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スマイルプロジェクト ~その笑顔、国家機密につき~  作者: 沙φ亜竜
第6章 スマイルプロジェクト
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-3-

「いや、それは無理だ」


 突然、部屋の扉が乱暴に開けられ、声が響いた。


「な……なんだ!?」


 アマサギさんが叫ぶ。

 でもその叫びに答えることなく、部屋の中に入ってくる数名の黒いスーツを着た男たち。

 最初に入ってきて声を発した男性は、おそらく氷室と同じくらいの年齢と思われる、茶色のスーツに身を包んだダンディな印象の紳士だった。

 その横には、同じくらいか少し年下だろうか、女性が寄り添うように立っている。


「お前たちはっ……!」


 立ち上がった氷室の表情が固まる。

 あたしは思い出した。デパートの屋上で水萌を助けてくれた黒スーツの集団のことを。


 水萌を助けてくれた人はあのとき、あたしが訊いた「SPのかたですよね?」という問いかけに、「ああ」と肯定した。

 つまり――。


「あなたがたは、本当のSP……セキュリティポリスなんですね!?」


 あたしの声に答えてくれたのは、最初に部屋に入ってきた男性だった。


「うむ。そういうことになるな」


 黒いスーツの男たちが身構える。

 その手に握られているのは――拳銃だ!

 素早く、アマサギさんやグレースーツの男たちも応戦の構えを取る。

 あたしたちを縛りつけていたロープは、ようやく彼らの手から離された。


「君たちは外へ!」


 黒スーツのひとりが叫ぶのと同時に、部屋にはグレースーツの男たちがさらになだれ込んできていた。


「くっ、ダメか! 君たちはその辺に隠れていなさい!」


 言い直した黒スーツの人は拳銃を構え、そして、撃つ。

 あくまでも威嚇のつもりなのだろう、天井付近を狙った銃弾はそのまま壁に穴を開けた。


 あたしたちは言われたとおりに身を隠す。

 置かれていたソファーの陰に身を寄り添わせるようにして倒れ込んだ。

 ロープをつかんでいた手は離されていても、あたしたちはいまだ縛られたまま。自由に身動きできるわけではない。

 今は黒スーツの人たちを信じて、状況を見守るしかなかった。


 グレースーツの男たちも、何人かは銃で武装していた。

 氷室本人も、拳銃を机の中にでも忍ばせてあったのだろうか、黒スーツに応戦している。

 銃声が鳴り響く。


 どちらも無闇に銃を撃ちまくるわけではなかった。

 黒スーツのほうは、セキュリティポリスとはいえ日本の国家機関。滅多なことでは銃の使用や、ましてや射殺までは許可されないのだろう。

 やむを得ない場合や身を護るために仕方なくという状況なら別だろうけど、それでもなるべく穏便に事を済ませるように指示されていると考えられる。


 一方のグレースーツたちの銃は裏のルートで調達したものだろう。

 ここは奴らの本拠地、人数としては黒スーツよりも倍以上と多いものの、銃を持つ者はその一部。銃弾もそれほど多くはないと思われる。


 威嚇しながら様子をうかがっている両陣営。

 あたしたちの横には、最初に入ってきたダンディな男性とその横に寄り添っていた女性が身を屈めていた。


「安心して私たちに任せなさい。彼らは訓練されているからね、大丈夫だよ」


 そう言いながらも、男性の額には汗がにじんでいる。

 冷や汗、だけではないかもしれない。実際に部屋の気温は急激に上昇していた。


 銃撃が窓ガラスも撃ち抜いたのだろう。

 割れた窓からは、蒸し暑い空気が流れ込んできていた。

 時刻としてはおそらく夕方になっているはずなのに、じっとりと蒸し暑い嫌な風が、あたしたちを包み込む。


 男性の言うとおり、確かに黒いスーツの彼らは訓練を受けた統率力も発揮し、グレースーツの男たちの持つ銃を狙うなどして状況を有利に導こうとしてはいる。

 ただグレースーツの数は多く、それに加えてここは奴らの本拠地だ。いわば黒スーツにとっては、アウェーでの戦いになる。


 やたらに銃を撃てない以上、飛びかかって取っ組み合いになることは必至だった。その優劣を考えるとグレースーツに分がある。

 また、グレースーツには大柄な男が多かった。

 力負けしている感じだろうか、黒スーツたちが徐々に圧されてきているのは素人のあたしにでもわかった。


 このままじゃ、ヤバそう……。

 こんな状況下だというのに、意外と冷静に、あたしはそう思った。


 どうにか形勢を好転させないと……。

 なんとか奴らの気を引くことが、できないだろうか?

 あたしは必死に考えを巡らせていた。


 でも、縛られているあたしたちには、できることなんて……。

 口は使えるのだから、叫び声を上げるとか?

