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「う~ん」


 今あたしがうなっているのには、それなりの理由があった。

 水萌を護ると決意を新たにした、そんなあたしの目の前に、大いなる問題が降りかかってきていたのだ。

 それは――、


 期末テスト。


 水萌のことで頭を悩ませていたため、テスト勉強がおろそかになっていたのだ。

 いや、水萌のせいにしちゃダメだよね。どうせいつも一夜漬けなんだから、テスト前日に集中できなかったのはあたしのミスだ。

 気合いを入れる方向を間違えたあたしは、一教科のテストが終わるたびに、今回はヤバいかも、という予感がどんどんと膨れていった。


 ちなみにテスト勉強に集中しないでなにをしていたのかといえば、水萌の写真を眺めながらニヤニヤしていたわけだけど。

 いやいや、水萌を護るためにどうすればいいかを、写真を見たりしながら考えていたのよ? 勉強の合間に、ではあったけど。

 でも、勉強中の休憩ってのは、ついつい長くなってしまうもの。それがいつの間にか一時間、二時間と経ち、挙句の果てには眠ってしまって朝になっていたり。

 そんなこんなで、テスト期間の半分が過ぎた今日までの教科は、どう考えてもひどい結果が目に見えていた。


「熱希ちゃん、どうだったぁ~?」

「訊かないで……」


 水萌の言葉にも思わず素っ気なく答えてしまう。それくらいひどかったのだ。


「うぁ、熱希ちゃんが水萌ちゃんにそんな態度を取るなんて、びっくりなのだっ!」

「炎壁はテストの出来が悪かったみたいだな。テスト中も、うなり声が聞こえてたし」

「む~。聞こえてたなら、さりげなく何問かの答えを紙にでも書いて送ってくれればいいのに」

「無茶言うなよ」


 あたしがテストの結果で沈んでいるというのに、周りはみんな明るい。

 テストの二日前までは、いっつも一緒に遊び回っていたはずなのに……。


「それは普段からコツコツ勉強しているからなのだ」


 フーミンにそんなことを言われてしまう。フーミンこそ、コツコツ勉強なんて柄じゃなさそうなのに。


「きゃははっ! ある意味期待を裏切るのが、ウチの趣味みたいなものなのだよ!」

「確かに意外ではあるな。でも、いつも一緒に遊んでいたといっても夜は家に帰ってるんだから、夕食後の時間だってあるし、勉強する時間は結構あったと思うんだけど」


 土柳の奴が痛いところを突いてくる。


「う~。だって、水萌と一緒にいられる時間が短すぎて、禁断症状が~」


 と言うあたしに、


「あ~、なるほどなのだ」


 納得顔のフーミン。

 いや、あの、冗談だったんだけど……。納得されちゃうんだ……。


 水萌は、テスト期間中はちゃんと勉強したいからと、あたしと一緒に遊んだりもしなかった。

 黒スーツの集団の件もあったし、可能な限り一緒にいたかったのだけど。水萌としては、そこは譲れないようだった。


「どうせ頻繁にお泊りしてるのだから、テスト中もお泊りして一緒に勉強すればよいのではないのか?」

「うふふ。それはダメよぉ~。熱希ちゃん、うちに来ると、全然勉強しなくなっちゃうんだものぉ~」


 ……水萌の家に行かなかったとしても、全然勉強できてないんだけどね……。

 とは言わないでおく。

 勉強していなかったのなら自業自得としか思われないだろう。実際、そのとおりなのだけど。


「そういう沢湖さんはどうなの? いつもかなり早めに寝てるとか言ってたと思うけど」

「私は~、朝早く起きて~、すっきりした頭で勉強するのよぉ~」


 土柳の質問に、涼しげな顔でそう答える水萌。


「って、水萌! あんた、朝は低血圧ですっごくぼ~っとしてるじゃないのよっ!」

「え~? う~ん、確かに~、勉強したって記憶は曖昧なのよねぇ~。でも、ちゃんと覚えてるみたいで~。テスト問題を見たら、朝見たやつだ~って思うことが多いのよぉ~」


 う~ん、これも一種の睡眠学習ってことになるのだろうか?

 勉強した記憶がないのに内容は覚えているって、なんだかすごく、うらやましい気がする……。ちょっと分けてもらいたいかも。

 そう思ったのはあたしだけじゃなかったようで、フーミンと土柳も、物欲しそうな顔で水萌を見つめていた。


「うふふ。でもそれだけじゃないのよ~。これでも頑張って、寝るまでの時間は勉強してるんだから~。寝る時間だって、いつもと比べたら十五分も遅くしてるのよぉ~」


 十五分って、あまり変わってないじゃん……。


「と、こんなふうに喋ってるあいだにも時間は過ぎていくのだ。早く帰って明日のテスト勉強をしたほうがいいのだよ。とくに熱希ちゃん」

「う……」


 名指しで攻撃を受けるあたし。


「そうだな。補習の教科数は、なるべく少なくしたほうがいいだろう。夏休みの補習にまでなったら、さすがに問題だ」

「そうねぇ~。毎日一緒に遊ぶはずが~、毎日学校で補習三昧になっちゃう~」

「ぐぅ……」


 すでに補習を受けること前提で話を進められているけど、自分でもそうなりそうだと思っていたのだから反論もできない。


「そんなことになったら禁断症状が悪化して、熱希ちゃんは壊れてしまうのだ!」


 いや、いくらなんでもそこまでは……。

 ともあれ、もし夏休みにまで補習なんてことになったら嫌すぎる。もちろん先生だって嫌だろうけど。


「熱希ちゃん、頑張ってねっ! ふぁいとぉ~!」


 にっこぉ~っ!

 満面の笑みを向けてくれる水萌。

 顔が緩むのが、自分でもよくわかった。


「うん、頑張るよ!」


 あたしは、元気が湧いてくるのを感じていた。


「……ここ数日、毎日同じことを言われてたはずだけどな」


 ……きょ、今日こそは……! 今日こそは頑張ろう!

 だけど結局、水萌の写真という誘惑から逃れられなかったあたしは、その後のテストも大した勉強ができないまま臨むことになり、


「も~、熱希ちゃんってば、ダメじゃないのぉ~」


 水萌からおでこにぺチンとされてしまうのだった。


 ちなみに。

 ヤバそうだと思っていた各教科のテストだったけど、どの教科もほんとにギリギリのラインで補習は免れていた。


「熱希ちゃんらしいのだ。よっ! 崖っぷちの女王!」


 囃し立てるフーミンに、あたしは無言で蹴りを入れた。


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