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 水萌は比較的体が弱い。だから、頑張って勉強したあとのテスト明けは風邪をひきやすいのだ。

 補習の恐怖のせいか、すっかり忘れてしまっていたけど。

 普段ぼーっとした雰囲気だから、集中してテスト勉強なんかすると体に悪影響を及ぼすのかもしれない、なんて考えたこともあったっけ。


 とりあえず爆発ではなくてよかったけど、それでも水萌の風邪は心配だ。

 普通に水萌が風邪をひいただけでも、やっぱり心配だけど、今はそれだけじゃない。


 熱で頭がぼやけていると、それだけでも精神的には不安なものだ。

 熱があるなら頭痛もあるはずだし、扁桃腺が腫れているのだからのどの痛みもあるのではなかろうか。

 水萌の場合、それらすべてが爆発の原因になってしまう可能性もあるのだ。


 あたしは水萌に肩を貸して部屋まで連れていき、ベッドに寝かせた。

 みんなも心配してはいただろうけど、ぞろぞろとついてきたりはしなかった。


 汗をかいていたため、タンスから水萌のパジャマを取り出して手渡す。

 着替え、手伝おうか? というあたしの申し出には、自分でできるよぉ~と答えていた。

 熱はそれなりに高そうだったけど、意識はしっかりしているみたいだ。


「それじゃあ、着替えたらおとなしく寝てるのよ? おかゆ作ってきてあげるから、待っててね」

「わぁ、ありがとう熱希ちゃん~。いつもすまないねぇ~、ごほごほ」

「それは言わない約束よ」


 なんだ、結構余裕あるじゃん。

 そう思いながら、あたしは階段を下りる。


「どうでございましたですか?」


 みんな心配して待っていたみたいだ。いきなりの質問攻め。


「うん、大丈夫そう。今、着替えてるわ。土柳、のぞきに行ったりしたら殺すよ?」

「そんなことしないよ!」


 ともかくあたしは台所へと向かい、おかゆの用意を始める。


「ほほぉ~、熱希ちゃんが料理するなんて、とっても意外なのだ」


 フーミンがおかゆくらいで失礼なことを言ってくる。


「ひどいなぁ。これでも家では当番制だからちゃんと料理もしてるんだよ? まぁ、フーミンは見た目どおり料理はできないんだろうけど」

「ギクッ」


 そんな会話をしつつ、手早くおかゆを作り終えた。


「確かここに梅干しが……。うん、あったあった」

「水萌ちゃんの家なのに、知り尽くしてる感じなのだ。さすが熱希ちゃんなのだ」

「ほっほっほ。水萌に関することならどんなことでも知りたいと思うのが、親友ってものよ」

「なんだかちょっと、違うような気がするのでございます……」


 地花ちゃんまで少し微妙な目線で見ているみたいだったけど、今さらあたしがそんなことを気にするはずもなかった。

 おかゆを持って部屋に戻ると、水萌は言われたとおり、おとなしくベッドに横になっていた。

 気温が高めで蒸し暑いとはいえ、寒気がしているのだから体を冷やすわけにもいかない。水萌はタオルケットをかけて、すやすやと寝息を立てていた。


「水萌、寝ちゃった?」


 小声で話しかけてみる。

 もし寝てしまったのなら、起こすことはないと思ったからだ。


「あ……ううん、目をつぶってただけだよ~」


 すぐに体を起こす水萌。

 おかゆを乗せたトレイを見て、


「わぁ、美味しそう~」


 笑顔を浮かべた。

 よかった、食欲もあるみたいね。

 立ち上がろうとする水萌に制止をかける。


「そのままベッドの上でいいわよ。食べさせてあげるから」

「……うん、ありがとう~」


 あたしはベッドの横に座り、おかゆをふーふーしながら水萌に食べさせてあげた。


「美味しいよ~」


