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「はぁ、わかりましたのでございます」
校門を出て待ち合わせ場所に着いたあたしたち。
待っていた地花ちゃんに、「じゃ、そういうことだから」と言うと、彼女は素直にあたしたちの申し出を受け入れてくれた。
う~ん、兄と違って物分りのいい子で助かった。
「草砂兄がすまきにされている現状を見れば、わたくしがどう足掻いたところで、結局ご一緒する羽目になるのが目に見えておりますでございますし」
はぁ~、っとため息をつく地花ちゃん。
どうやら、諦めのいい子と言ったほうがよさそうだった。
それはともかく、作戦決行だ。
地花ちゃん以外には事前に教室で話してある。そして地花ちゃんにはあらかじめ土柳からメールで連絡してもらってあった。
だからさっきのような会話で、状況を理解してもらえたのだ。
しかし土柳の奴、生意気にもケータイを持っているとは。
くぅ~~~~、あたしや水萌は持ってないってのに。
持っていたら絶対に毎日何十通も水萌とメールするのにっ!
と、それは今は置いといて。
土柳のケータイは、地花ちゃんとお揃いの花柄で可愛いケータイだった。
それをネタに思う存分からかわせてもらったけどさ。くっくっくっ。
と、それも今は置いといて。
ともかく、連絡はついている。作戦としてはこうだ。
地花ちゃんという新たな仲間が増えてはいたけど、いつも一緒に帰っているこのメンバー。
とりあえず途中までいつもどおり一緒に帰る。
危険を回避するなら全員でまとまっていたほうがいいだろうけど、それでは相手の動きに気づけるかどうかわからない。
それに、大勢で一緒にいたらきっとストーカーだって警戒するだろう。
なので、二手に分かれることにした。
あたしと水萌が、買い物に行きたいからと商店街のほうへ寄り道する。
他のメンバーは、それじゃあここで、と言って別れる。
で、あたしたちふたりのあとを、かなり離れた場所から追いかけてきてもらうのだ。
ストーカーがいるなら、少なくともあたしたちが視界に映る範囲内に隠れているはず。
そう考えて、買い物ルートをあらかじめ決めておき、あたしたちが視界から少し外れるくらいの位置を保ったまま、辺りの様子をうかがってもらうことにした。
怪しい動きをする人がいれば、これできっとわかるだろう。
離れて様子を探る土柳兄妹とフーミンの三人のほうこそ、不審人物と間違われるかもしれない、という心配があるのは事実だ。
職務質問くらいはされるかもしれないけど、そこはそれ、捕まるのはあたしじゃないからOKってことで。
☆☆☆☆☆
そんなわけで、水萌とふたりきりの時間をしっかりゲットしたあたし。
なんて手放しで喜んでいられる状況ではないのだけど。
とりあえず、こちらはあくまでも、おとりだ。
周りに注意しつつも、不自然さを出さないようにしなければならない。
「わぁ~熱希ちゃん、見て見てぇ~! このぬいぐるみ可愛いよぉ~!」
子犬のぬいぐるみを手に取って頬にすりすりしている水萌。
うんうん、可愛いよぉ~。水萌がねっ。
「わぁ~熱希ちゃん、見て見てぇ~! この服、可愛いよぉ~!」
今度はひらひらのついたワンピースをうっとりと眺める水萌。
さすがに洋服に頬をすりすりしたりまではしていないけど。
うんうん、ほんと、可愛い可愛い。そんな服を着た水萌を想像しただけで、あたしは思わず顔が緩んじゃうよっ。
こんな感じで楽しいひとときを過ごしているうちに、すぐ夕方になってしまった。
当初の目的をほとんど空の彼方にすっ飛ばしてしまいそうになりながらも、あたしはどうにか、たまぁ~~~に思い出して辺りの様子をうかがっていた。
その結果、やっぱりこそこそ隠れているような人影を確認することができた。
あたしも水萌もケータイを持っていないので、みんなと連絡はつけられないけど、ここは当初の予定どおりに行動しよう。
ひとしきり商店街を回ったあと、あたしたちは家路に就く。
今日も続けて水萌の家に泊まったりしたら不自然かもしれないから、あたしは自宅へと戻ることになっていた。
「それじゃ、また明日ね!」
「うん、また明日ぁ~」
