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狐の嫁入り  作者: 若狭巴
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勝つ自信

「もう一度、調べなおしてご報告いたします」


「いや、その必要はない。せっかく、本人がここにいるのだ」


「その通りです。お父様」


ずっと黙っていた雪乃が声を出した。


「その顔は何か妙案がありそうだな」


「はい。近いうちに各種族の女性陣の集いがあります。今回は例年通り、花嫁様のお披露目になるでしょう」


雪乃が何を言いたいのか、当主はすぐにはわかった。


毎回、妖に嫁いだ花嫁たちが各種族の女性陣から強烈な歓迎を受ける儀式だ。


仮面のせいで花嫁の顔を見られなかったが、あの顔が歪むと想像するだけで今から楽しみで仕方ない。


「そうだな。それがあったな。雪乃。そこでのことはお前に任すぞ」


「はい。お任せください。必ずや期待に応えてみせます。お父様」


「暫くは、花嫁様のことは放っておいてやろう。つかの間の幸せを楽しませてやらないとな」


お披露目が終わったら、自分の立ち位置を理解できるはずだ。


その後に今日の分も合わせて仕返しをすればいい。


全員、同じ気持ちなのか異論はないみたいなので、花嫁を潰す件はこれで終わった。


だが、他の問題がまだ残っている。


その件については、安曇が最初に口を開いた。


「それで、あの裏切り者たちはどうしますか?」


安曇はいつもと変わらない口調で話すが、内心腹を立てているのが当主にはわかっていた。


他の者も安曇と同じ気持ちだろう。


自分たちが格下に舐められた態度をとられたのだ。


怒るなというのが無理な話だ。


当主なら、きっと残酷な罰を与えるだろうと期待したが、当主の口から出た言葉はそれとは真逆だった。


「それも放っておけ」


当主の予想外の発言に雅家の者たちは戸惑いを隠せなかった。


「何も罰を与えないのですか?」


梨々花が尋ねる。


妖狐は裏切りをよくすると言われるくらい裏切ることが多いいが、雅家の者たちは自分がするのはいいが自分より下の者に裏切られるのは絶対に許せない。


特に当主はそうだ。


自分を裏切った相手を徹底的に潰し、後悔させてから殺すことで有名なのに、侍女たちを許す発言に驚かないほうが無理だ。


「そんなことは一言もいってないだろうが」


本当になにも考えずに言う、梨々花に苛立ちながら当主は答える。


「では、そうするおつもりですか?」


霞が怯えて言葉を発せなくなった梨々花の代わりに尋ねた。


「仕えている主が失脚した後に罰を与える」


なんて残酷なことを考えるのだと、全員が当主に感服した。


「見ものだな。雅家を裏切った者たちがどうなっていくのか。今から楽しみだな」


当主の言葉に賛同するように、雅家の者たちの影が人から狐へと変化した。





※※※





雅家に嫁いで一瞬間が過ぎた頃、ようやく燃やされた荷物の代わりが届いた。


持ってきた荷物とは違うものだが仕方ない。


花梨たちにも自腹で同じようなものを買わせたが、これは罰なので同情はしない。


雅家が弁償で贈ったものの方が高価なので、実際に使うのは今贈られたものの方だ。


荷物を部屋の中に運ばれているのを、外で見ていると雪乃が訪ねてきた。


「まだ、仮面付けているのですね」


雪乃は小馬鹿にしたような表情を浮かべながら、鈴のように愛らしい声で棘のある発言をした。


まだ、桔梗は婚姻してから一度も訪ねてこないのか、と遠回しに喧嘩を売ってきた。


(何も知らないって無知ね)


残念ながら、桔梗はあの朝食の一件のあと私を訪ねてきた。


夫婦だから妻の部屋に来ること自体はおかしくないが、初夜には訪れなかったのに自分勝手な人だなと思った。


桔梗は私の許可を取ることもせず、怒り任せに障子を開けた。


花梨たちが必死に止めようとしたが、桔梗は止まらなかった。


だが、このとき私は妙な違和感を覚えた。


桔梗も雅家の一員なのに、なぜ花梨たちは臆することなく必死に止めようとしているのか、と。


私が恐ろしいからと言われたら、それまでだが、それにしてもさっきまであんなに怯えていたのに今は大丈夫なのかと疑問に思う。


花梨たちでは桔梗を追い出すのは難しいだろうし、私も話したいことがあったので丁度いいからと侍女たちを下がらした。


「どうぞ。座ってください」


立ったまま睨みつけてくる桔梗に座るように促す。


桔梗は素直に従ったが、睨むことはやめなかった。


「それで、私に何の用でしょうか」


「なんのことか、わかっているだろ」


(ええ。もちろん)


「さぁ?なんでしょう。言っていただかないとわかりませんね」


桔梗が何をしに来たかわかっていたが、あえて知らないふりをした。


今の言葉は私がふざけているだけだと桔梗もわかっているので、眉間によっていた皺がさらに険しくなった。


「なぜ、あのようなことをしたのだ?」


「売られた喧嘩を買っただけですが?」


悪びれない態度でそう言った。


彼の眉が一瞬、動いたがすぐに何もなかったかのように元に戻った。


「その結果、あなたがどんな目に合うかわからないか!?」


まるで私を案じているかのように桔梗は怒鳴る。


「もちろん。わかっていますよ」


それが、狙いなのだから。


どちらが上かはっきりわからせるには、仕掛けてくる攻撃を全て防ぎ、こちらの攻撃は全て命中させること。


勝つ自信があるから、喧嘩を受けたのだ。


私は負け戦など絶対にしない。


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