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狐の嫁入り  作者: 若狭巴
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演奏

「それでは、そろそろ花の会をはじめましょうか」


本当なら怒り狂って暴れたいだろうに、夫人は弱みをこれ以上見せないために、いつもと変わらないように装った。


「そうですね。それが、よろしいかと」


夫人に助け舟を出したのは蛇族の正妻だった。


(確か彼女はあららぎ家の人間よね。正妻の名前って何だったっけ?)


妖狐と蛇のトップは似た容姿をしている。


どちらも白髪に黄色い瞳で釣り目。


妖力で見分けなければ、親戚かと勘違いしてしまうほどだ。


獣化してくれれば一目瞭然ではある。


毛と鱗は違うから。


「ええ。そうですね。はじめましょう」


お前は黙っとけ、と彼女たちの心の声が聞こえてきたが、笑顔で「花の会って何をするのか楽しみだな」と続けていった。




花の会が始まると、さっきまでの騒動が嘘であったかのように、何事もなく進んでいった。


最初にお茶と菓子が運ばれ、それを食べて感想を言う。


言い終ったら、娘たちの自慢が始まり、誰が美しくなったとか結婚生活はどうだ、とか興味もない話が続いた。


わざと私がわからない話をしてのけ者にしようとしているのはわかってはいた。


彼女たちは勝ち誇った顔をしていたが、寧ろ感謝したいところだった。


私が話に入れなくて泣くと思っていたのだろうが、興味もない話に付き合わされる方が面倒で嫌だ。


(虐めるなら、その者が嫌がるやり方でやらないと効果ないわよ)


仮面をつけているせいで、私の顔が見えないからか彼女たちは私が感謝していることにも気づかず、のけ者にし続けた。


その間、私はお菓子を食べ続けた。


お菓子がなくなりそうになった頃に、ようやく私の存在を思い出したのか、わざとらしく話しかけられた。


「それで、‘若奥様’は何が得意なのですか?」


(誰だっけ?この人?ていうか、そのまま透明人間扱いしてくれてよかったのに。余計なことしないでよ)


座っている席を見る限り、話しかけてきたのは龍族の娘だ。


外見からでも簡単に判断はできる。髪と瞳の色が青い。


色が濃いければ、濃いほど力が強いと言われている。


「もしかして、聞いていませんでしたか?」


隣の龍族の娘が非難するように言ってきた。


残念ながら、話は聞いていたのでわかっている。


聞いていなかったら、今みたいに揚げ足取りをされるとわかっていた。


「いえ。聞いていましたよ」


「では、なぜ、すぐに答えなかったのですか?」


(うるさいわね。そんなにすぐに答えないといけない法律でもあるわけ?)


龍族の娘の言い方に腹が立つも、ここで怒ったら負けだ、と冷静になってからこう言った。


「なんて、答えようか困りまして」


「困るような質問でしたか?得意なものを言えばいいだけでしょう。あ、もしかしてないのですか?それは気づかずに申し訳ありません」


龍族の娘は勝ち誇った顔をし、周囲の者も笑い出した。


(何を勘違いしてるのかしら?)


彼女たちのおかげで冷静さを取り戻した。


怒りよりも哀れに思ってしまった。


「いえ、そうではなく。全部得意なので、一つに選ぶことができなかったのです」


「は……?」


龍族の娘は呆気にとられたのか、無意識に素がでてしまっていた。


慌てて口元を手で隠すが遅い。


この場所で失態を犯せば、どうなるか知らないはずがない。


陰で彼女の今日の失態が貴族たちの中で面白おかしく言われるだろう。


「本当に全部得意なのですか?」


今度は蛇族の娘が尋ねてきた。


「はい。得意ですよ」


「では、弾いてもらってもいいですか?‘若奥様’の腕前がどれほどのものか知りたいのです」


彼女は私を陥れるために演奏しろと言っているが、残念ながらこれでは私を陥れることは絶対に不可能だ。


「ええ。もちろんです」


(吠え面かかせてやるよ)


私が承諾すると、楽器が次々と運ばれてくる。


琴、笛、琵琶、三味線等が私の前に置かれた。


「‘若奥様’のお好きなものから、どうぞ」


「では、そうさせてもらいます」


私は、まず琴を手に取り演奏する。


彼女たちは残念ながら、これが負け戦だとは知らない。


私に演奏で勝とうとするのが間違いだったのだ。


西園寺家の巫女に選ばれた女性は浄化のために、あらゆる楽器を演奏できなければならない。


ただ演奏するのではなく、相手の心を癒し、浄化する。


そのため、腕前はプロを凌ぐほどだ。


このことを知っているのは西園寺家の当主と巫女、それと幹部たちだけだ。


妖に嫁いだ花嫁たちは「浄化の舞」だけしかできなかったのだろう。


だから、私もそうだと思っているのだ。


私が弦をはじき演奏していくと、彼女たちの顔色が変わっていく。


余裕そうな顔だったのに、どんどん顔色が悪くなる。


今はただ弾いているだけで、浄化し癒してはいない。


彼女たちに私の力をタダで教えてあげる必要などない。


「……どうでしたか?」


「まぁ、まぁですね」


蛇族の娘はさっきと顔色を変えずに言う。


ここまで言うということは演奏に自信があるのだろう。


「では、次はあなたが何か弾いてくださいませんか?私も他の人の演奏を聞いてみたいのです。順番に演奏していくというのはどうですか?私の次はあなた、その次は、誰でも構いません。そうしましょう」


私の提案で、種族ごとに演奏していくのが決まった。


そこまで焦っていないのを見るに、これで恥をかかせるのは無理そうだ。


素直に演奏を楽しむのもいいかもしれない。


(ん?視線?)


どこからか、視線を感じたが気配を感じない。


それに、私以外気づいているものはいない。


気のせいか、と思い気づかないふりをすることにした。





「うひゃー。バレるかと思ったぜ」


当主は慌てて木の陰に隠れ、気配を消した。


「それにしても、相変わらず獣みたいな勘もってるな。うちの孫は」


そっと、木の陰から顔を出して花の会を盗み見るのを再開する。


「心配してきたのが阿保らしくなるな」


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