開けてビックリ
著作権に気をつけて書いてます。
俺が神ノ義高校に入って2回目の冬を迎えた。まったくもって時間が経つのは早いもので、屋上で食べているカップラーメンが3分を経過するのに時間はかからなかった。
今日は濃い霧が出ているて、10m先がよく見えない。隣で麺をすすっている星野明子さえも、もやがかかって見える程度だ。
明子はこう見えて美少女で、学校でも男子にモテる。本人の自覚がまるでないので、麺をすする時も男らしく股を開きながらだ。
そんな美少女がなぜ俺の隣にいるのかというと、これにはあまり深くない事情があるからだ。明子と俺は、最初縁のないクラスメイトだった。可愛いなとは思っていたが、ただそれだけだった。
そんなある日
俺が友人の帰りを教室で待っていた時のことだ。誰もいない教室に明子が入ってきた。後で聞いた話だが、明子も友人の帰りを待っていたらしい。2人きりになり何を話せばいいか分からなくなった時、明子が俺のカバンについていたストラップに目をつけてきた。
「それってウルトーマンストラップだよね」
「あ、ああ」
急に話しかけられてびっくりしたってのもあるけど、明子が2次元を知っていたのにも驚いた。
「悪者をなぎ倒していくのよね。しかも3分で」
その通りだけれども。子供が見る番組なので、ストラップを持っていることが少し恥ずしくなってきた。早く教室から出たい衝動にかられた俺は、そそくさと戸を開けた。友人にはすまないが、俺は1人で帰るぜ。だが学ランを明子に掴まれていた。何すんだこいつ。
「私もグッズ持ってるんだ。これ見て」
明子は自分の席にある筆箱の中からグッズを取り出してきた。
「これってウルトーマンのシャープペン」
「そうよ。限定品だったから並んじゃった」
俺も欲しい。じゃなくて、もしかしてこいつ、俺と同じオタクという人種なんだろうか。いやいや、それはないだろう。モテて頭もよくて、友達もいっぱいいるからな。リア充じゃん。
明子は俺の顔を覗き込んできた。人形のような大きく、黒い瞳に吸い込まれそうになる。
「このアニメの素晴らしさを分かってくれる人がいて嬉しいな。みんな興味ないから話す人いなかったのよ」
「子供向けアニメだからな」
「でも好きでしょ?」
「まあな」
先ほど友人に早く来てほしいと願ったばかりだったが、撤回しよう。まだ来ないでほしい。
それから俺達は放課後や休み時間にちょくちょく話すようになった。最初「星野さん」と呼んでいたが、「明子」に変わるほどになっていた。今までオタクな自分を嫌いだった俺だが、好きになれそうだ。
そんなことを思い出していると、もうカップ麺が伸びてしまった。隣でくすくす笑う明子。
「何考えてたの?」
「別に」
出会った時のことを考えて1人で盛り上がってました~なんて言えない。
「もうすぐ冬休みだな。」
「そうだね。長久保君は何するの?」
「たまったゲームをやりまくるし、ビデオに撮っておいたアニメを見まくる」
ちょっと引かれたかな。と思ったがそうでもないようで明子も頷いていた。
冬休みになったら明子とこうして2人で話せることもなくなるのか。やや寂しいな。連絡先を交換できたらいいんだけど、そんな勇気はない。
家に帰ると親父が俺の帰りを待っていた。
「プレゼントだ」
急にそんなことを言われ、差し出された大きな紙袋。今までプレゼントしてきたことは何度かあったが、それには理由がある。親父がどこか遠くへ旅に出る時だ。家族を残していくことの謝罪のつもりらしい。
そんな罪悪感があるなら一緒に連れてけよ。
適当に「ありがとう」と言い、自分の部屋に戻る。
たまっていたゲームをやり始めたが、プレゼントされた大きな紙袋が目につき、気になって集中できない。だがいつもろくなものじゃない。
でも一応プレゼントを開けないのは失礼だな。袋から白い箱を取出し、ラッピングをやぶり、ふたを開けた。
こ、これは・・・
ウルトーマンのベルトだ。
変身の時にウルトーマンが使う、あのベルト。
嬉しいが、なぜ親父がこんなものを?俺が2次元好きなのを知らないはずだ。
居間に行って親父に確かめてみた。
「そんなものを買った覚えはないんだけどな。店屋混んでたから、誰かのと取り違えたのかもしれん。返してくる」
紙袋を持つ親父の手を止めた。ぶっちゃけ欲しいので、このまま返すなんてもったいない。だが素直に言えない。
「レシート持ってんのかよ。じゃなきゃ返品なんて無理だぜ」
親父は財布の中身を確かめ始めると残念そうな顔になった。どうやらないようだ。
「今度いいもの買ってきてくれればいいからさ。これ部屋にでも飾っておくよ」
ウルトーマンは書き間違えじゃありません。