20.テンプレ設定と設定被りについて思う事
小説家になろうでは、ランキングを見れば直ぐに分かる事だが、俗に言われるテンプレ設定を用いた作品が少なくない。テンプレと言われる以上、設定にある程度パターン化した被りが存在する事は言うまでもないだろう。
言い方を変えると、似通った内容の作品群とも言える分けで、私個人としては「ああ、またか」と思う反面、各作者の個性や実力が如実に現れるだけに、同じ設定を用いてどの様な作品を生み出すのか興味が尽きず、そこにテンプレ作品を読む醍醐味や面白みがある。
その中で残念だと思われる作品は、テンプレ設定自体にそれなりの人気がある事に胡座をかいて描写が稚拙な物、キャラクターの掘り下げが足りない物、まるで歴史の教科書や年表の如くにストーリーが淡々としていている物、テンプレ以外の設定が雑であったり整合性が取れていない物等が挙げられる。端的に言ってしまえば薄っぺらい作品だ。
薄っぺらいとどうなるのかと言えば、設定ばかりが目立ってしまっい、例えば、中身のないゲームのMOBのような、記号のようなキャラクターが、年表の様な粗筋的ストーリーを追っかけているような感じになってしまう。また、設定が甘いとご都合感が強くなったり、話の整合性が取れすに半端ではない違和感を醸し出したりする事になる。その変わりに、話の展開も早く勢いでドンドン読めるし、後に何も残らない読後感となる。テンプレに埋まってしまって印象が薄いとも言えるか。
そして、最悪なのが設定の被りを指摘して、パクリだ、盗作だと騒ぎ出す愚かな連中が湧き易い事かも知れない。本来盗作とは「他人の著作物を自分の著作物として扱う」と言う事であり、違法行為であるので、それなりの基準が存在する。それは、数字で表されるような厳密な物ではないけれども、過去の判例などからみた判断基準としては、単なる共通点ではなく、表現に実質的な同一性が見られるかどうかが基準となっている。つまり、極一部の文字列が同じとか、同じアイデアを使ったかではなく、著者の表現者としての個性の部分を含めた総合的な表現まで見なければならない訳だ。引用符を付けずに、ある程度の長さを超える文章丸ごとコピペした様な場合などが該当する事になる。繰り返しになるが、著作権で保護されるのはあくまでも「表現」であり「アイデア」ではない。
よって、同じ人物が書いたと言う位の表現の同一性がない限り、ちょっと設定が似ているから、話の流れが似ているからと言って軽々に「盗作だ!」といったような事は言ってはならない(違法行為を行ったと指摘するのだから名誉棄損に該当。これは明確な犯罪行為)のだが、残念ながら理性や知性を発揮する事無く「自分が似ていると感じたのだから盗作だ!」と自分ルールで平然と言い放つ輩が後を絶たないのが現状である。嘆かわしい限りだ。
で、実際どの程度被っているからパクリだ!盗作だ!と騒いでいるのかと言えば、テンプレ作品であれば概ね被っていても可笑しくないであろう、比較的頻繁に見られる程度の設定被りでしかないのが実情だ。そして、話の大筋の流れが似ていると特に盗作認定を受けやすい。一端そのように認識してしまうと、被っていない部分は都合良く忘れ去るか、軽々に扱われる。当然表現の同一性などは見られるはずがないのだが、盗作だと騒ぐのである。
※なお、似ていると指摘するのは不法行為の指摘とは異なるので問題ない。
表現の同一性は無視するのに、なぜこの手の輩がテンプレ設定で盗作だと騒ぐ作品と騒がない作品があるのか。その理由の一つとして考えられるのが、中身が薄っぺらなのかどうかなのである。中身が薄っぺらであればある程、設定やストーリーの大筋が悪目立ちする事になる。
キャラクターで言えば、キャラが立っていないという状態だ。人格や性格、価値観、特徴的な言動等、深い所まで掘り下げた描写がなされ、キャラが立っていたら、他作品のキャラクターと同一視される事はない。同一視されないのだから、設定が被っていても気にならない。だが、キャラが立っていなければ、他作品のキャラクターの方がより深い描写が為されてキャラが立っていた場合、設定の被りからその他作品のキャラクタが頭を過ぎる事になる。だから「○○からパクった」と認識される事に繋がるのである。
例えば、小さくて黄色くて電撃を発するという設定のモンスターと言われて何を思い浮かべるだろう。ピカチュウ辺りを思い浮かべる人が多いのではないか。別のキャラクターであったとしても、概ね有名であったり、印象が強く残っている物になるだろう。それ故に、小さくて黄色くて電撃を発するという設定を使うのであれば、それ以外の部分で深く掘り下げた描写を行い同一視されないようにしなければならない訳だ。まあ、余りにも有名な設定であれば、ぴか○ゅうに似ている等とストレートにオマージュである事を示してしまった方が、似ているけれども別物だと示す事が出来るので良いだろう。
ストーリーが似ているというのも同じ理屈でそう認識されいると考えるのが妥当だ。何故なら、ストーリーは大枠の設定によりある程度パターン化されるからであり、テンプレ設定であればその傾向が強くなる。ある程度パターン化されているのに、ある時はパクリ認定され、ある時はされない。結局は中身が薄いか濃いかの違いで、そのストーリーに独自性があると認識されるかどうかが変わってくる訳だ。つまり、他作品のストーリーが頭に浮かぶかどうかの違いである。
後は、ある程度パターン化されているが故に、同時に複数の作品が頭に浮かんだ場合には良くあるテンプレ作品の一つと認識され、一つの作品が浮かんだ場合にはパクリ・盗作として認識される事になる。
では実際に作品を発表して、似ているとか、パクリだ、盗作だと言われた場合はどうすべきか。小説家になろうでは著作権に関しては厳しく運用しているので、駄目な部分があれば警告の上、改善されなければ削除される。※ヘルプの「盗作について」、ガイドラインの「歌詞転載に関して」「二次創作の投稿に関して」を参照の事。
実際に表現をそのまま盗んだのでなければ、盗作やパクリに関しては言い掛かりなので深刻に受け止める必要はない。テンプレ設定を使っている以上、実際問題として設定に被りはあるのだから、リスペクトしている。オマージュしているとでも言っておけば良い。
だが、似ているという指摘は素直に受け容れた方が良い。似ているという事は、内容が薄っぺらであり、キャラクターの名前や固有名詞等が異なっているだけで他作品と違いがなく、独自性がないといわれているのと同じだからである。設定の見直しも方法としてはあるのだが、上述の通り、設定の被り以上にストーリーの大まかな流れの被りや、キャラクターの記号化の方が影響が大きい。その為、被りが気にならないぐらいに話を膨らませたり、話の流れを根本的に変えたり、キャラクターを掘り下げたりして、作品に深みを持たせる為の努力や工夫が必要だろう。
小説を書く上でテンプレ設定を使う事に問題はなく、初心者なら寧ろ推奨される事でもある。何故なら一から全ての設定を考える事は初心者には敷居が高く、良くある設定を用いる事で敷居を下げ、取り敢えず書いてみるという第一歩を踏み出す事が重要だからだ。ただ、設定部分で手を抜いているのだから、薄っぺらな内容にならない様にだけは注意しなければならない。いきなりは無理かも知れないが、幾つもの作品を書いていく中で少しずつ改善していけば良いと思う。テンプレ設定を使う事には、良い面と悪い面がある。その事を踏まえておく事が重要だと思う。




