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ラ・カンパネラ  作者: Opus
35/96

カーテンリング Opus 3

ハンスの店の前まで来た。

 成田を出るときには夢でしかなかった、昨日のことを思い出した。

「昨日『ラ・カンパネラ』が聴こえて、音のする場所を探したら、ちょうどあのあたりに来たの」

 私は対岸を指さしながら、渉に説明した。

「今日、陽子はハンスの店で、やっぱりベヒスタインを弾くつもり?」

「ええ、もちろん」

 昨日の渉の演奏を聴いたため、今日は、是非ハンスの店のベヒスタインを弾きたかった。

「いい音が出る、ピアノだからなぁ。陽子の音を聴くのは久しぶりだから、楽しみにしているよ」

 渉は、本当に楽しみにしているように言うが、私は渉の前でピアノを弾くのは、気が引けた。

 ハンスの店に入ると、昨日と違って、店の中は温かかった。暖炉に火が入ったようだ。今日は、昨日ほどは寒くはないとはいえ、また外気と同じような、寒い店の中は嫌だと思っていた。

 店には、私たちの他にも、人が来ていた。歳は四十を越えたくらいの、ハンスと同じように背が高く、金髪のどこか品のある女性だ。ただ、何かハンスが怒らせたようで、凄い剣幕で、ハンスに一方的に話している。

 ハンスは「客だから」と断って、私たちのそばに来た。

「彼女はミッターマイヤーと言って、儂の従兄弟の娘さ。いろいろと気に掛けてくれるんだけど、どうも最近、うるさくって敵わん」

 ハンスは私たちに向かい、渉によれば苦手だという英語で、顔を顰めて話してきた。

「夕方、また来るから。それと暖炉の火は、落とさないでね」

 ミッターマイヤーさんは私たちと話しているハンスに、イライラしながら、いくつか注意を与えて出ていった。

「陽子、今の人は何を叫んでいたの?」

 ドイツ語がわからない渉が、私に訊いてきた。

「ハンスに、病院に行って、入院するように勧めたみたい。ハンスは、どこか身体でも悪いのかしら」

 確かに、初めてあった昨日もそうだが、ハンスは土色の肌をしている。

「今日は二人はどうする?」

 ハンスは、そんな心配を知らずに、何事もないように、注文を訊いてきた。

「朝食を食べたら、昨日行けなかったシュトラスブルクに、出かけるつもりだ」

 てっきり、朝食のメニューの話だと思ったら違った。渉は、大きなボストンを見せて、ストラスブールに行くと答えた。

「シュトラスブルクに行くなら、二人でカテドラルに登ればいい」

 ハンスの言葉に、渉がなぜかピンと緊張した。なぜだか過剰に反応している渉がおかしい。それどころか、そんな渉を見て、ハンスは黙ってしまった。

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