足
半分嘘で半分本当。
テレビの前に、足が転がっていた。
といっても、生足がゴロンと転がっていたという猟奇的な話ではない。人が一人、大きなイビキをたてながら眠っていたのだ。大きさや何かからして女だろう、と思う。ジーンズの裾と裸足の足だけが毛布から覗いている。
時計を見るとそろそろ6時、昼寝には遅い時間だ。起こした方が良いだろうか、と思う。そもそもこれは誰の足だろう。母さんだろうか。
そう考えて目線を彷徨わせ、傍でマンガを読む末の妹を見つけた。猫に飛びつかれでもしたのか、肩の所に猫の毛がだまになってくっついている。
妹の肩を叩いて呼びかける。
「服、毛だらけになってるよ」
「別にいい」
鬱陶しそうな返事にひるむと同時に色々面倒くさい気持ちになる。母屋のこたつで本でも読んでいようと決めてその場を離れる事にした。
母屋のお勝手場では母さんが夕飯の支度をしていた。食べられるまで少しかかりそうである。風呂場の様子を見るとそちらも支度中らしかった。とはいえ、一番風呂はどうせ祖父に譲る事になるだろうが。今では祖母が下らないお笑い番組を見ていた。
こたつに入って適当なライトノベルを手に取る。確か、まだ読んでいない奴があったはずだ。
ふと気付くと7時を過ぎていた。母さんと弟がストーブにあたっている。どうやら風呂が空いているようなので先に入る事にする。
私は夕飯を食べる前に風呂に入る主義だ。消化の事を考えると、先に風呂に入るか30分以上あけた方が体にいいと聞いて以来、そんな習慣がついている。それが実際、体にいい事なのかはわからないが、態々体に悪いといわれる事をする理由もあるまい。
湯につかっていると、ふと、離れで見た足の事を思い出した。どうやら、アレは母さんの足ではなかったようだ。とすると、妹だろうか。末の妹でない事だけは確実だが。誰であれ、風呂と夕飯を済ませてから見に行ってもすでに起きた後だろう、多分。
それにしても、完全に頭隠して足隠さず状態だったが、あれで寝苦しくはないのだろうか。ちゃんと顔を出していないと息が苦しくなりそうなものだが。だがまあ、こたつに頭まで潜って眠る奴も偶にいるので、そんなものなのかもしれない。
色んな意味で(例えば飯を食べる前に見に行くとかして)態々正体が知りたいとは思わないが、よくあんな場所で大イビキをかいて眠れるものだと思う。ちゃんと夜布団で眠ればいいのに。
風呂から出るとこたつに弟と末の妹が増えていた。風呂が空いた旨を告げてお勝手場に向かう。
夕飯を自分の器によそった後、移動するのも面倒くさいのでそのまま食べる。味付けがいつもより濃いというかしょっぱい。一皿毛色の違う料理があるが、恐らく妹が弁当の為に作ったものの残りだろう。何となく見た目で区別がつく。彼女は私と違って食事に意味を見出しているのだろう。私は食事に栄養とエネルギー補給以上の意義を感じていない。
末の妹が自分の食器を片しにお勝手場にやって来たので、ついでなので尋ねてみる事にした。
「夕方、向こうのテレビの前で寝てたの誰か知ってる?」
無言で何言ってるんだ、という視線を向けられた。解せぬ。どうやらまだ機嫌が悪いらしい。私に言葉で返事を返す気にもならないようだ。
離れには誰もいなかった。猫が毛布の上で丸くなっている。離れには暖房設備がなく、寒いので湯たんぽを作ろうと決める。今日もこの部屋は寒い。
私はテレビの電源を入れる。何かニュースをやっていた。