あたしと別れたあと、水萌はひとりきりになってしまうけど、彼女を視界に捉えられる範囲で三人組が隠れて追跡する手はずになっている。
家に入る前に、こそこそ隠れて歩いている三人組の姿が確認できた。
うんうん、ちゃんと役目を果たしているようね。
もし水萌に危険が及ぶようなら三人で助けること。これは絶対! そう念を押してあった。
念には念を入れて、ふと目が合った土柳を睨みつけておく。
ひぃっ、と小さく悲鳴を漏らし怯えた目をする奴を見て、あたしは満足しながら玄関に入った。
このあとは、水萌が家に着くまで追跡したらフーミンは自分の家に帰り、土柳兄妹はそのまま水萌の家の周りで様子をうかがい続けることになっている。
土柳だけだと怪しいと思われるだろうから、地花ちゃんも一緒に、ということにしてあった。
もっとも、それでも怪しいだろうけど。
さらに、フーミンが家に着いたら、あたしの家に状況報告のための電話をかける。
ケータイを持っている土柳兄妹に報告を任せなかったのは、もしストーカーに見つかっていたら、電話をした時点で危険が迫る可能性もあると考えたからだ。
玄関を上がったあたしは、部屋にカバンを置くとすぐに電話の前に陣取り、今か今かとフーミンからの連絡を待っていた。
うう~~~、待っている時間って、ほんと長い。
ああ、こんなことをしているあいだに、水萌が危険な目に遭っていないだろうか。
そんな心配ばかりが浮かんできて、そわそわしながら電話の前を行ったり来たり。
弟が腫れ物に触れるような目で見ながら、あたしを避けるように廊下をすり抜けていった気がしたけど、そんなの今のあたしの眼中にはなかった。
ジリリリリリリリリン。
電話が鳴った。
あたしは最初の呼び出し音が途切れる間もなく、今どき珍しい黒電話の受話器を手に取る。
「遅い!」
「うあ、いきなりなんなのだ。ウチはこれでも大急ぎだったのだよ?」
あたしの剣幕に、さすがのフーミンもたじろいでいるようだった。
と、そんなことより報告だ。あたしはフーミンから今日のことを話してもらった。
あたしたちが商店街をうろついているあいだ、やはり怪しい人影が隠れて見ているのがわかったとのこと。
しかも、それはひとりではない。
何ヶ所かに分かれて、数人いるようだった。
「ひとりじゃないの? それって、ストーカーではない……ってことなのかな?」
「う~ん、よくわからないのだ。でも、怪しい奴らが水萌ちゃんをこそこそ隠れて見ていたのは確かなのだ」
複数の怪しい人影……。
これって、あたしたちの手に負える事態なのだろうか?
フーミンの報告は、まだあった。
あたしと別れたあと、水萌はひとりで歩いていたけど、そのときも水萌をうかがう人影の存在を確認することができたそうだ。
今までずっと、水萌があたしとふたりでいるときに気配を感じていた。
もしかしたらあたしのほうが狙われているのでは、という可能性も考えていたのだけど……。
これで奴らの目的が水萌だということもはっきりした。
「水萌、今、大丈夫かなぁ……?」
「それは大丈夫だと思うのだ。土柳兄妹も監視してるのだし。もしなにかあったら、ケータイでウチの家に連絡する手はずなのだ。電話中にかかってきてもキャッチホンでわかるから、電話は来てないってことなのだよ」
「そっか。でも、心配だなぁ……」
ああ、今すぐにでも水萌のもとへ飛んでいきたい。
「心配だからって、夜に水萌ちゃんの家まで行ったりしちゃダメなのだよ? 熱希ちゃんが危険な目に遭うかもしれないのだ」
あたしの考えを読んでいるかのように、フーミンが釘を刺す。
「……わかってるよ」
「よろしい。おそらく家の中にいれば水萌ちゃんも安全なのだ。だから、軽はずみな行動は慎むのだよ」
「うん」
「それじゃあ、そろそろ切るのだ。土柳のケータイにも電話をかけて合図しないといけないし。三秒くらい鳴らして切るのが終了の合図にしてあるのだ。いくらなんでも、徹夜で監視させるわけにもいかないのだよ」
「ん、そうだね。それじゃあ、よろしくね」
あたしは不安を抱えたまま、電話を切った。
ああ、水萌、大丈夫かなぁ。
その夜は、心配しすぎてなかなか寝つけなかった。




