プテラケファルス
「いや。日本だとそれはオスのイメージなんだよね。」
「あら、そうなのね。」
◆
「はいどうも、チーム・ミスリルの瑠璃ちゃんだよ!」
「こんにちは、同じくミスリルです。」
「別稿といえばさ。」
「ええ。」
「第二篇 花と翼竜 白い道における同時観察」
「プテラケファルスね。」
「次が第十三篇ってことは、この間にがっつりあるのかな。プテラケファルス。」
「さあ、知らないわ。」
「なんでよ。」
「だって、手元にないもの。」
「え?」
「ないものは読めないわ。」
「え?」
「だって、そうでしょ?当然よね。」
「ちょっと待ていっ!じゃあ何?別稿第二十四篇は?」
「ないわ。」
「ぐおおおおっ!生殺しかよっ!」
「そのうちね。世界中を探せば、そのうち見つかるわ。」
「俺たちの旅はこれからだぇえええぇ……がっくし。」
「プテラケファルスについてなら詳しいわよ。」
「え!?」
「友だちだし。」
「は?」
「だって、私だもの。当然よね。」
「出た。」
「いや待って。」
「なにかしら。」
「友だちって、どういう意味?」
「どういう意味もなにも、そのままの意味よ。」
「そのままの意味って何。」
「知っているし、見ればだいたいわかるし、どのへんで機嫌がいいかもなんとなく読める。」
「怖っ。」
「怖くないわ。」
「いや怖いよ。大型の空飛ぶトカゲでしょ?」
「ええ。」
「しかも、ただ飛ぶだけじゃない。」
「そうね。」
「海で魚を獲る。」
「ええ。」
「崖の上では小動物も狙う。」
「ええ。」
「なのに人間はあんまり襲わない。」
「本来は、成体の人間やイシュの民を獲物とはしないわ。」
「そこ、絶妙に助かる。」
「でも好奇心は強い。」
「うわ。」
「だから寄ってくる子は寄ってくる。」
「懐くんだ。」
「ええ。」
「いや、そこだけ聞くと可愛いな。」
「見た目もわりと可愛いわよ。」
「そうなんだ。」
「でも大きいわ。」
「それは知ってる。」
「皮翼だし。」
「そこ、改めて言われると、やっぱりかっこいいな。」
「鳥の羽とは違うもの。」
「ハピィ姉さん方式じゃないんだ。」
「ええ。薄くて、頑丈で、よく張る。」
「うわ、いい。」
「いいわよ。」
私はちょっと勢いづいた。
「他には?」
「鳴くわ。」
「うん。」
「綺麗よ。」
「そこ、知らない。」
「そこが大事なのよ。」
「なんで?」
「ただ怖いだけのものなら、あんなふうに景色を豊かにはしないもの。」
「お。」
「声は、一つではないの。」
「一つじゃない?」
「高いのも、低いのも、重なる。」
「へえ。」
「しかも、雌はわかりやすいわ。」
「どうわかるの?」
「とさか。」
「うわ、急にそれっぽい。」
「それっぽいじゃなくて、そのものよ。」
「いや。日本だとそれはオスのイメージなんだよね。」
「あら、そうなのね。」
私はちょっと身を乗り出した。
「で。」
「ええ。」
「それが、なんで死の花と関係あるの。」
「関係ある、というより、切れないの。」
「おお。」
「あなた、棚の上を豊かだと思ったでしょう。」
「うん。」
「それで合ってるの。」
「うん。」
「ただ、その豊かさを何でできているか、そこをまだ知らないだけ。」
「なるほど。」
「プテラケファルスがいる。」
「うん。」
「巣がある。」
「うん。」
「だからあの花がある。」
「うん。」
「そして音になる。」
「うん。」
「全部まとめて、豊かなの。」
「……ああ。」
「だから、あなたの見え方は間違っていないわ。」
「よかった。」
「起源であるあそこを知らなければ、関連なんて気付けないんじゃないかしら。」
「どういうこと?」
「花なら花。」
「うん。」
「翼竜なら翼竜。」
「うん。」
「別々に切る。」
