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7.科学と魔法を絡める事ついて思う事

 ファンタジー系の小説やゲーム等でお馴染みの魔法。設定を作る上で現実とは異なる世界を強調したり、ストーリー展開の中で辻褄合わせの便利なツールとして使えたり、種類や数を必要に応じて設定できるので、様々な演出にも利用できたりと、著者には使い勝手の良い物である。何せ、物理的限界を考えなくても良くなるのだから。それだけに、バランスブレーカーとなってしまう事もまた、良くある話なのだが。


 魔法を設定する場合、まず間違いなく設定されるのが属性である。主な物を挙げれば、火、炎、水、氷、木、土、金、風、嵐、雷、光、闇、無、時、天、空間、重力、空気、生命、神聖、精神、毒、精霊、召喚、補助、生活、古代、遺失、万能等々、主な物だけでも結構な種類が存在する。五行や陰陽、4大元素的な物をベースに相性や相克を設定される事も多い。余り種類を増やしすぎるのも設定が面倒なので、4~8種類程度の属性を設定する事が多いようだ。


 属性の他に、魔法の階級や対象を基準として幾つかの種類に分けられる。階級は初級、中級、上級や数字によるランク分け、対象は単体と範囲、複数等である。


 魔法は、魔力(魔素、MP、マナ)を力の源とし、杖やアクセサリ等の発動媒体、詠唱や魔法陣、思考等の発動鍵によって行使される。魔力と生命(存在)力をリンクさせたり、内部魔力と外部魔力と言った概念を設定する事もある。


 ゲームがベースとなっている小説では、各魔法に固有名称を付けて、魔法の消費魔力、詠唱時間、発動時間、冷却時間、効果と属性、階級、対象、及びステータスとの関連性、使用条件を設定するのが基本だが、そうでない小説では、固有名称を付けず、効果と属性、階級、対象のみで済ませる事も少なくない。


 ここまでは前振りであり、説明する必要もないぐらい読者の方が詳しいだろう。




 時折、異世界に飛ばされた現代人が科学的な知識の保有を前提として、魔法の威力が上がったり、高効率の運用が出来たりと言った設定をしている作品を見掛けることがある。今回は魔法の中でも典型的な攻撃魔法として分類される事が多い火の魔法について科学と魔法を絡める事の妥当性について考えてみた。


 火とは「物が燃えて光や熱を出す状態や現象。また、その炎。(大辞泉)」である。他の意味もあるが、攻撃魔法の話だから今回は横におく。


 物が燃えるとは、中学の理科で「燃焼」として習うと思うが、可燃物質と酸素、熱により化合して光や熱、炎を出す事である。広義には、光や熱、炎を出す化学反応全般に用いられる事もある。小説等での表現では前者をイメージして描写する事が多いだろう。


 ここで疑問に思うのが、科学の知識によって魔法が強化されるという設定下における、魔力の果たしている役割である。何かを燃やす為には、可燃物質、酸素、熱が必要であり、殆どの場合、有酸素下(大気中)での使用を想定しているはずなので、燃焼を起こす上で必須の酸素以外の条件を整える為に魔力を消費する事となる訳だ。可燃物質を用意するか、魔力自体が可燃物質の役割を果たす、もしくは着火に必要十分な熱を発生させる等が考えられる。

※当然、酸素を過剰供給する事も考えられる。


 さて、ここで問題になってくるのが、可燃物質をどの様に用意するのかと言う事である。魔力自身が可燃物質でも良い訳だが、その場合は、魔力とは水素、炭素、炭化水素化合物等の可燃物質であったと言う事になる。余所から可燃物質を集めるのであれば、何処かから転移させる必要が出てくる。周辺から集めると考えた場合、周辺にそれだけの可燃物質が存在している事が前提となる為、使用にかなりの制限を受ける事となる。


 例えば空気中の水素やメタンを集めるのなら、集める以前の段階で高濃度に分布している事が前提となり、そうでなければ複数の術者による同時使用や、連発したり、広範囲や高威力の火魔法は実質的に使えなくなる。仮に、どれだけ魔法を使っても問題ない程十分高濃度に分布しているとするなら、例えば料理の為に火打ち石で火を付けようとした際の火花で、引火や爆轟をする事が懸念される世界になるだろう。とてもではないが人は住めない環境だ。つまり、周辺の大気中にある可燃物質を集めると言う設定では火の魔法の使用は困難である。大気中に引火しない程度の低濃度で、一定の可燃性ガスが何故か恒常的に維持され続ける世界だと設定すれば問題はなくなる訳だが、設定自体に突っ込みが入りそうである。


 周辺の落ち葉や木の枝等、固形の可燃性物質を集めてと言うのなら、砂漠等では使用できないとなるし、遠方から取り寄せるなら火の魔法と言うよりは転移・召喚系魔法であり、火の魔法を使う度に森林資源や木製建材、家具、衣服等が勝手に奪われ、失われては、人の生活自体が脅かされる事になる。どう考えても使用禁止魔法の指定を受ける事請け合いだ。


