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ラ・カンパネラ  作者: Opus
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もう一つの名前 Opus 2

 食事をしようと、俺たちは街に出た。朝、散歩した時よりは、幾分温かくなったが、手袋をつけないと、歩いてはいられないほど冷たい。

 MAX MARAの建物の前のクリスマス・リースがあまりにも鮮やかで、つい足を止めた。リースの中央上部に、八十センチほどの浮き彫りになった天使の彫像が二対、まるで蝶が羽根を広げるように飾られている。

 大理石で造られ、外壁と変わらないのは、きっとビルが建造された時から一緒に飾られていたのだろう。

 何気なく街を歩いていると、赤く錆びた雨樋が目に付いた。薄いブリキではなく、しっかりした分厚い鋼製で、直径は軽く広げた俺の指くらい、つまり二十センチはある。

 水が落ちる、道路に面した一番端は、魚の顔をあしらい、雨水は魚の口をした樋の先から出る仕組みだ。もちろん口から出た水は、細かい鉄格子が嵌められた下水溝に、流れ落ちるようになっていた。

classical!

 街の端々に、歳月が作った文化が息づいている。

 陽子と俺は、ホテルの近所のカフェに入った。これからの行動を相談しながら、軽く食事をしたら、午後一時を過ぎていた。

 俺たちは、グーテンベルク広場の地下にある、観光案内所インフォメーション・センターに立ち寄った。

 打つ手がなくなり、「駄目もとで良いから、ここで確かめてみない」と陽子が提案するため、思い切って観光案内所を訪ねたのだ。

 観光案内所では、尋ねたい内容に問題があるだけに、係員を選んだ。ふくやかな顔の、温かな目をした、三十代の女性係員が目に付いた。

 手が空き、こちらを何度か見ている係員もいたが、簡単にあしらわれそうなので、人の良さそうな女性係員に的を絞った。

 前の客が終わり、空いたところで、すっとカウンターの前に立った。いささかこっちが慌てて彼女の前に立ったのがわかり、他の係員への手前か、女性係員は、ちょっと苦笑いを浮かべている。

 これまで何度も繰り返した「ボンジュール」から始まる挨拶をして、昨日までと同じように、尋ね始めた。

「ストラスブールで、マリア・ガンダーという、女性を捜しているんです」

 俺の話が良く聞き取れなかったのか、「もう一度」と尋ねたため、同じ言葉を繰り返した。

「その女性の、住所は、何処ですか?」

 簡単に知らないと言わなかったため、何か知っているのかと期待をした。だが、ここが観光案内所で、彼女がただ仕事に徹しているプロであると、直ぐに理解できていなかっただけだった。

「カテドラルの近くしか、住所はわからないのです」

 ド・シャルメに否定されたこともあり、カテドラルから市庁舎までの間とは話さなかった。

「カテドラルは、この上の広場から見える大きな建物のこと。ここは旅行者用の観光案内所であって、人捜しの場所ではないから、住所がわかるならばお手伝いはできるかもしれないけど、それでは、あなた方の協力はできないわ。どうしても見つけたいなら、警察に行けばどうかしら?」

 俺にとっては、思った通りの回答であり、駄目だった。親切にも、ストラスブールの地図に警察の場所を示して、渡してくれた。

「警察に行く?」

 係員のアドバイスを聞き、陽子が尋ねてきた。

「いや、どうしてかと訊かれたら、理由を話さなきゃいけなくなるから、今は止めよう。ハンスは、俺たち以外には、話したくなかったのだから」

 陽子には、警察に行くのを反対したが、次に示すカードがあるわけではなかった。

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