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-3-

 さて、それから数日後。

 大掃除などもすべて終わり、一学期の終業式。

 今あたしたちの教室では、恒例の行事が執り行われていた。

 そう、地獄の通知表受け渡しの刑が……。


「熱希ちゃん、どうだったのだ? 見せるのだ見せるのだ!」


 フーミンがニヤニヤ顔で訊いてくる。

 というか、すでにあたしの手から勝手に通知表を奪い、眺め始めていた。

 同様に水萌や土柳の通知表まで机の上に並べられ、その中身をさらしている。

 みんな、テスト二日前まであたしと一緒に遊び回っていたわりには、通知表の数値にも全然問題なんてなさそうだった。


 ……あたし以外は。


 くそぉ、なんでみんな、そんなに勉強できるんだ。

 うちの学校は五段階評価。水萌は体育以外ほとんど四以上とかなり優秀な成績だった。

 フーミンや土柳も、すべて三以上で、平均より上くらいの成績は取っているようだ。


 それに比べて、あたしの通知表に並んだ二の数字の多いこと……。

 ちなみに、一だと問答無用で夏休みの補習となる。それが避けられたのだから、よしとしなくては……。


「熱希ちゃんは、相変わらずなのだ……」

「そうだな……」


 フーミンと土柳が哀れみの眼差しを向けていた。うう、そんな目で見ないで……。

 う~ん、でもこの成績じゃ、さすがにお母さんに怒られるかなぁ……。


 ともあれ、もう過ぎたこと。悩んでいたって、成績が変わるわけじゃない。

 あたしは綺麗さっぱり忘れることにした。



 ☆☆☆☆☆



 ということで、翌日。

 待望の夏休み初日。

 今日は曇り空で風もあり、夏にしては比較的涼しい陽気だった。


 とりあえず、公園に集合!

 あたしはそう言って、いつもの面々に召集をかけていた。

 夏休みの予定でも立てよう、という目的だ。

 そんなの終業式までに学校で相談しておけばいいのに、と思われるかもしれないけど、これがあたしたちのスタイルなのだ。


「お待たせ致しまして申し訳ありませんでしたのです」


 ぺこり。深々と頭を下げる地花ちゃん。


「遅れて悪かったな」


 その隣では土柳が誠意のこもっていない声を放っていた。

 べつに遅れてきたことを咎めるつもりなんてなかったのだけど。

 地花ちゃんとの対比で、こいつの態度が微妙に許せなくなる。


「遅いぞ! もっと気合い入れて来い! 水萌を待たせるなんて、何様のつもり!? 蹴り入れるわよ!」

「いや、すでに入れてるのだよ」

「そ、そうだよ……! だいたい、何様のつもり、って、お前こそ何様の……」


 珍しく反論してくる土柳をギロリと睨みつける。


「ひぃ!」


 言いたいことを言い終えないうちに、怯え始める土柳。

 ふん、勝った!


「相変わらずなのでございますですね。草砂兄がどんどん惨めになっていくようにすら感じますですよ」

「そういう役割だから、いいのではないのかな?」

「うふふ、結構楽しそうだよねぇ~」


 口々に勝手なことを言う面々。


「楽しいわけあるか~!」


 土柳の叫び声が寂しくこだましていたけど、それもよくある日常のひとコマだった。




 ☆☆☆☆☆



 涼しい陽気とはいえ、夏の定番スタイルということで、あたしたちはアイスを食べながらベンチに座って話していた。


「せっかくだしぃ~、どっか行きたいよねぇ~」

「夏といったら海なのだよ」

「山も捨てきれないのでございますよ」

「子供なのになかなか渋いね地花ちゃん」

「子供と言わないでくださいませです。これでも中学生なのでございますですよ」

「でも、そうだな。山がいいと思うぞ!」

「む、なんとなく気づいちゃったのだ。土柳っちはカナヅチなのだな?」

「ギクッ!」

「あらぁ~、それは大変ねぇ~」

「ふっふっふ、んじゃあ、海に決定!」

「ぐあ~~~、鬼がいる!」


 ってな感じで順調に(?)話は進んでいく。

 と、音も立てずあたしたちのそばに滑り込んでくる人影があった。

 その人影は、屈んで目立たないようにしながら、小声で喋り出した。


「失礼致します。私、SPのシラサギと申します」


 それは女性だった。

 でも、グレーのスーツに身を包んでいるところを見ると、SPの人というのは本当なのだろう。


「女性のかたもいたんですね」

「大柄なほうですし、武術にも自信はあります。女性だからといって軽視しないでいただきたいです」


 あたしはべつに、そういうつもりで言ったわけではなかったのだけど、シラサギさんは過剰に気にしているようだった。

 男性ばかりの職場で、体力も必要な仕事なのは確かだろう。

 女に勤まるのか? なんて陰口を叩かれたり、あからさまに待遇が違っていたり、といったこともあったのかもしれない。


 それはともかく、SPの人が接触してきたということは、なにかあるに違いない。

 あたしは、周りをうかがってみた。


「今から、奴らが我々に接触してくるという情報が入りました」


 奴らというと……、このあいだの黒スーツの組織か。


「アマサギを筆頭に数名で接触を受ける予定です。そのあいだ、念のため私があなたたちのそばに仕えて、お護り致します」


 その言葉が終わらないうちに、すでに動きがあった。

 公園の入り口辺りに、紺色のスーツを着たアマサギさんと、グレーのスーツの男性ふたりが立つ。その目の前に、黒スーツの男性が三人。

 真ん中の黒スーツが右手を差し出す。アマサギさんも右手を出し、握手を交わしているようだった。


「接触するといっても、べつに戦うわけではありません。向こうもバカじゃないですから。なるべく穏便に済ませるため、話し合いを求めてきたのです」


 シラサギさんの解説を聞きながら、固唾を呑んで事の成り行きを見守るあたしたち。

 もっとも、あたしたちが見守っていたところで、どうなるものでもないのだけど。


「だけど、こんな目立つ場所で話し合いをするなんて、危険ではないのか? 港の倉庫にでも呼び出してというのが定番なのではないかな?」


 フーミンが疑問を投げかける。


「状況にもよると思いますが、それだと呼び出されたほうも警戒するでしょう。あくまでも今回は穏便な話し合いということになっていますから。おそらく向こうも、周りに数名は隠れて様子をうかがっていると思われます」

「つまり、両方が安心できるように、見通しのいい場所で、ということだな」


 土柳が冷静につぶやいた。

 いつもはあんななのに、意外と落ち着いてるんだよね、土柳って。


「ええ、そうです。会話も、一般の人が聞いてもわからないように暗号のようなものを織りまぜてあります。ですから、危険はないはずです。もちろん、相手が強硬手段に打って出てくるという可能性もないとは言いきれませんが」


 そのためにSPが待機しているのだという。それは相手にとっても同じなのだろう。

 やがて、黒スーツとアマサギさんが一礼を交わし、奴らは素早く去っていった。

 アマサギさん以外のSPも、すぐに物陰に身を潜めたようで、いつの間にか姿が見えなくなっていた。


 そんな中、アマサギさんはそのまま公園内に入り、あたしたちのそばまで近寄ってくる。


「アマサギ、どうでしたか?」

「どうやら、あまり猶予はなさそうだ」


 シラサギさんの問いかけに、渋い表情で答えるアマサギさん。


「ここでは危険かもしれない。沢湖さん、すまないがまた、君の家にお邪魔させてもらえないかな?」

「はい、どうぞぉ~」


 どんな状況になっていても、やっぱり水萌は笑顔だった。


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