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狐の嫁入り  作者: 若狭巴
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両家

時は少し遡り、妖狐の屋敷の一角で行われる結婚式の会場にて両家が顔を合わせていた。


「お久しぶりですね。西園寺殿」


真っ白な髪を靡かせながら、怪しく笑う妖狐の当主。


「ええ、お久しぶりですね」


西園寺家の当主も同じように笑いながら挨拶をする。


「いろいろと大変だったみたいですね。今日は来られないかと思っていました」


妖狐の当主の言葉に控えていた妖狐たちはクスクスと笑いだす。


「当然、来ますよ。大切な孫娘の大事な日ですから」


当主は妖狐の当主から売られた喧嘩を買うことなく流し、笑顔を崩さず話を続けた。


「孫のことは大切にしてくださいね。信じていますよ」


「もちろんです。花嫁様のことは大切にさせていただきます」


「そうですか。なら良かったです。それで、いつ当主の座を降りるのですか?」


当主の言葉に妖狐たちの空気が変わる。


「もう少し先ですかね。花嫁様がこちらに慣れたら息子に当主の座を譲るつもりです」


(もう少し先か)


当主はその言葉が気になった。


人間と妖の時間の感覚は違う。


彼の言うもう少しが妖の基準で言ったのなら、十年、いや百年先かもしれない。


契約があるため、そこは大丈夫だと思いたいが、基本、妖に嫁いだ西園寺家の娘は死ぬまで妖の世界から出ることができない。


死んで初めて人間の世界に戻ることが許される。


そのため、歴代の西園寺家当主は最も力の弱い娘を妖怪の次期当主の花嫁として嫁がせていた。


未桜でなければ、どうなろうと気にしなかったが、未桜であるため気にしなければならなかった。


妖の歴代の花嫁は大体十年で死んだ。


人間が妖の世界で生き続けたら、妖力のせいで体が耐えきれなくなるからだ。


霊力を持つ人間なら、何年かは耐えることができるが、持っていない者がその世界に足を踏み入れたら、もだえ苦しみながら死ぬことになる。


巫女の力を代々受け継ぐ西園寺家の娘なら、霊力をもつ者よりも長く耐えることができるため、人間と妖の世界を守るため花嫁としての務めの任を背負うことになった。


だが、西園寺家も守らないといけないため、巫女の力が弱いものが花嫁として嫁がされることになった。


本来なら茜がその役目を負わなければならないのに、契約のせいで最も強い力を受け継いだ未桜をと花嫁として送り出さなければならなくなった。


人間界を悪鬼から守り続けるには、未桜の力は非常に役に立つ。


それをみすみす手放すわけにはいかない。


今までは嫁がせた娘とは会うことはなかったが、これからは会いに行かなければならい。


「そうですか。なら、そのときにまた訪れることにします」


「……!また来られるのですか?」


妖狐たちは動揺する。


当然だ。今までの当主はこの婚姻を済ませたら二度と妖の世界に踏み入ることはなかったのだから。


「ええ。問題ありませんよね。そのときは連絡をください」


なぜ、妖狐たちが慌てるのかはわからないが、そっちの事情など知ったことではない。


契約違反をするわけでない。


やりたいようにやらせてもらう。


当主は妖狐の当主と目が合おうとにっこりと笑いかけた。


気まずい空気が流れ、誰もが言葉を発さなくなり、しばらく経った頃、一人の妖狐が部屋の外から「花婿と花嫁様がご到着されました」と宣言した。


(花婿?様はつけないのか?)


当主は疑問に感じるも、次期当主とはいえ、当主以外に「様」をつけない妖狐独自の決まりかと思い、考えるのをやめた。


(文化が違いすぎて、こりゃあ、あいつは苦労するな)


当主は未桜の困りはてた姿を想像してしまい、ついおかしくて吹き出してしまった。


その姿を妖狐の当主に見られ、怪訝な表情をされた。





※※※






「花婿と花嫁様がご到着されました」


桔梗に支えられながら、長い廊下を歩いていると妖狐たちが頭を下げ、廊下の両端に並んでいた。


その中を歩き、ある部屋の前で止まると、妖狐の一人がそう叫んだ。


端に待機していた妖狐たちが、襖を開けた。


中には西園寺家と妖狐のお偉いがたが座っていた。


空気的になにかあったのを感じた。


チラッと当主を見ると、にこやかに手を振っていた。


(絶対になにかしたな。あのクソジジイ)


これから妖狐の世界で生きていかないといけないのに、最初から先行きが怪しくて頭が痛くなる。


他人のことを思いやるという考えがない人間だとわかっていたが、今日はそれをしないでほしかった。


他人に期待するだけ無駄だ、というこの言葉を今日ほど実感したことはない。


当主に苛立っていると、今日に手がぬめった。


怒りで体温がよくなり、手汗が出たのかと思ったが、出ているのは私ではなく桔梗からだった。


次期当主様でも緊張するのかと驚くが、さっき助けてもらった恩を返すべく、触れ合っている手を少しだけ力をいれて握った。


桔梗は私を見た。


さっき会ったばかりなため、何を考えているかは全く分からないが、大丈夫だという意を込めてほほ笑んだ。


桔梗はそれにたいして特に反応することなく、歩き出した。


それに続いて私も歩き出したが、「いや、本当になに考えてるかわからないわね。まぁ、知りたいとも思わないけどさ」と思った。


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