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狐の嫁入り  作者: 若狭巴
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西園寺幸子


「どっちもよ。それより、なんで私がそのことを聞こうとしていることがわかったの?」


いくら妖狐だと言っても、雅家に仕えているものですら花嫁の霊がみえない。


今のところ確認ができたのは早苗だけだ。


その早苗も他の三人の幽霊には見向きもしなかったので、見えているのは一人だけかもしれないが。


はっきりとまだ何もわかっていない。


人間の世界で妖や昔、その場で会った出来事や呪縛霊になった経緯を調べたりして情報を売る仕事をしているから、噂程度でもいいから花嫁のことを何か知らないかとほんの少し期待して聞いてみたが、予想以上に何か知っていそうだ。


「それは秘密」


男は人差し指を口元に持っていき、怪しく笑った。


(相変わらずむかつく顔ね)


私はどうしても男のこの笑顔が昔から嫌いで仕方なかった。


他の人間には魅力的に見えているみたいだが、私はぶん殴りたい衝動に毎回なってしまう。


「あっそ。じゃあ、それはいいから花嫁のこと教えて」


近くにあった椅子に座ると、椅子から煙が出た。


「あーあ。もったいない。せっかく百年もの間、呪霊が宿っていたのに」


男は私が座ったせいで呪霊が浄化されたことを悲しみ、嘘泣きをしてまで私を批判する。


「あら、よかったじゃない、呪霊は祓うべき存在なんだから」


何か文句ある、と謝罪することなく開き直ると、男は面白くなくなったのか、嘘泣きするのをやめて自分も椅子に座り、こう尋ねた。


「それで、どの花嫁のことから知りたいんだ?」


もちろん全員の情報を知りたいが、一人聞くだけも話が長くなりそうだと男の表情を見て思った。


なら、最初に聞くべき相手は決まっている。


「現雅家の当主の正妻である早苗と関係のある、雅家に嫁いだ花嫁からお願い」


「知りたいのは西園寺幸子さちこ様で間違いないかのう」


「名前なんて知らないわよ。本来ここに来るのは私じゃなかったんだから」


男は確認のために聞くが、私はその質問にうんざりしながらそう言った。


突然、妖狐の嫁になることが決まったのだ。


妖の世界のことなど何一つ勉強などしていないし、歴代花嫁がこの世界でどう過ごしたのか以前に名前すら知らない。


聞かれたことで答えられるわけがない。


「……そうじゃったのう。お前は興味ないことには一切知ろうとせんかったな」


男はわざとらしくため息を吐いた後、こう続けた。


「ほぼ間違いなく、現当主の正妻と関係があった花嫁は、お前の前に妖狐に嫁いだ幸子様じゃろう。というか、それ以前の花嫁は早苗様が生まれる前に死んだからな」


「知っていることだけでいいから教えてくれる」


「幸子様が花嫁のとき、早苗はまだ雅家の正妻ではなかった。ただ、現当主の婚約者ではあった」


(予想通りね)


ここまではここに来るまでに立てていた仮説通りだ。


知りたいのはその後だ。


本来、当主になるのは別の妖狐。つまり、幸子の旦那だ。


何となくここも予想がつくが、妖狐たちにはどう広まっているのかが知りたかった。


「お前も気づいていると思うが、本来いまの当主は幸子様の旦那様であられた冬彩とうあ様じゃった。だが……」


(だが……?)


「亡くなられたのじゃ。それで、今の現当主である冬真とうま様がなられたのだ」


「どうやって亡くなったの?」


「病気だ」


私の質問に男は淡々と答える。


「本当は?」


私も同じように淡々と問いかける。


「……」


「……」


長い沈黙が流れる。


私たちは目をそらさず、長い間見つめあった。


私はわざわざ聞かなくても、既に答えを確信していたが、ただ負けたくなくて目を晒さなかった。


そうしているうちに時間はかなりたち、男は呆れたように息を吐いた。


(勝った)


勝負などしていなかったが、ただ自分から目をそらさないでいたことが嬉しかった。


「お前の考えている通りだ。冬彩様は殺された。ただ、そのことを知っているものは一部の使用人と冬真様と早苗様だけじゃ」


「でしょうね。西園寺家がこの事実を知っていたら許すはずないもの。まぁ、これまでの歴代当主が今までどれだけいい加減な人物だったかってことよね。普通気づくでしょ」


「それが、妖たちのずる賢いところだよ。一度その種族に嫁いだら、次は早くて二百年後だ。そのときは西園寺家の者は全員死んでいる。それに、今までの当主は花嫁たちの結婚式に参加しなかった。自分の娘の相手の顔を知らない可能性だってある」


私は男の言葉を聞いてあり得るな、と否定できない自分が嫌になった。


西園寺家は妖の世界のことに興味はない。


言い換えれば、人間の世界にしか興味がないのだ。


当然だ。西園寺家の使命は、多くの人の当たり前の日常を守ることにある。


そのための恩恵を国からももらっている。


だが、特別な力を持った人間はそう多くは存在しない。


一人の犠牲で、妖との同盟が守られ、その力を借りられるのなら安いものだ。


だからと言って、嫁がせた後のことを放っておくのは庇いきれない。


「もう一つ聞いていい」


「構わんぞ」


「いくら西園寺家の女だからといって、大した力のないものはこの世界では生きにくい。短命なのはわかる。でも、その話を聞いた後だと、どうしてもこう思ってしまうのよね。本当に寿命だったのかって。本当は殺されたんじゃないかって」


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