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ラ・カンパネラ  作者: Opus
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運命 Opus 2

 ヒースローに着いたのは、同じ日の午後三時だった。十二時間も延々と飛行機に乗っていたはずなのに、地球を半周近くした結果は、たった三時間しか時計は進んでいない。

 ずっと、昼間の太陽と一緒に旅をしていた。そのため、外の光が眩しすぎて、誰も窓を開けない。夜のフライトよりも真っ暗な、半日の旅だった。

 ヒースローで乗り換えるパリ便は、17時15分だ。航空会社の人に、もう少し早い乗継ぎの飛行機を頼んだら、ヒースローで、あらかじめ定められた乗り換え時間(二時間以上)があり、これでも一番早い乗換便だと説明を受けた。

 パリ便の搭乗の始まりを告げる、アナウンスが流れた。ロンドン=パリ間は、一時間十五分のフライトなので、ちょうど羽田から函館に行くようなものだ。海峡を越える、急ぎ足の多くのビジネスマンと一緒に、ヒースローを発った。

 時差の違いで、パリに着くと時計が一時間進むため、パリのシャルル・ド・ゴールに着いたのは、19時30分(GMT18時30分)だった。

 ド・ゴール空港では、荷物が出てくるのに、思ったよりも時間が掛かった。パリで一泊して、ドイツに向かうのも考えたが、二週間後には次のステージに立たなければいけないため、少しでも渉を探す時間に充てたく、最初から夜行列車に乗り現地に向かおうと決めていた。

 空港から路線バスに乗り、東に行く夜行列車が出るパリ東駅で降りた。東駅に着いた時は、九時前だった。日本ほど駅も駅の回りも明るくなく、外は湿気を感じないが、同じように冷えている。

 ドイツ方面への電車が出る駅なのに、乗降客が少なく、三階か、四階分はある高い天井に、薄暗い電灯がぼんやり点いているのは、襟を立てたスパイがとても似合いそうで、なんとなく薄気味悪く感じた。

 私は、決して、旅慣れているわけではないが、ヨーロッパでの独り旅に、戸惑うわけではなかった。実は、学生時代に一年間ウィーンに留学した経験があるのだ。ドイツ語なら、日常会話程度は話せるようになっていたので、目的地がドイツであるだけに、今回の旅は心強かった。

 24時21分発のストラスブール行の夜行列車に乗るために、東駅の切符売場で一等席の切符を買った。

 駅の中で待とうとしたが、埃っぽいのが嫌なのと、小柄な私が、一人でスーツケースを持って立っているのに不安を感じた。どこかで時間を潰そうと、駅の外に出ると《HOTEL D'ALSACE(ホテル・アルザス)》の看板が目に付いた。ドイツとの国境のアルザスに向かう電車の出発駅である東駅は、日本ならさしづめ東北本線の始発の上野駅だろう。

《ふるさとの なまりなつかし 停車場に……》と、高校時代に習った石川啄木の短歌が浮かんだ。

 あたりを見回すと、まだ開いているブラッセリーがある。中に入り、ヒースローからの飛行機で機内食を食べたため、スープを頼み、冷えた体を温めることにした。

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