花梨の心変わり
時はあっという間に経ち、「花の会」当日となった。
雪乃が参加をするように言いに来た次の日から、花梨に花の会がどんなものか詳しく教えてもらった。
花梨は「花の会」の名前を聞くと、何を思ったのか怯えた表情を一瞬したがすぐに元に戻った。
逆に他の侍女たちはうっとりした表情を浮かべた。
先に侍女たちの方から話を聞いてみると、その会は女性妖たちの憧れの場所なのだと言った。
人間界で言うと、金持ちのパーティーに近いものだろう。
「花の会」に参加できるのは各種族の長の家のものと、それを支える家の女性たちだけだという。
全員、容姿端麗で頭脳明晰、舞や音楽にも秀でている。
その会に参加したいと思わない女性たちはいないほどの会だと侍女たちは熱く語った。
それに参加するには貴族になるしかないが、もう一つだけ方法があるという。
それは貴族に仕え、優秀な侍女として認められれば、「花の会」のお世話係として参加することが許されるというのだ。
一人の貴族に一人の侍女を連れるのが、「花の会」の当たり前だという。
お茶や菓子を出すのもその侍女たちの役目で、他の者は入ることを許されないのだという。
それでも準備には、他の侍女たちも参加すると思っていたが違うらしい。
何かあってはいけないからと、入る許可をもらった開催される屋敷の侍女たちだけで準備するらしい。
ここまで聞いて私は花梨が何故怯えた表情をしたのかが、わかった。
「ということは、私が連れて行くのは花梨ということね」
「……はい」
見える範囲では花梨の体には傷はない。
だが、あまり嬉しそうな表情をしないところを見るに「裏切り者」として侍女たちに嫌がらせを受けているのだろう。
これは私の落ち度だ。
妖狐の当主の性格から、花梨や侍女たちに制裁を与えるのは私を潰したあとだと思っていたが、読み違えたみたいだ。
それか、侍女が勝手にやっているのかのどちらかだろうが、それでもそれを計算にいれなかった私のミスだ。
花梨以外の侍女たちを下がらせ、周囲に誰もいないことを確認した後に花梨に服を脱ぐよう命じた。
「え?」
服を脱げの命令に驚いた花梨は顔を真っ赤にした。
「あー。ごめん。今のは言い方が悪かったわ。怪我してるでしょ。治療するから脱ぎなさい」
花梨の顔は一瞬で青ざめた。
「いつ気づいたのですか」
「今さっきよ。あんた、わかりやすいくらい顔に出るからね」
早く脱ぎな、と着物を引っ張る。
花梨は抵抗することなく帯を緩めた。
(さすがに、これは許せないわね)
着物で見えなかった花梨の肌には痛々しいほどのあざが沢山あった。
どれも新しく、つい最近できたものばかりだ。
私を‘奥様’と呼んだことが原因だろう。
恨んでもいいはずなのに、最近の花梨からは憎悪を感じなかった。
何故心変わりしたのかはわからないが、私側に無理矢理つけたのだから守るのは当然のことなのに、それができなかった。
「悪かったわ。守ってあげられなくて」
私は神力を使って、花梨の体につけられたあざを綺麗さっぱり跡形もなく消した。
「……つ!」
花梨は自分の体が一種で綺麗になったことに驚きを隠せなかったのか、金魚のように口をパクパクさせるだけで声を発するのを忘れていた。
「あなたを傷つけた相手は私が代わりにお仕置きしてあげるわ。心配しなくていいわ。私が強いことは知ってるでしょう」
花梨が裏切らないという確証はまだないが、今はまだ私の側にいる。
それなら、主人である私の者に手を出した不届きものに罰を与えるのは当然のことだ。
今すぐ、力ずくでやってもいいが、それでは面白くない。
どっちがいいかは花梨自身に選んでもろう。
力かそれとも侍女としてのプライドを粉々にする方か。
「ねぇ、花梨。あなたはどっちの罰を彼女たちに受けてもらいたい?」
「私は……」
「若奥様。本当にこの格好でおでになるおつもりですか?」
花梨はあれほど花の会のしきたりを説明したのにと思わずにはいられなかった。
「うん。どこかおかしい?」
恰好自体はおかしくはない。
寧ろ似合っていてこの世の美しさではないと思うほどだ。
だが、今からの会にはその恰好は相応しくない。
「花の会」というより、妖の世界では着物が主流だ。
着物以外を着る妖などここにはいない。
歴代の花嫁様たちも妖の世界に住み始めたら、ずっと着物を着ていた。
それなのに、若奥様はドレスを着られている。
一目見ただけで高級なことはわかる。
洗練されたその青いドレスは美しく、それを着こなせる若奥様の美も素晴らしいが、そんな恰好で行けば、貴族の人たちにどんな嫌味を言われるかわかったものではない。
考え直すように説得しても「似合ってない?」「私、美しくない?」と「そんなことありません。似合っています。/美しいです」と否定させるようなことを言うので、逆にこちらが説得させられてしまう。
「心配しなくていいわ。最後に笑うのは私だって決まっているから」
堂々と自信満々にいう姿に、確かに大丈夫かもと思ってしまう自分に少し驚いた。
「さぁ。行きましょうか」
若奥様は今日も美しい顔を狐のお面で隠し、女の戦場へと向かっていった。
花梨もそのあとに続いた。
若奥様から頂いた高価な着物を着て。
初めて、人から心の籠った贈り物をもらった。
雅家の人たちからも高価な贈り物をもらったことがあるが、それとは全然違う。
彼らは高価なもので自分たちのような下のものを操るために贈る。
でも、若奥様はこの着物を着ていれば誰も傷つけることができないとわかって贈ってくださった。
花梨を守るために着物をくれたのだ。
例え、もし傷つけられたとしても、そのときは傷つけた者たちが地獄のような苦しみを味わうことになるだけだ。
初めて会ったときは人間の小娘をどうやって痛めつけるかと下に見た。
でも、すぐに恐ろしい女だと従わなければ殺されると思った。
今は、怖いけど思いやりと優しい心を持っている人だと思っている。
花梨は産まれて初めて心から誰かに誠心誠意仕えてみるのもいいかもしれないと思い始めていた。




