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狐の嫁入り  作者: 若狭巴
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西園寺幸子 2


雅家に入ってときから違和感はあった。


それが何かまではわからなかったが、この話を聞いた後ならわかる。


あの違和感は「死」だ。


花嫁にとって一番安全な屋敷が、本当は花嫁を殺すための隔離した場所だった。


ただ、それだけではない。


もっと、それ以上におぞましい何かが隠されている気がする。


「証拠はないが、わしもそう思う。一度だけ花嫁の死体を見たことがある」


その言葉に驚き、私は目を見開いた。


貴族でもない男がどうやって王家の花嫁の死体を見ることができたのか。


元々、男はよくわからない存在だ。


名前がないため、「おい」「名無し」「男」「妖狐」と気分で呼んでいたし、いつから人間界に来たのかも不明だ。


妖狐というより妖は年寄り見た目がだいぶ若いので何歳か見当をつけることもできない。


いつ、誰の、その種族の花嫁の死体を見たのか?


聞きたいことは山ほどあったが、それについては答えてくれないような気がしたので、黙って続きを聞くことにした。


「一見、ただ寿命で死んだように見えるが、あれは間違いなく殺された死体じゃ」


男は確信しているような口ぶりだ。


だが、いくら確信していても証拠がなければ意味がない。


それは、人間も妖も変わらないみたいだ。


「寿命で死んだように見えるってことは外傷がないってことよね」


あれば、歴代の西園寺家当主が黙ってないないだろう。


いくら使い捨ての駒だからといって、殺された形跡を見つけたら間違いなく自分たちが得をするように動いたはずだ。


「西園寺家の歴代当主ですら気づかなかったのに、なんであんたは気づいたの?」


続けて、本当に殺しだったのかと言おうとしてやめた。


花嫁たちが呪霊に近い姿になってまでここにとどまり続けているのだ。


これこそ、雅家の人間に殺された証拠だろう。


本人たちが誰に殺され、どうやって殺されたのかを教えてくれれば助かるが、花嫁たちの状況は初めて認識したときと変化ないため無理だろう。


「その花嫁の体から、その当時の当主の妖力を感じたからだ」


「……それさ、別の可能性もない?」


体からとしか言われなかったが、可能性として一番高いのはお腹だろう。


女のお腹から当時の当主の妖力を感じたとなれば、一番に可能性として考えられるのは妊娠だ。


そうなると殺害動機は簡単に判明する。


西園寺家と妖たちとの婚姻の際に契約には書かれていないが、暗黙の了解というものがある。


それは子供を作らないということだ。


妖の子供を人間が産むことはできない。


産む前に赤ん坊に生命力を奪われる。


両方死ぬため作ることが禁止されている。


ただし、西園寺家の女子おなごは浄化の力があるため、産むことまではできるが、産んだ後は死んでしまう。


妖の世界に住むせいで短命になるのに、さらに子供まで作ってそれ以上に短命になるのは可哀そうだという理由で作ることを禁じられている。


これを破れば、西園寺家がどう出るかわかっているので作るはずがない。


もし作ってしまえば殺すしかなくなってしまう。


西園寺幸子の死因は当主による殺害が一番有力だ。


そう結論付けようとしたとき、男がそれをきっぱりと否定した。


「それはないな」


「どうして?」


「お前もあの家に住んでいるならわかるだろう。いくら西園寺家の人間でも、あそこでは通用しない。花嫁としての待遇などない」


男は「西園寺家の人間でも」と言って顔をあげて続きを言おうとしたが、目の前の女の顔を見て言うのをやめてしまった。


あ、この女は通用するか、そう思ったからだ。


実際、通用しているかと言われたら微妙だが、虐められても虐め返すし、やられてもやり返す。


ただでは転ばない人間だ。


男はこの間あった、妖の貴族の会で目の前の女がどれだけやりたい放題やったか知っていた。


これまでの花嫁の常識を言っても、この女には通用しない。


寧ろ理解できないと思った。


強者が弱者のことを理解することなど不可能なのだから。


ましてや、産まれたときから頂点にいて、一度も敗北を経験したこともない、落ちていくという感覚がわからないような人間には絶対に理解することなどできない。


「ちょっと、言いかけたなら最後まで言ってよ。気になるじゃない」


男は目の前の女の言葉を聞いて「やっぱりな」と思った。


普通あそこまで言ったらわかるはずなのに、全く何を言おうとしていたのかわからない、という表情をしている。


さっき言おうとしたことを言っても理解されないのなら言っても意味がない。


男はそう思い、違うことを言った。


「当時の当主も、今の当主も、いやこれまでの当主は西園寺家を憎んでいる」


「……?憎んでる?」


私は男の言葉が理解できずに首を傾げる。


憎んでいる相手の力をなぜわざわざ借りようとするのか理解できない。


憎んでいるのなら契約など破棄すればいいのに。


それをせず、ずっと契約を守っているなんて馬鹿馬鹿しいと感じる。


さすがにそれはないと思っていると、頭の中を見透かされたようにこう言われた。


「それはお前が強いからじゃよ。強いから契約など破棄して自分たちでどうにかすればいいと思えるんじゃ。弱いものは例え憎い相手でも生きるために力を借りねばならん。西園寺家の女子だけが使える浄化の力が、これからもここに住むためには必要じゃからな」


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