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第31話 困惑

 前からやってくるのは間違いなくセドリックだった。彼の腕に抱き付いているのは、やはり先日パーティに同伴していた令嬢だ。彼女は侯爵令嬢のエリザで間違いないだろう。

 二人は楽しそうに談笑している。


 ミシャーナの鼓動は、誰かに聞こえそうなほどの音で鳴っていた。冷静になろうとすればするほど、緊張で嫌な汗が出る。


 執務室では伸ばしていた背筋をまるめ、顔が見えないように俯き加減でゆっくりと門へ続く道を進んだ。

 幸い彼らはこちらに気付いておらず、顔を見られてはいない。万が一見られたとしても、きっとミシャーナとは気づかないはずだ。


 二人とすれ違う直前、緊張で足がもつれてしまい危うく転倒しそうになる。それを見て、セドリックが笑いながら毒を吐いた。


「汚い平民が侯爵邸に何の用があるんだ。お前みたいなのはここでは雇っては貰えないぞ」


「本当ね、貴族が通るときは道を譲るものよ、平民? あなたのような老体ではすぐに動けないでしょうけどね」


 二人そろって大笑いをしながらミシャーナとすれ違った。正体が見破られないかと内心気が気ではなかったが、二人はそのままミシャーナを無視して屋敷に入って行った。


 ミシャーナは安堵のため息をついた。しかし、そのため息には違う感情も混じっていた。


 ――上手く変装できていて良かったけれど、それにしても選民意識が高すぎるわ。なんて酷い人たちなの? それで貴族として人々を導けるの?


 二人が消えた屋敷の扉をちらりと見て、しばらくの滞在になりそうなことをフィンに伝えなければと、宿までの道を急いだ。


 ※ ※ ※


 侯爵邸の応接室にまだ残ったままのシリルは、頭を抱えていた。

 彼の悩みはベジャール領の横領事件だけではなく、なぜか先程の使者を名乗るミサという女性のことだった。


 今までシリルは女性を軽視していた。というのも、自分の妹であるエリザの出来があまりにも悪いことが原因のひとつだった。

 自分と同じように勉学の指導をされていても飲み込みが悪く、すぐに癇癪を起こす。成長するにつれ、いつの間にか身を着飾ることに執着しはじめただけでなく、身分が下の者を見下すようになった。


 シリルは見た目が良く、女性に好意を持たれることが多かった。しかし、近付く女性のほとんどが自分の中身を見ない。アクセサリー感覚で自分を手に入れたがった。


 妹を含め、そんな女性に嫌気がさしていたと言えばそうかもしれない。


 友人の妹などは早くから婚約者がいて、エリザのように派手に遊び回らず貞淑に見えた。そのせいで、人々を導く存在の由緒正しい侯爵の血筋でありながら、アクセサリーのように男を替えるエリザを反吐が出るほど嫌っていた。

 そして、そんなエリザを溺愛する父も、心のどこかで尊敬できない自分がいた。


 ――女なんてみんな見た目しか気にしない無能ばかりだ!


 そう思っていたはずなのに、今日自分の目の前に居た女性は正反対だった。

 一時間も待たせたのに、文句を何一つ言わずに姿勢を崩すことなく座り続けた。しかも、部屋に入った瞬間の美しいカーテシーには見惚れた。

 平民の様相をしているというのに、社交界でもあんなに美しいお辞儀を見たことが無かった。


 さらに、自分に牽制をしかけただけでなく、受け答えも完璧で非の打ちどころがなく、秘書よりも優秀なのではないかと思った。

 秘書にベジャール領の現状を三日で調べろと命令したが、もっと長引かせれば良かったと後悔した自分に驚く。


 ――あんな女性が居るなんて。


 シリルは胸の奥に着いた火に蓋をしたかったが、どうしても漏れ出してくる。それほどにミサと言う女性が魅力的だった。


 先程席を立ったミサを見送るように、応接室の窓から門へと続くアプローチを覗き見た。


 すると、エリザが昨日連れてきた()()()()()()にすり寄りながら歩いて来るのが見えた。あんな男の何がいいのかと無性に苛立ち窓から離れようと思った時、ミサと二人がすれ違うのが見えた。

 すれ違う瞬間、ミサが躓いたのに二人は笑いながら屋敷に入って来る。


 あの場に自分がいれば迷わず手を貸しただろうし、大丈夫かと心配もしただろう。

 しかし、エリザもその男も、手を貸さないばかりか嘲笑している。普段から民衆を小ばかにして贅を尽くしているのが許せず、握りこぶしを震わせた。

 ミサという女性は彼らが嘲笑して良い女性ではない。今まで見たことも無いほど優秀な女性だった。


「着飾っていなくても美しい人が居るとは知らなかった」


 なぜかミサが振り返った。その姿を見てどきりと心臓が跳ね上がる。


 ――やはり、あのように顔が良い男が彼女も好みなのだろうか。それとも……


 自分のことを顧みてくれていたのだろうかと考え、思い違いだと頭を左右に振った。


 ――わたしを見ても表情が変わらず、他の誰とも変わらないように接した女性だ。顔だけの男に興味を持つわけがない。わたしも含めて、な。


 シリルは自嘲しながら、彼女が門をくぐるまで後ろ姿を追っている自分に困惑していた。

有能ポンコツ侯爵令息シリアルでサラダ君を好きだと言う人がいたらリアクションください!

同志!

ざまあカウントダウン7

不定期更新です。

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