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狐の嫁入り  作者: 若狭巴
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記憶


朝起きると、昨日のことはきっと夢だったとなっていることを願っていたが、目を開けると目の前に花嫁たちがいた。


起きてすぐに骸骨が目の前にいて、驚きのあまり悲鳴を上げそうになったが、なんとか耐えた。


早まる鼓動を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。


落ち着きを取り戻し、布団をゆっくりと頭からずらす。


目のところまで布団をずらすが、何故か目の前は真っ暗だった。


すぐにその理由に気づき、いい加減にしてくれと思う。


人間の世界にいた頃から幽霊には見慣れていたが、顔の近くまで来られるのは話が別だ。


怖いとか以前に気持ち悪い。


私はここで花嫁たちに文句を言うべきか悩んだ。


彼女たちとは会話ができない。


それなのに、文句を言っても意味がない。


それに、彼女たちに話しかけているところを聞かれでもしたら、すぐに雅家の者たちの耳に入るはずだ。


万が一にでも、私が花嫁たちを認識していると気づかれるのはよくない。


花嫁たちの様子から、私が嫁いだ時から付きまとっているのは間違いない。


とりあえず、今はまだ知らないふりをして雅家の者たちは全員このことを知っているのか探るのが先だ。


(でも、それよりも、近いな。本当に)


花嫁たちは私の頭を囲むように座っている。


よく今までこの近さに来られても気づかなかったな、と自分の間抜けさ感心してしまう。


花梨が来るまでの間、私は動くことができず、結果的に精神を鍛えられた。


その後も花嫁たちは、ずっと付きまとってきた。


食事をするときも、散歩をするときも、風呂に入るときまでずっとだ。


さすがに、これが明日以降も続くと思うと精神が先にやられてしまいそうになる。


どうにかして、対策を考えたいが何もいい案が浮かばない。


幽霊にストーカーされた一日を過ごしたせいか、その日はいつもよりぐっすりと眠ってしまった。





※※※





「お許しください。お願いします」


汚い着物を着た女性が泣きながら誰かに訴えかけている。


そのすぐ近くに、その女性を冷たい目で見下ろす白い髪をした綺麗な着物をきた者たちがいた。


(これはなに?夢?)


まるで自分が経験したかのように鮮明な記憶が流れていく。


私が状況を整理しようとしている間も視線を逸らすことなどできず、誰かの記憶は流れていく。


「‘お許しください’っていうことは自分が悪いことをしたって自覚があるのね」


白い髪を一つにまとめていた女性が、倒れている黒髪の女性を蹴り飛ばした。


軽く蹴っただけなのに黒髪の女性はお腹の痛みに耐えるように体を小さくした。


「言ってみなさいよ。自分のどこが悪かったのか」


痛みで女性が話せないことはわかっているだろうに、足でつつく女性に怒りが湧く。


どうにかして殴りたいが、体が動かない。


何もできずにただ、流れてくる記憶をみることしかできない。


そうして、黒髪の女性が泣きながら助けを乞う姿を見せられ続けていると、突然視界が真っ暗になった。


目を瞑ったわけではない。


どうしたんだ?と思っていると、また突然色鮮やかな世界に変わった。


今度はさっきみた記憶とは別の誰かの記憶みたいだ。


今目の前にいる人達は、さっきの記憶にはいなかった人たちばかりだ。


今度虐められているのは焦げ茶色の髪をした女性で、虐めている者たちはさっきと同じ白い髪の毛をした者たちだった。


さっきと同じように、焦げ茶色の髪の女性は理不尽に虐められ、それに耐えるだけの日々を過ごしていた。


胸糞悪い記憶は後二人も続いた。


いったい、誰が私にこんな記憶を見せているのだ、意識が浮上し、目を開けた瞬間にわかった。


誰が私にこの記憶を見せた犯人か。


(助けて欲しいのか。それとも復讐をしてほしいのか)


骸骨のせいで表情がわからない。


会話をしたくても話すこともできない。


表情も会話も駄目なら、相手が何を望んでいるのかわからない。


まぁ、わかったところで望み通りにしてあげる義理は私にはない。


「何を望んでいるのかはわからないけど、私は私の望む通りにしか動くつもりはないわ。でも、一つだけ約束してあげるわ。これ以上、クソ共の好きにはさせないってね。特等席で見てるといいわ。彼らが落ちぶれていく姿を、ね」


私がそう言うと、言葉を理解できたのかはわからないが、彼女たちの纏う空気が変わった。


冷たく禍々しかった空気が、ほんの少しだけ柔らかくなった。


彼女たちの未練を取り除き、あの世へと逝ける手助けは西園寺の人間として当然すべきことなので、今の発言に嘘偽りはないが、一つだけ後悔していることがあった。


特等席で見ていい、と許可したせいか、さっきまでは近くにいるまでで触れてはこなかったのに、今は二人が私の肩に顎をのせ、残りの二人は私の腕に巻き付いている。


(あー。余計なこと言うんじゃなかったわ。口は災いの元になるっていうけど、本当ね)


私は二度と余計なことは言わないと、今日改めて誓った。


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