表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラ・カンパネラ  作者: Opus
57/96

尋ね人 Opus 2

「アルザスの人も、やっぱりフランス人ね」

 何をやっても、努力ならいとわないといった我慢強い陽子も泣き言を呟く。

「フランス人って……?、何が?」

 俺は、陽子の《フランス人》が気になって、訊いてみた。

「だって、日本人だったら、もっと親切に聞いてくれるんじゃない?」

 確かに、日本人は世界中で信じられないくらい、無類のお人好しかも知れない。だが、それも時と場合によりけりだ。

「そうかな? 日本だって、五十年前に、この辺りに住んでいた、久木田さんのおうちを探していますと外国人が尋ねて来たら、きっと変な顔をするよ」

 二十代の東洋人のカップルが、はっきりした理由も話さずに、第二次世界大戦前の情報を元に、人を捜しているのは、やはり疑わしいだろう。

 少し早い昼食代わりのサンドイッチを食べ、カフェラテを飲み終えた。朝、あれだけ食べたのに、動き回ったためか、俺は無性に食欲はあった。

 チェックを頼んだ。お金を、取りに来た二十代にも、十代にも見えるスーパーモデルのように痩せたギャルソンヌに、さっきまでと同じようにガンダー家について尋ねてみた。

 それほど期待をしていなかったのに、「少し待って!」と、そのギャルソンヌは、陽子が言うフランス人らしくないのか、何か知っているようで、奥に行った。

 黒のスラックスに、白のシャツ、同じように白のV字のセーターを着た男性が出てきた。髪の毛は黒に近い赤毛で、このカフェの主人だという。

 なんとなく親切そうで、人の良さがにじみ出ている。六十歳は越えているから、第二次大戦の頃は生きていたはずだ。その頃から、この辺りに住んでいたなら、ガンダー家のことも……。

 俺は、さっきよりも丁寧にもう一度フランス語で尋ね始めた。期待が膨らみ過ぎたわけではないが、適当な単語が出てこない。やはり、フランス語は英語ほどには、細かなニュアンスを伝えきれない。

 すると、店主のほうが気を回してくれ、英語で話し掛けてきた。

 この店主も、他の人と同様に「どうして、五十年以上も前に法律家だった家を探しているのか?」と訊いてくる。

「友人に、頼まれたからです」

 ハンスの話をする気はないが、俺は、鞄のなかにある、ハンスから預かった『ストラスブール新報』を取り出した。

 何を取り出すのかと怪訝そうに見ていた店主が、新聞を広げた瞬間、さっと緊張が走った。

 新聞を手にした店主は、聞き取れない言葉を洩らし、物珍しそうに、最初から目を通し始めた。

「古い、あの頃の新聞だ。戦時中のドイツのプロパガンダ紙を見るのは、何十年ぶりだな」

 ドイツのプロパガンダ紙と呼んだが、嫌なものを見るような感じではなかった。

「私たちは、この新聞の地図に印がある辺りに住んでいた、先ほど話したガンダーさんの家を探しているのです」

 店主に、印がある頁を開けて見せた。

「申し訳ないが、私は三十年前までは、このストラスブールの南にあるコルマールに住んでいた。だから、当時の事情については、わからない。ただ、あなた方が捜しているガンダーという法律家は、私がここに来てからは、残念ながら一度も聞いた記憶がない」

 店主は、俺たちの力になれないのを、残念そうにしてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