 次に、生活魔法に分類されるような、ライター的な使い方なのも含め、魔力その物が燃えると考えた場合、魔力は可燃物質と言う事になる。つまり、世界が消滅するか、世界から魔力が尽きるか、酸素がなくなるまで激しく燃える事だろう。とても出はないが生物が存在できる世界ではない。


 では、魔力が可燃物質に変換されると考えたらどうだろう。この場合、必要量だけ可燃物質に変換されるのだから、安全性が高く、整合性も取りやすいのではないかと思われるのだが、ここで出てくるのが、かの有名なE=mC^2の壁である。魔力が質量を持った物質とは考えにくい以上、何らかのエネルギーと規定する事になる訳だが、エネルギーから物質を作る為には莫大なエネルギーが必要となる。


 ぶっちゃけて言ってしまえば、わざわざ可燃物質を作り出して燃焼と言う化学反応で光や熱を作り出すよりも、魔力をそのまま光や熱エネルギーに変換して使用した方が遥かに効率が良い訳だ。直接熱への変換は出来ず、物質にしなければならないとすると、可燃性物質を作るより、重水素や放射性元素を作る方が無駄がなく合理的だ。核融合反応や核分裂反応を思い出して貰えば理解できるだろう。ごく僅かな質量の欠損により、燃焼とは桁違いの莫大な熱量を放出するのだから。更に言えば、反物質を作りだし、物質と反物質の対消滅を利用すれば、消滅した物質と反物質の重量の和がエネルギーに変換されるので極めて効率が良い。


 当然、その世界の人達は科学技術が発達していないので、核融合や核分裂、反物質なんて知らないんだよという設定すれば良いのだが、異世界召喚物の場合、異世界人によって作り出された反物質によって世界が破壊しつくされ、原始のエネルギーのみが存在する世界になってしまうかも知れない。あるいは、魔力から物質への変換が出来る事を利用してプラチナや金、銀等好きな物質を量産するかも知れない。核融合や反物質は知らなくとも、貴金属は知っているのだから。


 何れにせよ、魔力が物質を生み出せるほどのエネルギー量を持っているとするのは、整合性を考える上では危険な設定と言えるだろう。


 また、光や熱のエネルギー源として直接的に魔力を変換して使用するのであれば、それは燃焼ではないので、炎をイメージした「火」とは言えなくなる。


 以上から言える事は、魔法とは便利であるのだが、科学と魔法を絡める形で小説に用いる場合、科学の概念と照らし合わせると決して相性が良い物ではなく、整合性が取れるようにするには手間が掛かるという事だ。そもそも生物が存在する環境が前提となっている以上、物理法則を完全に無視する事は出来ようはずがなく、科学的・物理的現象の再現や、実現できない事を魔法で無理矢理行うのだから当然と言えば当然である。



 よって、火の魔法は「燃焼」を元にしていると考えるのではなく、光や熱を発生させる魔法とだけ設定し、魔力を熱エネルギーに変換する際に、魔法を行使する術者のイメージとして、擬似的に燃焼しているかの如くに見せているだけと考えた方がすんなりと説明しやすい。この場合は、科学的な知識より、中二病的想像力の方が重要な因子となるだろうけれど。


 とは言え、この場合でも熱を作り出す方法として、魔力を直接熱に変換するのか、周辺の物質や空間から熱を奪い集める事で熱を作り出しているのか、あるいは他の方法を考えなければならず悩ましい所だ。


 魔力を直接熱に変換しているとすると、冷却によって熱を魔力に変換する事もまた出来る事になる。周辺の熱を奪って集める事で熱を作り出しているのなら、熱交換樹脂やクーラー的な感じで熱交換をして発熱と吸熱を同時に行っていると言える。


 前者の魔力を直接熱に変換している場合、無限に魔力を回復させる事が出来る事になる。小説的には問題となるので、熱から魔力へは変換効率が悪いとか、時間が掛かるとか、或いは、内部魔力と外部魔力を設定して、外部魔力に変換されて内部魔力としては直接取り込めないとか、そのような解釈が必要となるだろう。


 後者の熱交換をしている場合、発熱と吸熱が常にセットで行われる事になるので、火の魔法と言いながら、吸熱(冷却)もその中に含まれる事となる。つまり、火の魔法は、実は温度管理の魔法だったんだ(何だって~!!AA略)となる訳だ。


 面倒がないのは、魔力が直接的に現象に作用するのではなく、精霊や神と言った存在を介して現象として現れると設定する事であろう。精霊や神が都合良く調節して整合性も取ってくれる事になるので、多少強引な物でも説明が付いてしまう。逆に言うと、科学とは切り離された奇跡の行使となるので、科学的な要素は余り絡められなくなってしまうのだけれど。



 つらつらと書いてきたが、魔法は想像の産物と言う事もあり、設定の自由度が高いだけに、こんな事を一々考えながら魔法を設定していたら、小説を書き始められなくなってしまう。その為、多少の無理は承知の上で「何だか良く分からないけれど、この世界の魔法とはそう言う物」として設定するのが無難であり、多くの人がそうしている事だろうし、寧ろそうする事が推奨されるのかもしれない。変に科学を絡めない方が良いよと言う事だ。

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