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嬉々とした表情で、地下研究室とその奥の倉庫を探っているアマサギさんたち。
あたしたちのそばでは、地花ちゃんが渋い顔をしていた。
「もしかしたらわたくしたちは、とんでもないことをしてしまったのかもしれませんです」
「うん、僕もそう思う」
「確かにおかしいのだ。この人たちは、水萌ちゃんのご両親の研究を、土足で踏み荒らしている気がするのだ」
あたしたちの思いは、ひとつになっていた。
今の状況は、明らかにおかしい。
でも、そう考えながらも、現状をどうすることもできないでいた。
そんなあたしたちの表情を見て取ったのだろう、アマサギさんがこちらに顔を向ける。
その顔は、ランプの光のせいなのか、あたしたちの気持ちの問題なのか、醜く歪んでいるようにさえ思えた。
「ふっふっふ、ご苦労だったね、君たち」
ゆっくりと、アマサギさんは口を開いた。
「秘密の研究室があるのではないかというのは、以前から考えていたんだ。この家も何度か調査していたんだけどね、どうしてもこの場所を見つけられなかった。だけど君たちのおかげで、こうして極めて重要な資料の数々に出会うことができた。礼を言うよ」
「……ここにある資料で、水萌を治すことができるんですよね?」
なんとなく、彼らの目的がそこにはないことを感じながらも、あたしは訊いた。
「そうだな、そういう資料もあるかもしれない。だが、それよりも我々にとって重要な資料が、ここにはあるはずなんだ」
そう言い放つアマサギさんの瞳からは、これまであたしたちに向けられていた、君たちのことは護るよ、という優しい雰囲気は微塵も感じられなかった。
「……水萌ちゃんを護るためのスマイルプロジェクトという国家機密組織……そのアマサギさんたちにとって、水萌ちゃんを治すこと以上に重要な資料って、いったいなんなのだ?」
フーミンが、身構えたまま尋ねる。
おそらくはフーミンも覚悟しているのだろう。返ってくる答えが、あたしたちにとってよくないものになるということを。
「ふっふっふ。もうなんとなく気づいているんじゃないか? まぁ、俺の口からはっきりと言ってやろう。俺たちは国家の機密組織なんかじゃないってことさ」
「騙していたのでございますですか!?」
「そういうことになるな」
地花ちゃんの言葉をあっさりと認めるアマサギさん。
「とりあえず、ちゃんとした調査はまた後日でいいだろう。適当にいくつかの資料を持ち帰って報告するぞ。おい、こいつらを捕まえろ!」
アマサギさんの声に、SPの人たち……、いや、SPではないってことになるのか、ともかくグレースーツの男たちが動く。
彼らは怪しい、それは感じ取っていたあたしたち。
とはいえ、所詮は大人と子供。あたしたちがまともに抵抗できるすべはなかった。
あたしたちは男たちによって捕らえられ、後ろ手にロープで固く縛られる。
男たちはそれぞれのロープをしっかりと握った上で、あたしたちが逃げ出さないように周囲を取り囲んだ。
「くっ……! 水萌に変なことしたら、許さないからね!」
こんな状況ではあったけど、あたしは奴らを睨みつけて怒鳴った。
危険があるかもしれない。それはわかってはいたけど、あたしにとっては自分よりも水萌のほうが大切なのだ。
「相変わらず威勢のいい子だ。安心しろ、今は危害を加えたりするつもりはない。お前たちは本部に連れて帰る。ボスへの土産としては、資料だけでも充分なんだけどな。生きた実験体も喜ばれるだろう」
☆☆☆☆☆
あたしたちは地下室から連れ出されると、水萌の住んでいた古い家を離れ、田舎の山道を歩かされた。
無論、縛られたまま。
歩かせるために足までは縛られていなかったものの、こんな方角もわからない山道では、仮に逃げたとしても助けを呼ぶ前に迷って力尽きてしまうに違いない。
それに、水萌を残して自分だけ逃げるなんて、そんなことあたしには絶対にできなかった。
彼らは黙々と歩いていた。
いくつかの資料を小脇に抱えたアマサギさんを先頭に、シラサギさんも資料を持ってその横に並んで歩いている。
その後ろに手下のグレースーツの男たちが並び、あたしたちを縛ったロープを引っ張っている。
ふと地花ちゃんに視線を向けると、泣きそうな表情になっていた。
「大丈夫だよ、地花ちゃん。あたしたちがついてるから、ね?」
あたしは元気づけてあげようと、そう言った。
だけど、地花ちゃんは怖がっているわけではなかった。
「いえ、違うのでございます。今さらではございますけれど、最初にアマサギさんを捕まえたときから、おかしいとは思っていたのでございますです。いくら不意打ちを食らったからとはいえ、子供のわたくしたち相手に、あっさりと捕まって神妙になっておりましたですし……」
地花ちゃんは小声で語る。
小声とはいっても、おそらくアマサギさんたちにも聞こえていただろう。それでも、彼らは口を挟まなかった。
「その後もずっと注意して見ておりましたのですが、このところついつい油断してしまっていたのでございますです。わたくしがもっとしっかりしていたならば、こんなことにはならなかったかもしれませんのでございます。ごめんなさいなのですよ……」
涙をぽろぽろと流しながら、地花ちゃんは後悔の念をしぼり出していた。
「地花ちゃんのせいじゃないよ……」
「そうだぞ」
地花ちゃんを慰めるあたしの言葉に、土柳も言葉をつなぐ。
「そうそう。全部土柳が悪いんだから!」
それが土柳だったからか、思わずいつものノリが出てしまった。
「なんでだよ!」
素早くツッコミを入れてくる土柳。
「きゃははっ! ウチらの中で唯一の男子なのに、全然頑張ってくれないからなのだ!」
「むむっ、僕は僕なりに頑張ってるんだぞ!?」
「え~? そうなの~? でも絶対目立ってないよね、土柳って。中学生の地花ちゃんのほうがあたしたちの仲間ってイメージが強いくらいだし。土柳は、いわばオマケって感じ?」
「オマケって、さすがにひどいだろ!?」
「うふふ~。オマケつきのお菓子は、大好きよぉ~」
水萌が相変わらず、すっとぼけたことを言う。
そんなやり取りを聞いていたからか、地花ちゃんの表情もいつの間にか緩んでいた。
と、前方からツッコミが入る。
「おいおい、捕まってるってのに、うるさい奴らだな」
グレースーツの男が黙っていられなくなり思わず口走ってしまったようだ。
「こら、口を挟むな。さて、もうすぐ着くからな」
男を叱責するアマサギさんの声が響く。
その言葉と合わせたかのように視界が少し開け、山あいの森の奥にあるこんな場所に、高く青々と繁った木々に覆われた一軒の洋館が姿を現した。
薄汚れた感じで、ちょっと不気味な印象さえ受ける。
「あっ、ここは……」
水萌がつぶやいた。
「思い出したわぁ~。何度か遊びに来たことがあったの~。ここは、おじ様のおうちだよ~」




