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ラ・カンパネラ  作者: Opus
18/96

運命 Opus 3

 日付が変わり、ホームに向かうと、乗車予定の電車は入線していた。

 一等車のドアを手で開け、ストラスブール行の電車に乗った。特急車両は日本の電車に比べて、幅が広く快適だ。私が乗った車両には、十人くらいが乗っていた。男女のグループが多く、もし車両の中に女性が自分だけだったらと不安もあったが、これなら全然大丈夫だ。

 簡易寝台(クシェット)も考えたが、知らない人と同じ部屋は嫌なので、一等客車にした。今は、これで良かったと考えている。

 出発前に旅程を立てる時に、最初に訪れる街をどうするか、随分悩んだ。ライン川に近い《Kaisers…》だけが頼りで探すわけだが、カイザースブルクに、カイザースラウテンが、直ぐに見つかった。

 但し、最初に出掛けようとしたカイザースブルクは、ドイツではなく、フランス国内のアルザスにあった。シュヴァイツアー博士の生地で、こちらはスペルがKaysersbergで、消印の《Kaisers…》とは異なっていた。

 消印だけではなく、渉は《ドイツの小さな街に来た》と書いてあったから、フランスでは絶対にない。

 そのため、第二候補だったカイザースラウテルンが繰り上がってきた。ただし、こちらの街は、人口が十万人近いため、小さな街ではないのが気になった。

 行き先として外したはずのカイザースブルクだったが、直前になってKaisersbergというきれいな街が、ライン川のそばにあると教えられた。

 ボンに留学した経験がある友人に、《Kaisers…》がつく街を探している話をしたら、一度行った街だけどと教えてくれたのだ。こちらのKaisersbergは、友人がくれた、ドイツ語の地図には載っていたが、日本で手に入る旅行ガイドの地図には、どれにも載っていない街だった。

 渉を捜すといっても、どうせ目的地があるようでない旅だ。

 郵便局の消印が残る規模の街なら、結局どこでもいいわけなので、カイザースラウテルンの前に訪れることにした。Kaisersbergは、ライン川の近くにある街で、《ドイツの小さな街》であるのに期待が持て、旅の最初に訪れる街に決めた。

 定刻になり、電車は、ゆっくりとパリ東駅を出た。コートを毛布代わりにして、目を塞いだ。長い時間、真っ暗な飛行機の中にいたため、眠いわけではないが、いつのまにかウトウトと寝ていたようだ。

 目が覚めたら、電車が駅のホームに停まっていた。駅の名前は《BAR LE DUC》で、時間を調整しているのだろうか、直ぐに動く様子はない。ホームの街灯の下にいる駅員の息が、白く長く濁っているのが見えた。窓から覗いた駅のホームは、とても清潔で厳粛な感じがした。

 時計を見ると午前三時を指している。九を足せば日本時間の正午。いや、ここはフランスだから、時差は八時間だ。つまり日本は、午前十一時だ。

 昨日は、この時間には、成田のラウンジで、コーヒーを飲んでいた。そんな時間だから、目が冴えてしまうなどと考えていたら、電車がまた走り始めた。

 日本なら、どんな田舎街を電車が走っていても、街灯の一つくらい見えるのに、線路の回りには灯りは何もない。暗闇のフランス東部を横切り、電車は渉のいるドイツに向け、ひた走っている。渉のいるドイツに……。

「しかし……、私は、いったい何をしているのだろう」

 ヨーロッパまで、一枚の葉書だけを頼りに、旅に出た。旧友に連絡をして会いに来たのではなく、人捜しの旅だ。

「何のために?」

 自問した言葉の答が、容易には見つからない。なぜかといえば、この答は、七年前に、突然いなくなった神崎渉が、私にとってどんな存在であるかを問うことになるからだ。

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