心配
「わかっているのなら、なぜあんなことをした!?」
(やっぱり、おかしいわ。なんで、私の心配をするの?)
さっきまでは、まるで物置のように表情すら動かなかったのに、今は別人なのではと疑うレベルで表情が豊かだ。
「勝つ自信があるからです」
「勝つ自信だと?自分が何を言っているのか、本当にわかっているのか?」
怒りを通り越して呆れてくると言った表情をする桔梗に、失礼な奴だなと私は思わずにはいられなかった。
「もちろん。わかっていますよ」
「いや、君は何もわかっていない」
(いや、なら、なんで聞いたのよ)
「雅家がどれほど恐ろしい存在なのかを」
(うん。そりゃあ、昨日会ったばかりだからね)
自分のことのように焦りだす桔梗を他人事のように眺めながら、花梨に淹れてもらっていたお茶を飲む。
(ぬるいな)
話しているうちに冷めたようだ。
熱々がよかったのにな、と残念に思っていると、桔梗の声がさらに大きくなった。
「このままじゃあ、君も殺されることになるぞ!」
(君も?)
桔梗は興奮したせいか、自分が何を口走ったか気づいてないようだ。
これには、まだ触れないほうがいいと勘が訴えているので、気づいていないふりをして話を変えることにした。
「心配していただけるのは嬉しいですが、その心配はいりませんよ」
「君が、浄化の舞を踊るものだからと安心しているのか」
「もちろん。それもありますが……」
(いや、全然思ってなかったわ。そう言えば、私って浄化の舞を踊らないといけないんだったわ。踊りって、どんなのだったけな?)
桔梗に言われるまで、自分の役目をすっかり忘れていた。
「こうみえて私、当主に気に入られているんです」
自分で言っていて気持ち悪いと思うが、嘘は言っていない。
正確にいえば、私の力を気に入っているのだが。
「当主って、西園寺家の当主のことか」
桔梗は疑うような顔で私を見てくる。
全く信じていない様子だ。
(失礼だな、おい)
心の中で一応、否定はするが口に出してまで否定するほどの関係でもないので、誤解されたままでもいいや、と思い放っておくことにした。
「そうです。こうみえて、私強いんですよ」
机の上に肘をつき、軽く握った拳の上に頬を置いたポーズをしながら、私は桔梗を見上げた。
このポーズをしたあと、仮面をつけていたことを思い出した。
仮面のせいで指がはさまり、痛くて仕方ない。
今すぐこのポーズをやめたかったが、それでは恰好が悪くなるので耐えることしかできない。
「なら、なんで君はここにいる。弱いから送られてきたのだろう」
本来、ここに来るはずだった茜は確かにそれが理由で嫁ぐことが決まった。
だが、私は違う。
それなのに、弱いと決めつけられるのは心外だ。
「一つ聞きたいことがあります」
「……なんだ?」
「なぜ、私が婚約者ではないと気づかれたのですか?」
ずっとこれが聞きたかった。
初めて会ったときは、それどころではなかったので聞かなかったが、聞ける時がきたら聞こうと思っていた。
人間社会にいける妖は一部だ。
雅家の性格を考えるに桔梗以外は、なぜ自分たちが人間なんかの世界にいかなければならない、と思ってそうだ。
そんな考えを持っている当主が、桔梗が行きたいと言っても行くことを許すとは思えない。
誰かが教えたのは間違いないが、それならほかの雅家の者たちも知っていておかしくないはずだ。
さっきのときにそのことについて誰も触れてこなかったので、まだ知らないのだろう。
花嫁が変わったことに。
「一度だけ人間の世界に行ったことがあるだ」
(この言い方だと、無断で言ったんだな)
私は何となくこの後に続く会話が想像できた。
「婚約が決まったとき、誰が俺の婚約者になるか気になってな」
(うん。予想通りだな)
「そのときに婚約者を見たんだ」
(漫画やドラマでは、ここで一目ぼれが起きるけど、あのクソ女に一目ぼれしたって言ったらぶん殴ってやる)
茜の憎たらしい顔を思い出し腹が立った。
なにより、思い出した顔が結婚式の日に私の結婚相手と愛し合っていると言ったときの顔を思い出してしまったので、余計に茜のことを好きだと言われたら、桔梗にその怒りが向かってしまいそうだった。
「彼女も自分と同じで見放された存在なのだと」
(うん。許す)
私はつい笑みを浮かべてしまった。
どうみても、笑うタイミングではないとわかっていたが、茜に恋愛感情があったわけではないとわかり嬉しくなった。
幸いにも、仮面をつけているので、桔梗には笑ったところは見られていないので問題はない。
「初めて会ったときに彼女の霊力は覚えていたから……」
(霊力じゃなくて神力ね)
妖にはその違いはよく分からないのか、それともどうでもいいから霊力と一括りにしているのかもしれない。
まぁ、言い方なんてどうでもいいかと指摘はしなかった。
「花嫁様が嫁ぎに街に入ったとき、ここからあなたを見たが全く霊力がみえなかったのでそれで気づいたんだ。あなたが俺の婚約者ではないことに」




