提樹の家の前に来た。三日前と同じように、薔薇のアーケードをくぐり、白い鉄格子の戸を押すと、今日は鍵が掛かっている。

「どうしよう、いないのかなあ?」と、再び鍵がかかった戸を押しながら、渉が首を捻った。

Kann ich Ihnen helfen?(どうかしましたか?)と突然ドイツ語で話しかけられた。

「ピアノ? それとも、ヴァイオリンを習いにきたの?」と、通りを歩いていた六十歳を越えた女性が、私たちを見て声を掛けてきた。

「いいえ、こちらの生徒じゃないのです。ガニエールさんに、会いに来たのです」

私もドイツ語で答えてしまっている。

「この家は、レッスンに使っているだけだから、鍵が掛かっているなら、きっと今日は、お休みじゃないかしら?」

 最初は親切に教えてくれたが、私と渉が外国人だと気が付いたせいか、何か怪訝な表情で去って行った。

「マリー・ガニエールとユダヤ人医師の娘は、戦後は、ストラスブールの郊外で暮らしていたはずだ」とド・シャルメは話していたが、どうやらその通りで、今も住んでいるのは、この家ではないようだ。

「どうする? 時間をずらすしか手はないかな。今日がレッスンの日じゃないのなら、帰るわけには行かないから、今晩もストラスブールに泊まらなければ、いけなくなるね?」

 留守なら、どうしようもない。ただ、今日中に渡して、できればカイザースブルクに戻りたい。

「さっきの女性に頼んで、わかるなら連絡先を教えて貰いたいんだけど、もう見えなくなったわ。本当に、どうしよう?」

 家の奥には、樹齢百年はあるとド・シャルメが話した菩提樹の木が見える。堂々とした木で、青い空に映え、風で枝を揺らしていた。

 今日まで、探しに探して、やっと辿り着いたが、もうすぐゴールという所で、お預けを食らった気がした。

「あっ」

 そこで私は唐突に思い出した。

「うん、どうした?」

 渉が不審な顔で訊いてくる。

「渉、大丈夫よ。今日は、レッスンの日だわ」

 林田さんと話した時に、レッスンの日を聞いた。

「そこで会ったあのときの林田さんが、月曜日と金曜日にお子さんがレッスンを受けていると話していたわ。今日は月曜日だから、レッスンの日よ。渉、もう何時間か待てば、きっとガニエールさんは来るわ。時間が時間だから、食事にでも出掛けているんじゃない?」

 私たちも、昼食を食べるため、ちょっと歩いた所にあるカフェを見つけて入った。

 どうも、カテドラルから市庁舎までの三本の通りは、ガンダー家を探した時に片端から尋ねて回ったせいで、どこも入り辛い。道を歩くだけで、気のせいか、人がじろじろと見ている感じがするのだ。

あけまして、おめでとうございます。

また、新しい年が来ました。


新年は穏やかな日で、いくつかの街を訪れ、多くの人に会って帰ってきました。

変わらないことの幸せを感じます。


そんななか、親しい友人の一人が、病気で入院していたと伺いました。

早く、元気な姿を見せてくれることを祈っています。


次回は、1月22日(日)10時になります。

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