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ラ・カンパネラ  作者: Opus
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指環 Opus 5

ラ・カンパネラは、独仏を掛けるユーロップ橋を渡り、フランスの地へ。

民族の交差点たるアルザスの中心、ストラスブールに向かいます。

 ライン川に目を落とすと、さっきの客船が、いつの間にか、かなり遠くを走っていた。壁面に書かれた《VAN GOGH》の文字を見ながら、陽子に話し掛けた。

「ゴッホって日本では呼ぶけど、フランスではゴーグなんだ」

「うん。知っているわ。フランス人は、hが発音できないからかしら」

「そうかも知れない。オランダ語では、どう発音するのか知っている?」

 きっと、知らないだろうと思って、訊いてみた。

「確か、ホッホでしょう」

 陽子の話し方に、俺は笑った。さすがに、ウィーンで一年暮らしただけ在って、陽子は知っていた。

「ゴッホのほうが響きがいいね」

 そんな話をした後、俺たちは妙に押し黙って、五百メートルはあるユーロップ橋を渡った。

 通勤だろうか? スーツ姿のサラリーマンが、自転車に乗って追い越して行く。

 俺たちは、ユーロップ橋を渡り、フランスに着いた。国境と言っても、兵隊がいるわけではなく、別にこれといった感慨は、湧かない。

 陽子はハンスから渡された新聞を出した。

「ゴッホの話をしたら、気になったの。渉、ハンスが渡してくれた新聞に『ガストン、ロジェ、コレット、オデット、イヴェットのような名は、ずっと我が古きドイツ語の姓とは調和しないが、そういう名を持つアルザス人男女の性格とは、なお一層しっくりしない』ってあるの。その後には『今や、いかなる曖昧さもあってはならない。こうした名前は、もう許されないのだ』って」

 陽子がドイツ語を訳してくれた。

「『フランス語名のドイツ語名への改名リスト』もあるわ。『クロードはクラウス。ペルネはベルナー。ジャンはハンス。ニコルはニッケル。ガニエールはガンダー……』。するとハンスは、ストラスブールではジャンと呼ばれたのね」

 自分で話して肯きながら、陽子が俺を見る。俺は、陽子の言葉に、同意をするわけではなく、首を傾げた。

「渉、どうかした?」

 陽子は、俺を心配して声を掛けてくれる。

「別に……」

 心配しないように、というか、気にしないで、というつもりで言った。だが、本当は、話したくて、話し辛い思いが俺を満たしていた。

「本当に?」

「陽子が訳してくれた記事を考えると、気が重くなったんだ」

「どうして?」

 急に様子が変わった俺を、心配している。

「昨日、陽子と逢う前に、ハンスは『ストラスブールに行ったら、カテドラルに登れ』って俺に言った。今朝も、同じことを話したけど。昨日は、その後、変なことを付け加えたんだ」

「変なことって?」

 何をハンスが話したのかと、不安な目をして訊いてきた。

「ああ。ハンスは『カテドラルに登れば、すべての綺麗なものも汚いものも見える。汚いものは俺だ』って……」

 俺の言葉に、陽子は黙って新聞を折り畳んだ。

「それは、どんな意味があるの?」

 知りたいけど、知りたくないと言った様子で陽子は訊いてくる。

「わからない。ただ『カテドラルから見える汚いものは俺だ』が、あれ以来、ずっと引っかかっているんだ」

どうして、ハンスはあんなことを言ったのだろうか。俺は、自分の中だけに押し留めていられなく、救いを求めるように陽子に話した。

仕事が忙しくって、掲載できなかった間に、ブックマークが増えていました。

楽しみに? してくれる人がいるのかなぁと思いうれしかったです。

元気をくれたどなたか、ありがとうございます。

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