「なるほど。」
「しかも天空の台地。それぞれが強すぎて、個別で見てしまう。」
「……すべてが、ひとつの世界として繋がっているんだ。」
「そういうこと。」
ミスリルは、紙の端を揃えた。
「まあ、下手に似せてしまえば、向こうから教えに来てくれるかもしれないわね。営巣という形で。」
私は、腕を組んだ。
「荒野を豊かにすると、なんで来るの。」
「来るというより、整うの。」
「何が?」
「求愛。」
「……ああ。」
「オスの声がある。」
「うん。」
「メスの声がある。」
「うん。」
「そこへ花の音が重なる。」
「うん。」
「その重なりが、ちょうどよく揃うと、そこがそうなるの。」
「鳴いていい場所。」
「そう。」
「うわ。」
「しかも、その好みは、みんな同じではないわ。」
「え?」
「育った場所の音があるもの。」
「うわ、めんどくさ。」
「そうね。」
「だから、一つの畑をずっと同じ音にしておくのが危ない。」
「そう。」
「居着く。」
「そう。」
「営巣まで行く。」
「ええ。」
私は天を仰いだ。
「なるほどねえ。」
「なにかしら。」
「なんで花と翼竜の観察が先になきゃだめだったのか、やっとわかった。」
「どういうふうに?」
「畑を作る話じゃないんだ。」
「ええ。」
「どう鳴らさないかの話でもある。」
「そう。」
「豊かにする。」
「うん。」
「でも、あの棚の豊かさを、そのまま地上に完成させちゃだめ。」
「ええ。」
「似せ過ぎると、来る。」
「そういうこと。」
「うわ、きれい。」
「きれいでしょう。」
「いや、面倒くさいけど、きれい。」
「褒めているのかしら。」
「褒めてます。」
ミスリルは、少しだけ得意そうに笑った。
「だから、第一段階。」
「はい。」
「水分量を区画ごとに変える。」
「うん。」
「花の音を固定させない。」
「うん。」
「第二段階。」
「はい。」
「水車で人工音を鳴らす。」
「うん。」
「花の音と、オスと、メスの重なりに、別の組み合わせを差し込む。」
「うわ。」
「重ねたいのに、重ならない。」
「うん。」
「鳴きたいのに、鳴き切れない。」
「うん。」
「それが続くと、ここは違う、になる。」
「なるほどなあ……。」
「つまり。」
「つまり?」
「追い払うのではなく、成立しにくくするの。」
「そこ、めちゃくちゃ領主の発想だな。」
「公共事業だから当然でしょう。」
「そうでした。」
私は、ばんと机を叩いた。
「まとめます。」
「どうぞ。」
「第一。棚の上を豊かだと思ったのは正しい。」
「はい。」
「花と音と巣とプテラケファルスが、まとめてそう見えていたから。」
「はい。」
「第二。私はそれを景色として受け取ってた。」
「はい。」
「ミスリルちゃんは、そこにあるあいつらの都合も知ってる。」
「はい。」
「第三。プテラケファルスは、ただ寄ってくるんじゃない。」
「はい。」
「オスとメスと花の音が重なる場が整うと、求愛の場所になる。」
「はい。」
「第四。だから、畑は豊かにするだけじゃだめ。」
「はい。」
「同じ音を居座らせないように、水と区画と人工音でずらし続ける。」
「はい。」
「第五。つまり、荒野開発の本題は。」
「ええ。」
「どう育てるかだけじゃなく、どう似せ過ぎないか。」
「その通り。」
「よし。」
「何がよ。」
「すごく腑に落ちた。」
「それはなにより。」
「でも。」
「でも?」
「第二篇、やっぱり読みたい。」
「ないものは読めないわ。」
「ぐぬぬ。」
「その顔、好きよ。」
「最悪だ。」
「褒め言葉として受け取っておくわ。」
異世界ネットは来てないけど。
豊かさって、ただ生き物が多いことじゃなくて、そこにいる連中の都合がうまく噛み合ってることなのかもしれません。




