心配
そこからは、特に何事もなく無事に終わった。
最初の騒動がなんだったのかと思うほどに、呆気なく解散した。
お客様をお見送りした後に、夫人には何かを言われたが、そんなことはどうでもよかった。
花梨を部屋に無事に部屋まで送ったあと、私は当主に会いに山へと入った。
「なんで、あんたがここにいるわけ?」
「ひどいな。おじいちゃんにむかってその言葉遣い」
嘘泣きを始める当主を無視して睨みつける。
観念したかのように当主は両手を上げて、真剣な顔つきをしてこう言った。
「気なることがあって調べに来たんだよ」
「何かわかった?」
「いあーや。なんにも。諦めて帰ろうとしたら、面白いことやってるからから、見物してたくらいかな。それにしても、よく気づいたな」
「一瞬、気配が漏れた。どうせ、笑いすぎてそうなったんでしょ」
「正解!」
当主は親指を突き出して言う。
正解してもこれほど嬉しくないものはないな、と呆れていると「お前の方はどうだ」と聞かれた。
「でも、何かあるでしょうね。ここ気持ち悪いし。それに、歴代花嫁を虐めてるくらいだし」
「ハハッ。お前を虐めるって、あいつら馬鹿だろ」
私の心配をせずに笑う当主に殴りかかるが、簡単に躱される。
「いったい、なにを隠してるんだが」
私は当主が楽しそうに笑うのを見て「お願いだから。巻き込まないでよ」と思わずにはいられなかったが、当事者である私が巻き込まれるのは既に決定事項だった。
「というわけで、探れ」
(何が、というわけよ!)
説明をなしに探れと言われても困る。
断ることもできないが。
「ちょい、ちょい、来るからそのとき報告してくれ」
私の返事を聞かずに「じゃあな」と山を下りていく。
当主がいきなりこの場から離れたのは、誰かが近づいてくる気配を感じたからだ。
「ここで、何をしてるんだ?」
声をかけられ、後ろを振り返ると、髪は汗で濡れ、息を切らしている桔梗がそこにいた。
「散歩よ」
本当のことを言うわけにはいかず、それっぽいことを言って誤魔化した。
「こんなときにか?」
桔梗は呆れと怒りからか、前髪をかき上げながら吐き捨てるように言った。
(こんなとき?なにかあったの?)
何があったのか知りたくて尋ねると、桔梗は呆れたように息を吐いた。
「それ、本気で言ってるのか?」
「ええ」
素直にそうだと言えば、彼はまた呆れたように息を吐いた。
「今日、自分が何をしたのか忘れたのか?」
(今日?あー、そういうことね)
「別に問題でも?」
「大ありだ。このままじゃ、本当に……」
私は桔梗の口元に人差し指を置いて、これ以上何かを言えないようにした。
「この前も言いましたけど、私は強いので大丈夫です。それより、私を心配してここまで探しに来たんですか?」
「ああ。そうだ」
桔梗は恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言った。
「そうですか。それは、ありがとうございます。私を心配するなんて変わってますね。あなたは」
私は産まれてから一度も心配されたことがない。
それは神力が莫大で誰も私を傷つけることができないからだ。
病気になることもない。
だがら、一族は誰も私を心配したことがない。
それが普通で当たり前のことだと思っていた。
「普通だろ」
結婚したからと言って、私たちは他人だ。
契約を守るための関係でしかない。
それなのに、なぜ彼は私を心配するのか。
「普通ではないと思いますよ」
なぜ、同じ雅家でもこうも違うのだろうか。
まるで、他人のように思えるほど違う。
だが、それはない。
妖力を見る限り、桔梗と彼らは間違いなく家族だ。
他の人間は騙せても、私と当主の目を誤魔化すのは不可能だ。
容姿も似ている。
(でも、それにしても、違いすぎるのよね)
その後、私は桔梗に部屋まで送ってもらった。
彼は私をおくると、すぐに立ち去って行った。
彼について部屋で寝転びながら考えた。
考えた結果、よくわからないという結論に至った。
特に目が。
全てを諦めたかのように死んだ目をしている。
でも、私を心配して必死に探しに来る。
矛盾している。
目と行動が。
何が目的なのだろう。いったい、なにを知っているのだろ?
彼も雅家も何かを隠している。いや、妖たちが何かを隠している。
それを暴かないといけない気がする。
どこから手を付けるべきか。
頭を使いすぎたせいか、お腹が鳴った。
「駄目だ。もう、お腹空いて。何も考えられない」
寝ころんだまま夕食が届くまで後どれくらいあるのか時計を見ようと顔上げると、障子の向こう側からいい匂いがした。
「若奥様。夕食をお持ちしました」
花梨の声が聞こえたと同時に私は障子を開けた。
花梨は驚いた顔をしたが、すぐに元に戻り食事を運んでいった。
私は食事をしながら、花梨の顔を見た。
最初とは違い、随分と私に向ける顔つきが変わった。
結構ひどいことをしたのに、なぜこうなったのかと不思議でたまらない。
馬鹿だな、と思いつつ私側に完全についたであろう花梨を少しだけ信用することにした。




