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「あっ……」
教室に入ると朝のホームルームはもう終わっていた。
それはべつにいいのだけど。
一時間目の授業が始まるのをぼーっと待っているとき、あたしはふと気づいた。
地花ちゃんと会ったことで、すっかり忘れていた。水萌をつけ狙うストーカーの件を。
大切な水萌に関する、こんな大切な、というか大変な話を忘れてしまっていたなんて。
あたしのバカバカバカ!
ともあれ……これはじっくり腰を据えて話したほうがいい内容。短い休み時間では話しきれないに違いない。
だったらここは、昼休みを待ってから話すべきだ。それまでに、頭の中で考えをまとめておこう。
あたしは、そう決めた。
そんなわけで午前中は授業に集中できなくて、ぼけーっとしているのを見咎められて先生に怒られたりしたのだけど。
「まったく、あんたはいつもいつも……」
なぜどの先生にも、「いつも」と言われるのだろうか。謎だわ。
集中しようがしまいが、時間というものは一定の速度で流れていく。
というわけで、昼休みになった。
あたしたちはいつも、昼食時には食堂を利用している。
フーミンはお弁当派なのだけど、それでもあたしたちと一緒に食堂で食べる。
今日もいつもどおり、四人で席を取った。
そう、どういうわけだか、土柳の奴までもがあたしたちと一緒にお昼を食べているのだ。
女子の集まりの中に男子が入ってくるな! とあたしは怒鳴りつけてやったのだけど。
まぁまぁ、いいじゃない~、大勢のほうが楽しいよぉ~、なんて水萌に笑顔で言われたら拒否なんてできなくなってしまうってものだ。
と、土柳の奴のことなんてどうでもいい。
今はストーカーの件を話し合わないと。
他の生徒の声でうるさい食堂で話すのもどうかとは思ったけど、逆に喧騒に紛れていいかもしれない。
「ストーカー?」
あたしがテーブルに身を乗り出して小声で話し始めると、他の三人も同じように身を乗り出し小声になる。
本当はすぐにでも話したかったけど、一応みんなが食べ終わるのを待ってから話し始めた。
そうでないと、こんなふうに身を乗り出したら、制服のリボンやネクタイが、ラーメンやらうどんやらお味噌汁やらに浸かっちゃうからね。
「うん。確信はないんだけど、なんか、水萌のあとをつけてるみたいだった」
「……という話をすれば、自然な流れで水萌ちゃんの家にお泊りできるから、そんな嘘をついた。というわけではないのだね?」
フーミンのツッコミに過剰に反応するあたし。
「な、なんであたしがそんなことするのよ! ……でも、結構いい作戦かも……」
後半に思わず本音がだだ漏れしていたのはご愛嬌ってことで。
「……ま、炎壁にはなにも言うまい。とりあえず、詳しく話せよ」
真剣な顔でそう言う土柳。親身になって話を聞いてくれる姿勢がうかがえる。
実は案外いい奴なのかもしれない。
あたしの中の土柳のポイントがマイナス三万ポイントから一気にマイナス五百ポイントくらいまで急激にアップした感じだ。
とにかく、あたしは昨日の帰りに感じた気配と、水萌の部屋から見えた人影のことを、みんなに詳しく語って聞かせた。
「熱希ちゃん~~、本当にそうなのぉ~? 怖いよぉ~」
怯える水萌。
こんな表情にさせたくないから、話したくはなかったというのが正直な気持ちだった。
でも、足りない頭で考え抜いた末、あたしはすべて正直に話そうと結論づけていた。
なにか起こってしまってからでは遅いのだから。
もっとも、水萌は絶対にあたしが護るつもりでいるのだけど。
「大丈夫、あたしがついてるよ」
「うん~……」
横に座っていた水萌が、あたしの腕にすり寄ってくる。
「ふ~む。それだけだと、熱希ちゃんの気のせいという可能性も捨てきれないのだ」
「そうだな。念のため、沢湖さんが危険にさらされないように充分注意すべきだとは思うけど、まずは本当にそんな人影が存在するのか、確認するのが先決だな」
水萌と違って、他のふたりは冷静だった。
「じゃあ、今日の放課後、いろいろ寄り道しながら確認するといいのだ」
「ああ、そうだな。頑張れよ」
がしっ。
あれだけ親身に聞いていたのに、今さら逃げようとする発言を吐きやがった土柳を、あたしは後ろから羽交い絞めにして首を決める。
「あんたも、協力するんだ!」
「いや、その、今日はさ、妹と散歩に行く約束が……」
「妹と散歩って……。ツッコミどころだとは思うけど、ま、それはいいわ。ともかく、散歩と言えなくもないんだから、妹さんもあたしたちと一緒に来ればいいじゃない」
あたしの提案に、
「どうしてそうなるんだ!」
などと土柳は異論を唱えやがった。
もちろんここは多勢に無勢、民主主義の正しい解決法、多数決によって問答無用という流れとなったのは言うまでもない。




