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狐の嫁入り  作者: 若狭巴
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魔鬼

「では、私たちはここでお待ちしております。何事もなく終えられますことを願っております」


明らかに、用意していた言葉を棒読みする男に私は腹も立たなかった。


隠す努力もしないのなら、最初から言わなければいいのにとしか思えない。


妖狐のプライドもここまでくると感心してしまう。


内心、恰好悪い、と思ってはいるが。


「ええ。心配してもらわなくても無事に終えるわ」


妖狐たちは睨みつけてくるだけで、それ以上は何も言ってはこなかった。


私は目の前に見える、長い階段を一つずつ上っていく。


月に一度、浄化しないといけないだけあって、上に上がっていくたびに瘴気が強くなっていく。


神力のお陰で瘴気に侵されることはないが、着物が重いせいで一段上ることに余計に体力が奪われていく。


本来の花嫁であった茜では、この瘴気に耐えられただろうかとふと思ってしまった。


例え耐えられたとしても、浄化の舞を最後まで全うすることはできたのだろうか?


茜では無理だと、階段を上るたびに確信する。


歴代の花嫁たちも茜と同じようなものだ。


その者たちが、毎回最後まで浄化の舞をきちんとできたはずがない。


確信したせいで、嫌な予感がまたした。


妖狐に嫁いでから、嫌な予感が度々起こり、毎回それが的中する。


もうすぐ、階段を上りきるが、今すぐ引き返したい。


そんなことをすれば雅家だけでなく、妖狐たちにも何を言われるかわかったものではない。


面倒だな、と思いつつも文句を言われる方が面倒そうなので、浄化の舞をすることにした。


階段を上り終え目的地に着くと、予想通りと喜ぶべきか、儀式の場は瘴気のせいで荒れに荒れていた。


木は枯れはて、土は水分がなく乾いて地面にひびができ、草や花が一切生えていない。


空も瘴気のせいで紫色に見える。


悪鬼が住み着いていてもおかしくないな、とあまりの荒れ果てた光景をみてそんな感想を抱いていると、余計なことを考えた罰か、悪鬼とは別の魔鬼まきがいた。


魔鬼とは一定以上の瘴気が集まり、何百年もの間、放置されていた場所に自我はなく実態だけ形成された存在だ。


魔鬼には自我はないが、生物を襲う習性だけは備わっている。


私を認識するなり、魔鬼は襲いかかってきた。


歴代花嫁たちも、きっと魔鬼に襲われたのだろう。


魔鬼を倒すことに専念し、浄化の舞は中途半端に終わったはずだ。


神力が少ないせいで、両方を一人でこなすことはできなかったはずだ。


誰かが守ってくれているなら話は別だが、この儀式の場を見る限り違うのだろう。


私を見送りに来たのか、馬鹿にしに来たのかはわからないが、彼らがこのことを知らないはずがない。


知っていて誰も護衛をつけなかったのだろう。


私が泣いて逃げ出すのを期待して。


出発する前に見た雅家の連中の顔を思い出し、腹が立つ。


(でも、残念ね。私は魔鬼ごときに慌てるようなレベルじゃないのよね)


神力を左手に集め、魔鬼に向かって放出した。


魔鬼は一瞬で砂のように消えた。


神力を発したせいで、瘴気が少しの間だけ左右に散らばり、紫の空が真ん中だけ青くなった。


(あー。紫と青の空って面白いな。……いや、やっぱ気持ち悪いわ)


ずっと二種類の空を交互に見ていたせいで、目がおかしくなり気持ち悪くなった。


ふざけていないで、さっさと終わらそうと扇子を出し、舞を踊る。


本来なら浄化の舞を踊るときは後ろに演者がいる。


いろんな楽器で音を奏で、それに合わせて舞子が唄う。


それを何度も繰り返すことで、瘴気に侵された場所は浄化される。


だが、ここには私しかいない。


(まったく、いい加減なことばかりしやがって)


適当に演奏されるよりは一人の方が断然いいが、それとは別に腹が立ってしまうのは仕方がない。


怒りが唄に乗らないよう、なるべく穏やかな気持ちで唄うように努力はするが、どうしても苛立ちが少しだけ唄に乗ってしまう。


それでも、すこしなら神力で補えるので問題はない。


ある程度、浄化が済むと今日はこれくらいでいいかと舞を踊るのをやめる。


一気に浄化してもいいが、それだと雅家の人たちに警戒され、隠していることを調べるのが難しくなってしまう。


というより本心は、これ以上は面倒なので帰って横になりたいと思い、終わらした。


お腹も空いてきた。


ここから、階段を降りて、山を下りて雅家に着くころには日も落ちている頃だろう。


そう思うと、余計に頑張る気はおきてこず、階段を降りていく。


上りとは違い、下りるときは楽でよかった。


帰りも座っているだけだし眠っていようと思っていたが、雑な運び方をされていたことをすっかり忘れていて、寝ようと目を閉じた瞬間に頭を強く打ってしまった。


私は心の中で「絶対にいつか同じような目にあわせてやる」と深く誓った。


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