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ラ・カンパネラ  作者: Opus
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もう一つの名前 Opus 4

 夕食は、ホテルのそばのレストランで食べた。明日は、ストラスブールを発ち、ハンスがいなくなったカイザースブルクに戻る予定だ。

 最後の夜を楽しもうと、クリスマスのイルミネーションで飾られた街を歩いた。昼間のGrand-Ileも素晴らしいが、夜は夜で、カテドラルのライトアップが綺麗で、これが見納めかと思うと、いろんな想いが去来する。

 ホテルに戻り、テレビを付けた。さっきレセプシオンに訪れた時は、支配人が立っていなかったので頼まなかったが、やはり電話帳をコピーしてもらおう。

 何となくつけたテレビは、各国の今週末に行われたサッカー情報が流れていた。

「このアーセン・ベンゲルって、日本のJリーグの監督だった人よ」

 大学教授かドクターかと見間違うような、スーツを着た痩せた男性が、テレビには映っていた。今はイングランドのプレミアリーグの監督をしていて、以前は日本のサッカーチームの監督だったそうだ。

 Arsene Wengerとクレジットが入ったアーセナルの監督を、陽子はアーセン・ベンゲルと叫んだが、テレビ・レポーターは《アルセーヌ・ベンゲル》と呼ぶ。英語なら、《アーセン・ウェンガー》だが、フランス語のため発音が変わるのだ。

 英語の《アーセン》はフランス語なら《アルセーヌ》か! ついアルセーヌ・ルパンを思いだし、次にマリア・ガンダーの《ガンダー》はフランス語なら、何て呼ぶのか? と疑問が湧いた 

 鞄の中にしまってあった、草臥れてきた『ストラスブール新報』を取りだした。

 陽子が以前に教えてくれた『フランス語名のドイツ語名への改名リスト』を見ると、いくつかある正しいとドイツ人が呼ぶ名前の中に、《ガンダー》があった。

《(仏)ガニエール→(独)ガンダー》と掲載されているのだ。

 つまり、ハンスが教えたマリア・ガンダーは、フランス語ではマリー・ガニエールであり、法律家のガンダー氏は、ガニエール氏であったかもしれないのだ。

「陽子、そのアーセン・ベンゲルって、フランス語では、アルセーヌ・ベンゲルなんだ。アーセンは、たぶん英語かドイツ語、もしかしたらアルザス語の発音かもしれない。それで気になったんだけど、このハンスがくれた新聞の改名リストには、《ガニエール》は《ガンダー》となっている」

 俺が、ストラスブール新報を見せたので、陽子は話す意味が、わかったようだ。

「つまり、マリア・ガンダーはマリア・ガニエールかマリー・ガニエールだというのね。でも、アーセンとアルセーヌは、同じスペルで発音が違うだけだけど、Gander(ガンダー)Gagnaire(ガニエール)って、スペルも全然違うでしょう。ハンスがわざわざ違う名前を私たちに教えるかしら」

 確かにハンスは、ガンダーと教えた。だが、ガンダーで捜したが、郵便局以外では、全く手掛かりがなかった。ド・シャルメが「法律家は住んでいたが、ガンダーではなかった」と話した時に、変な笑いを見せたのが、今となっては気になる。

 ド・シャルメは、ガンダーではなく、ガニエールなら住んでいたから、あんな笑いを見せたのではないか?

「ねえ、明日、もう一度、ド・シャルメに会ってみない?」

 俺ではなく、陽子が先に訊いてきた。

「どうしたの?」

 どうやら、俺と同じように気になるのか、変な顔をしている。

「うん。今日、話を終えて部屋を出る時に、ド・シャルメが『その新聞は、貴重なものだから、大切にするように』と言ったのが、気になる。渉が新聞を見て感じた今の疑問をぶつけてみたいの」

 俺から手に取った改名リストを、不思議そうに、まじまじと見て陽子は言った。

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