雅家
だけど、おあいにく様、としか言いようがない。
あなたたちに認められようが認められまいが、私が‘奥様’になることは決定事項だ。
私が死なない限りは。
そして、私が死ぬことは寿命以外に絶対にありえない。
(いいわ。そっちがその気なら、とことん付き合ってあげるわ)
私は仮面の下で笑った。
「気にしないでください。前回で皆様がどれだけ頭が悪いのか知りましたので気にしていませんし、あなたはきちんと謝罪をしたので許しましょう。ですが、妖狐は頭がいいと聞いていましたが、これは訂正したほうがいいと思いませんか」
雪乃は返事に困った。
いい、と言えば自ら妖狐は頭が悪いと認めることになり、それはプライドが許さなくて絶対に言いたくない。
でも、そんなことない、駄目だ、と否定すれば先ほどの発言が故意でやったと自白することになり、それを花嫁様が見逃すはずがない、と雪乃にはわかっていて何も言えなかった。
こちらから仕掛けたのに、いつのまにか狩る側から狩られる側へと変わった。
「ああ。すみません。答えにくい質問でしたね」
私はそう言ってから、ゆっくりと雪乃に近づき口を彼女の耳に近づけた。
「喧嘩を売る相手はきちんと選びなさい。年上の義妹よ」
雪乃は顔を真っ赤にして、その場から走り去っていった。
私はそんな彼女の後姿を眺めながら、「ざまーみろ」と喧嘩を売ったことを後悔しろ、と心の中で中指をたてた。
雪乃の姿が見えなくなると、私は部屋に戻った。
いつの間にか荷物運びは終わっていた。
私が怒るような物は買っていないだろう、と若干不安を覚えながら届いた荷物を確認した。
※※※
「無様だな」
「……勝手に人の部屋に入ってこないで」
雪乃は布団に顔を埋めたまま言う。
声から入ってきたのは安曇だとわかっていた。
「お前が、負けるなんてな。意外とやるな。あの人間の小娘」
「私は負けてなんかないわ」
雪乃は上半身を起こして、キッと鋭い目つきで安曇を睨みつける。
「いいや。あれは完全にお前の負けだね」
「見てたの。いつから」
「んー、最初からかな」
安曇は雪乃が花嫁のところに向かっているのが見え、気づかれないようにそっと後をつけていた。
妖狐は耳がいいので、遠く離れた場所で交わしている話も聞くことができる。
今回はそこまで離れたところから話を聞いていなかったので、余裕で会話を聞くことができた。
雪乃が何も言えずに無様にやられた姿を思い出し、安曇は声を出して笑った。
それに怒った雪乃は妖力を解放し、耳と尻尾だけを出した半分妖狐へと変わり安曇に殺気を放つ。
「あんた。殺されたいの」
雪乃の宣戦布告に応えるように安曇も妖力を解放し、半分妖狐へと変わる。
「お前が?俺を殺すって?俺より弱いのにか?」
二人はいつ殺しあってもおかしくない状況だった。
二人の妖力は屋敷中に広がり、他の兄弟たちも気づいた。
いつもなら無視するとこだが、たまたま近くにいた霞が喧嘩の仲裁に訪れた。
「二人とも、これ以上やるなら私が相手になるわよ」
霞は妖力を解放することなく淡々と告げる。
霞は雅家で三番目に強い。
安曇と雪乃が二人で戦っても勝てる相手ではない。
二人は素直に従い、人間化へと戻った。
「そう。わかればいいのよ」
霞は何の感情も宿していない目をしたまま言う。
そのまま去っていくのかと思いきや、急に立ち止まり雪乃を見た。
感情が宿っていないような目といきなり目が合い、雪乃は一瞬怯えるも、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
「きちんと‘花嫁様’を花の会に誘った?」
これは確認というより、それくらいできたわよね、という圧に近い確認だ。
「ええ。もちろんよ」
返事は聞いてないけど、とは言える雰囲気ではないため誤魔化す。
「しきたりもきちんと伝えたわよね」
これはあんたが言い出したことなんだから、ちゃんとやってよね、と言われていないのにそう言っているのがわかり雪乃はうんざりする。
(お父様は私に任せてくれたのに、勝手に自分が仕切り役をやろうとしないでね)
いつまでたっても自分が一番みたいな態度をとる霞に雪乃は、こういうことが大嫌いなのよ、と心の中で悪態を吐く。
「それは侍女の仕事でしょ」
雪乃がそう言うと霞はわざとらしくため息を吐いた。
「相変わらず適当ね。侍女の言葉をあの‘花嫁様’がきくと思う?勝手なことをされると雅家が、他の種族から舐められることになるのよ。やるといったなら、ちゃんとやってくれないと困るのよ」
言いたいことを言い終ると霞はさっさとその場から立ち去った。
「……本当に、相変わらずむかつく女ね」
雪乃は歯を食いしばり、拳は血が出るくらい強く握った。
隣で二人のやり取りを見ていた安曇は「女ってやっぱ、陰湿で怖いな」と他人事のように笑っていた。




