勘違い
(ん?ちょっと待って?)
私は桔梗の発言に頭を抱える。
(私の霊力がみえなかった。それは当然よ。私は強すぎるから、神力が膨大だもの。県一つ覆うほどの力だもの。見えなくても当然よ)
うん、うん、と首を縦に振り、見えないのは仕方ないと桔梗は悪くないと許す。
だが、言い方が気に食わなかった。
(え、でも、なんだろう。私が茜より弱いって言われてる気がするんだけど。気のせいかな?気のせいだよね?だって、私の方が強いし。強いのに弱いって言われるなんて、ありえなくない?)
冷静に考えようと頭の中で否定するが、どう考えても「弱い」と言われている気がしてならない。
茜より弱いから、婚約者にされたのだと言われてる気がしてならない。
婚約者を奪われたから、ここに嫁ぐことになっただけなのに、プライドがさらにズタズタにされた。
誰も情報を漏らしていないのならよかった、と思うところだが、弱いからここにおくられたと思われたことがショックすぎて否定する気力もなかった。
その後のことは、何を話したか覚えていない。
桔梗がいつ帰ったのかも覚えていない。
我に返ったときは三日、時が過ぎていた。
まだ、聞きたいことがあったのにと後悔したが、すぐにまた訪ねてくると思っていたので特に気にしていなかったのに、あの日以来、桔梗が訪ねてくることはなかった。
花梨や侍女たちにはきつく口止めをしていたので、未だにそのことが漏れていないのだろう。
その日にも言ったらしいが、覚えていなくて我に返ったときにも言ったせいで、花梨たちは「絶対に漏らしていません」と誰かが裏切ったのだと勘違いし、必死に自分は違うと否定した。
昨日のことのように思い出したその出来事に、先ほどの雪乃の発言を思い出して、おかしくてつい笑ってしまうと、自分が馬鹿にされたことに気づいたのか、雪乃の顔が一瞬、歪んだ。
「何かおかしいことでもありました?」
表情は穏やかだが、口調には棘があり、怒りを隠しきれないところを見ると、まだまだ子供だなと思わずにはいられない。
「いえ。なにも。それで、私に何の御用でしょうか?」
雅家のものが私にただ会いに来るなんてことは絶対にありえない。
なにか企んでいるのは目に見えている。
「ただ、お義姉さまの顔が見たくて会いに来ただけですよ」
雪乃は愛らしい笑みを浮かべる。
その笑みは人間の世界ですれば大抵の人間が虜にされるようなものだ。
だが、私からみれば胡散臭いとしかいいようがない。
(誰がそんな嘘を信じると思うのよ。そういうのはいいから、さっさと本題を言ってくれないかな)
お淑やかな女性を演じ続けるのにも疲れてきた。
無視でいいかな、と思い、それに対して返事を返さなかった。
私が何も言わずにいると、雪乃が勝手に話を続け出した。
「そういえば知っていますか?」
(知るわけないでしょ。主語を言え。主語を)
いきなり知っているかと聞かれても、何を知っているのか言ってもらわなければ、知っているとも知らないとも言えない。
馬鹿だな、と内心呆れつつ返事をまたしないでいると、今度は気にしていないのか笑みを浮かべたまま話を続けていった。
「もうすぐ、花の会があるんです」
(それは、ようございましたね)
「あ、花の会って言われてもわかりませんよね」
(そうですね。まぁ、でも鼻の階がなにかは気になりますね)
妖には変わった風習があるのだな、とドン引きした。
「妖怪の各種族の女性たちが集う場のことを花の会というんです」
雪乃は楽しそうに説明するが、それの何が楽しいのか、私にはさっぱり理解できなかった。
それとさっき言った「はなのかい」は鼻の階ではなく、花の会だと気づき、ほんの少し湧いた興味もなくなった。
自分たちのことを花以上に美しい存在だと思ってつけていそうな会の名に、余計に楽しくなさそうな会だなとは思わずにはいられない。
(はぁ。それで?てか、なんで私に言うのかな、それ……ん?まさか。嘘でしょ。てか、これ、前にも似た感じあった気がするわ)
私は雪乃がなぜここに来たのかが、何となくわかり始めた。
嫌な予感というものはよく当たる。
頼むから違ってくれという願いも、同じくらいよく外れる。
「二週間後に、花の会が開催されるんです。開催場所は、毎回各種族の当主の屋敷で行われるんです」
雪乃は最初から私の返事などに興味がなかったのだろう。
私が反応するよりも先に話を続けていく。
「次の開催地はこの雅家で開かれるんです。当然と言えば、当然ですよね。‘花嫁様’に皆様、お会いしたいのですから。’花嫁様’の参加は決定事項ですので。あ、すみません。‘花嫁様’ではなく、‘奥様‘とお呼びするべきでしたね。申し訳ありません。まだ、お父様が当主なので、どうしても‘奥さま‘の座はお母様のものだと勘違いしてしまいまして」
(勘違いね。わざとやったの間違いでしょ。可愛らしい顔とは違って結構な腹黒さなことで)
目的は私を「花の会」に誘うことだと思ったが違った。
正確にいえば、これも目的の一つで私に会いに来たことは間違いないだろう。
でも一番の目的は私に「お前は‘奥様’ではなく‘花嫁様’に過ぎない」と「私たちがお前を‘奥様’として認めることはない」と教えるつもりだったからだろう。