 いや、ダメだ。

 こんな状況の中じゃ、大した効果は出ないだろうし、もし上手く声を響かせたとしても、グレースーツだけでなく、黒スーツの人たちにも注目されてしまう。


 どうにかしてグレースーツの男たちだけ注意を逸らすしかない。

 だけど、そんなの、どうすれば……。


 そのとき。


 ドガッ!!


 取っ組み合いになっていたのだろうか、ひとりの黒スーツの男が飛ばされ、あたしたちが身を潜めていたソファーに激しく音を立ててぶつかってきた。

 ソファーが倒れたりまではしなかったけど、その裏に隠れていたあたしたちにも衝撃が及ぶ。


「ぐっ……」


 土柳のうめき声が聞こえた。

 自分の身を挺して、妹の地花ちゃんを護っていたのだ。


「なんか、ヤバそうなのだ……」


 フーミンもあたしたちのすぐそばに身を横たえていた。

 ほぼ同じ視点から周囲の状況を見ていたのだろう、あたしと同様の感想を漏らす。


 気づくと、あたしの真下には水萌がいた。

 先ほどの衝撃で、あたしが水萌の上に乗っかる形になっていたようだ。

 すぐ目の前に、水萌の顔がある。


「熱希ちゃん、重い~」

「こら水萌、重いなんて言うな!」


 蒸し暑い空気のせいで、うっすらと汗が浮かんでいる水萌。少し濡れた髪が額に張りついて、また熱気のせいかほんのりと上気した頬には赤みが差し、ほどよい色っぽさを演出していた。

 あぁん、この子、やっぱり可愛い……。

 って、そんな場合では……。


 ……と、そうか!


「水萌……」


 あたしは小さく名前を呼びかけ、

 水萌の唇に、自分の唇を重ねた。


「ん……」


 一瞬、驚いて目を見開いた水萌だったけど、すぐに目を閉じる。

 ドキドキと鼓動が高鳴る。あたしと同じように、水萌もドキドキしているのが、密着した肌から伝わってくる。

 あたしは部屋に響く喧騒の中、水萌と激しくキスしていた。


「うぁ……こんなときにまで……。さすがなのだ……」


 フーミンのつぶやきが聞こえた。

 なんか、これがいつもどおりのあたしたち、っていうふうに思ってない?

 違うのよ? さすがに、ここまでしたのは初めてなのよ?


 なんて反論している暇はない。

 あたしは縛られたままの体を激しく揺さぶりながら、キスし続ける。

 暑い風が流れ込む現状、汗もだらだらと流れる。そんなのはお構いなし。

 というより、それもあたしの考えのうちだった。


 あたしたちがそんなことをしているうちに、戦いは混乱の度合いを増していた。

 すでに銃弾も少なくなってきたのか、双方入り乱れての取っ組み合い、殴り合いが主になっている。


 とはいえ、やはり多勢に無勢、黒スーツたちの消耗は激しかった。もう限界に近いのかもしれない。

 この様子では、援軍が期待できるわけでもないだろう。

 黒スーツたちにも、危機感が湧き上がっていた。


 そこへ。


 ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 けたたましい警告音が鳴り響く。


 そう、水萌の腕に巻いてあった腕時計のアラームだ。

 水萌は律儀に今日もそれを身に着けていた。

 後ろ手に縛られているから、今は背中の下敷きになっている状態だけど。


 血流量の増加と体温の上昇によって鳴るというアラーム。

 そのために、あたしは水萌とキスをして体温を上昇させようとした。

 ドキドキして血液の流れも速くなるし、赤くなるのだから体温だって上がるはず。

 ダメ押しで身をよじって、摩擦と密着によっても体温の上昇を図る。

 そういう作戦だったのだ。


 あくまで作戦、だよ? 決して自分の欲望のためとかじゃないよ?

 ……そりゃまあ、楽しかったのは確かだけど。


 ともかく。

 部屋中にアラームの音が鳴り響く。


「なんだ、この音は!?」


 男たちは焦りの表情を浮かべながら、何事かと周囲を警戒する。

 もちろんそれは黒スーツたちも同様だったのだけど。


「ヤバいんじゃないか!? 逃げないと、巻き込まれるぞ!」

「いや、しかし、今は……!」


 アラームの警告する意味を知っているグレースーツたちのほうが、鳴り響く音に過剰に反応し、より大きな焦りを生み出した。

 その違いは、大きかった。

 そしてそんなチャンスを見逃す黒スーツたちではなかった。


 ダッ!


 素早く動き、戸惑っているグレースーツの男たちのみぞおちを殴る、腕を後ろに回してつかみ壁に押し当てる、首の後ろに手刀を打ち下ろす、拳銃で頭を殴る。

 あらゆる手段で、グレースーツの男たちを圧倒していった。

 バタバタと倒れていくグレースーツたち。

 まさに、一瞬の出来事だった。


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