 ひと口ごとに満面の笑みを浮かべてくれる水萌に、完全にメロメロなあたし。

 あ~んもう、なんでこんなに可愛いのかしら、この子。


「……やっぱり、相変わらずって感じなのだ」


 いつの間にやらフーミンが部屋に入ってきていた。


「フーミン、いつの間に!」


 さすがにあたしはちょっと赤くなる。

 ちょうど水萌があたしの持ったスプーンをぱくっと口にくわえたところだったし。


「うん、ウチらはここにいてもお邪魔なだけだし、もう帰ろうと思うのだよ。土柳兄妹とアマサギさんも。ウチらが下にいたら、水萌ちゃんも気になってゆっくり休めないかもしれないし。それを言いに来たのだ」


 フーミンは、あたしと水萌の様子にはとくに驚いたりすることもなく伝える。

 きっと、いつもどおり、としか思われていないのだろう。


「あ……そっか。うん、わかった。あとはあたしに任せて!」

「なにもできなくて、ごめんなのだ。……水萌ちゃん、ゆっくり休むのだよ?」

「うん~、心配してくれて、ありがとう~」


 にこぉ~。

 水萌は、風邪でも歪むことのない笑顔でフーミンに答えていた。



 ☆☆☆☆☆



「それにしても、足首に腕時計なんて……。足に違和感があって嫌じゃなかった?」


 あたしは、おかゆをふーふーして冷ましているあいだも、積極的に水萌に話しかけた。

 少しでも気を紛らわしたほうが、風邪の苦しさを忘れることができると考えたからだ。


「え~? 私は全然気にならないよぉ~?」

「……さすが水萌。鈍感ね~」


 ふーふー。


「えぇ~?」


 ふーふー。ぱくっ。もぐもぐ。


「でも、肌身離さず着けていろと言われたからって、そこまでしなくてもって思うんだけど。今だって腕にしてるし」


 そう、ふと見ると水萌の腕には水色の蜘蛛型腕時計が巻かれていた。

 さっき着替えたときに、足首から外してつけ替えたのだろう。

 今はもうアラームが鳴っていないということは、熱も下がってきたってことなのかな。


「うん。だって、この蜘蛛可愛いよ? お風呂に入るとき以外は、ずっとしてるよぉ~」


 ふーふー。

 ふ~む。これを可愛いという感覚もわからないけど、それよりも、


「今も着けてるってことは、寝るときもずっと着けっぱなしなんだよね?」

「うん、そうだよぉ~」


 ふーふー。

 やっぱり水萌は、


「鈍感だ」

「ええ~~~? 熱希ちゃんひどい~……」


 ぱくっ。もぐもぐ。


「でも、おかゆ美味しい~」


 にこぉ~っ。

 ああもう、鈍感でもなんでも構わないわ。水萌は水萌だもん。


 水萌がおかゆを食べ終わると、あたしは用意してあった風邪薬と水を差し出した。


「早くよくなって、一緒に遊び回ろうね。夏休みも近いんだからさ」

「うん~、頑張って治すよぉ~」


 薬を飲み、水萌は再び横になる。

 その額に濡れたタオルをそっと乗せてあげた。


「ひゃっ。わぁ~、冷たくて気持ちいい~」

「ふふふ。氷をタオルに挟み込んでおいたのよ。もう全部溶けちゃったから、ちょうど冷たくていい感じでしょ?」

「うん~、ありがとぉ~」

「すぐにぬるくなっちゃうだろうけど。そうね、氷水を持ってきておこうかな」


 あたしが氷水を用意して部屋に戻ると、水萌はすでに寝息を立てていた。

 食事も終えたし薬も飲んだから、今度は本当に寝てしまったのだろう。


 水萌の額に浮かんでいた汗を軽くタオルで拭う。

 そして一晩中水萌の看病を続けたあたしは、いつの間にかベッドに身を突っ伏す格好で眠ってしまったらしい。

 朝起きたあたしの背中には、水萌にかけてあったタオルケットが半分かかっていた。


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