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ラ・カンパネラ  作者: Opus
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レクイエム Opus 4

 そのまま夕食を外で食べた後、少し時間を潰そうと、カテドラルの回りのクリスマス・イルミネーションを眺めて、ホテルに戻った。

 公衆電話の前の電話帳を部屋に持って来て、昨晩確認した八軒あるガンダー姓の人に電話を掛けたい。ただし、黙って電話帳を持ってきては、昼間の日本人観光客と五十歩百歩だ。コピーを頼もうと、公衆電話のそばに近寄った。

「やっぱり陽子、もう一度、ハンスに電話しようよ」

 日中も何度も電話をしたが、駄目だった。もう電話番号を暗記したようで、何も見ないで渉はかけ始めた。暗譜するのは、誰よりも得意だったのは知っているが、電話番号も直ぐに覚えてしまうのだ。

「パードン! パードン! ……ジャパニーズ ○×△」

 駄目だと思っていたら、電話は繋がったようだが、渉の話し方が普通ではない。

「どうしたの?」

「たぶん、ミッターマイヤーさんだと思う。何か、凄い勢いで話している」と、受話器を押さえて言う。

「ドイツ語がわからないから、代わってくれない?」と頼むため、私が替わって出た。

「あなたは、誰? 誰なの?」

 電話口の向こうの女性が、叫んでいる。

「あのう、ミッターマイヤーさんですか? 一昨日の朝、ハンスのお店でお会いした者です」

「ああ、あのときの日本の女の方? あなたたちには、ハンスがお世話になったようだわね……」

 私が、ドイツ語で話すと、直ぐに落ち着いたようだ。ハンスと店で話していた時とは違い、ミッターマイヤーさんは、力ないゆったりとした調子で話し始めた。

「すいません。ハンスに、代わっていただけません?」

「えっ! さっきも話したんだがねえ。ハンス・ベルンハルトは、死んだんだよ」

「死んだって、ハンスがですか? いつ?」

 驚いて叫んだ。

「昨日の朝、私がここに入院するように勧めに来たら、ベッドの中で冷たくなっていたんだ。ああ………。もう、驚いちゃってね。癌だけではなく、心臓も弱っていたからだろう、って話さ。そう言えば、あなたたちと会った一昨日の夜に、食事を持って来たらね。あのときは、元気で。何か、日本の二人に頼み事をしたから、これでもう心配はないと繰り返していたよ。ずっと体が辛そうだったのに、随分ご機嫌だったから、よっぽど安心して、天国に逝ったのかもしれないねえ」

 ハンスが死んでから、もう一日以上が経っていたのだ。

 ハンスが死んだのが信じられない私は、ただ呆然としてしまった。

 ハンスが私たちに託したマリアの話は、ハンスが内緒にしておきたいと望んでいたため、そのまま何も相談せずに電話を切った。

「どうだった? 何だって」

 ドイツ語がさっぱりわからない渉が、訊いてきた。

「渉、驚かないでね。ハンスが、死んだんだって。昨日の朝、ミッターマイヤーさんが来たら、ベッドの中で死んでいたって」

「本当に?」

 渉も信じられないようだ。死ぬ前に、マリアさんに指輪を渡したと伝えてあげたかった。

「ええ、一昨日、夕飯をミッターマイヤーさんが届けた時は、私たちに頼み事をして、とてもご機嫌よかったそうよ。安心したのかもしれないて」

 でも、一昨日は生きていた人が、もう今は死んでしまい、この世にいないなんて信じられない。ハンスは、もういないんだ。

「ピアノを聴けば、あなたがどんな人間か、渉がどんな人生を送ったのか、よくわかる」とハンスは話していた。私は、ハンスの願いを必ず、叶えてあげたい。


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