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あれからもう八年。
あたし、炎壁熱希は高校二年生になっていた。
県立の共学校で、レベルとしては中の上くらいだろうか、ぎりぎり進学校と呼ばれるか呼ばれないか微妙なラインである林原北高校に通っている。
「おはよ~!」
教室に入ると仲のよいクラスメイトと軽く挨拶を交わしつつ、自分の席に着く。
「あっ、おはよう~、熱希ちゃん」
優しい笑顔を向けて挨拶してくれたのは、大切な親友である沢湖水萌。
彼女はあたしのひとつ前の席に座っていた。
「ん、おはよ~! 今日も笑顔全開ね!」
「うふふっ」
あたしと水萌は、小学校三年生で一緒になって以来、ずっと同じクラスが続いている。
水萌を護ると誓いを立てたあたしとしては、とても嬉しいことだった。いっときたりとも水萌と離れていたくない、そう思っているのだから。
水萌と同じ高校を受験したのも、その思いからだった。
あたしにはちょっとレベルが高い高校ではあったけど、水萌と一緒にいたい一心で頑張ったのだ。
でも同じ高校に入れたとはいえ、クラス分けなんて、いくら望んだって思いどおりになるものじゃない。
それなのに、一年も二年も同じクラスになれた。
だからこれは運命なんだ、神様があたしと水萌の仲を取り持ってくれているのだ、とまで思っていたりする。
「キミたちは、相変わらず仲がいいのだ。もう、ラブラブって感じなのだ」
不意に後ろの席から声がかかる。
この変な喋り方。さすがにもう慣れたけど、彼女も小三のときからずっと一緒のクラスの腐れ縁、フーミンこと涼城風民だった。
ああ神様。どうしてこの子までずっと一緒なの?
「誰もふたりのあいだに割って入ることはできない、って感じだな。もっとも、暑苦しいからあまりイチャイチャしないでほしいけど」
さらにあたしの隣の席からも声がかかる。
こいつは土柳草砂。
ほんっとに嫌な運命だと思うのだけど、この男も小三からずっと一緒のクラスだった。
水萌をよくいじめていた男子たちのリーダー格だった奴だ。
神様って意地悪だ。こいつまで一緒だなんて。拷問かなにかですか?
ともあれ、さすがに今でも水萌をいじめているなんてことはない。
高校生にもなったのだから、当たり前だけど。
だいたいあの頃だって、気になる女の子にちょっかいを出してからかっているだけだったんだろうし。
だけどそれは、あたしにとっては無視できないこと。
おそらくこいつは当事、水萌のことが好きだったはずだ。
今でもその想いが続いているのかはわからないけど、事あるごとに水萌に話しかけようとしている気はする。
というわけで、油断のならない奴なのだ。
あたしとしてはそう思ってはいるのだけど、なぜか以上四名、いつも一緒にいることが多い。
仲よし四人組などと呼ばれたりもしている。
その中でもとくにあたしと水萌は、女同士だけど友達以上の関係と噂されるほどの仲のよさと評判。
若干、呆れられている感もあったりするけど、そこはそれ。べつにあたしは気にしない。
もちろん水萌も、いつもながらのほんわか笑顔で、気にするはずがなかった。
おとなしめでいつも笑顔の水萌。
ただ、ちょっと抜けてるというのか、ずれてるというのか、いわゆる天然ってやつなのだろう。
あたしですら、水萌の会話の展開にはついていけないことがあった。
それでも、あたしにとって水萌は、唯一無二の親友なのだ。
だというのに、どうしていつも四人ひとまとめで見られてしまうのか。
ちょっと納得のいかない部分もありつつも、安穏と楽しい高校生活を送っているのだった。
「イチャイチャなんて言うな! 親友同士の神聖なる友情を汚すような言い方をするんじゃない!」
あまり気にしてはいなかったものの、土柳に言われるとなんだか無性に腹が立つ。
あたしは、いつもどおりの鬼の形相で言い返した。
なぜかこいつに話しかけるときは、そんな怒りの表情が多い気がする。
ま、これも運命だと思って諦めてもらおう。
「うぐぐ……。鬼ババめ……!」
「鬼ババ言うな!」
「ひぃ!」
土柳は今でもあたしを鬼ババ呼ばわりすることがある。こんな表情で凄んでいるのだから、自業自得と言えなくもないけど。
とはいえ、さすがにそんな言い方をされては、気分のいいものではない。
さらに怖い形相を作り出して怒鳴りつけるあたしに、怯えた真っ青な顔になって悲鳴を上げる土柳だった。
ふっ……、勝った。
案外、根性のない奴なのだ、こいつは。
と、そんな様子を、ほのかな笑顔を浮かべて眺めている水萌に気づく。
「水萌! なにニヤニヤしてるのよ!?」
「うふふ、熱希ちゃんと土柳くんって、ほんとに仲がいいなぁ~って思って見てたのぉ~」
にこにこにこ。
そんな嬉しそうに変なことを言わないでよね!
「あのねぇ、いったいどこをどう見たら、仲よく見えるのよ!?」
「そうだそうだ、こんな鬼ババなんかと仲よくできるわけが……」
「なんか言った!?」
ギロリッ!
再びの鬼ババ呼ばわりに、睨みを利かすあたし。
「ひぃ~!」
土柳はまたしても、悲鳴を上げて縮こまった。
「きゃははっ! 完璧に、息ピッタリの夫婦漫才にしか見えないのだ!」
「フーミン、あんたまで! 殴るよっ!?」
「ぎゃ~っ! もう殴ってるのだ! 暴力反対~!」
「ふふふ」
今日も教室内には、主にあたしたち四人のじゃれ合う声が大きく響いていた。




