敗者の代償
私の指摘で梨々花はようやく自分が愚かな発言をしたことに気づいた。
当主と夫人は梨々花を睨みつけ、他の兄弟たちは呆れた顔をした。
勝手に自分が愚かなことを考えもせずに口から出したのが悪いのに、梨々花は顔をさらに真っ赤にして、血走った目で私を睨みつけた。
手のところまで視線を下げると、彼女は拳を握りしめていた。
完全に逆恨みだ。全くいい迷惑だ。
「犯人はいずれ見つけていただくとして、これはそちらの落ち度ですよね。現当主様」
「……ああ。その通りだな」
‘現当主’が気に食わなかったのは間違いないが、ようやく私が普通の花嫁様ではないと認識したのか先ほどとは打って変わり、冷静に見極めようとしていた。
主導権を奪われた以上、今更遅いとしか言いようがない。
それとも、今回は負けを認め、次に勝とうとして見極めようとしているのなら闘いがいのある相手だと少しは見直せる。
「それで、何が望みだ」
自分たち妖狐が花嫁に負けた事実を外に漏らされるのがそんなに嫌なのか、当主は素直にこちらの要求をきく様子だ。
「当然。盗まれたものを返していただきたいです」
それは無理だと、ここにいる全員がわかっていた。
だが、わざとそう言ったが雅家の者たちは内心どう思っているかは知らないが、慌てず無反応を貫いた。
「それと、この服の代金も支払っていただきます。そちらのミスで買う羽目になったので問題ありませんよね」
「……ああ。わかった。支払おう」
「それと、他にも買ったものがあるので、その支払いもよろしくお願いしまうね」
「ああ」
当主の顔はそのままだが、梨々花と夫人の顔が一瞬歪んだのを私は見逃さなかった。
「他は何かあるか?」
「ありません」
「……」
「……」
「……まだ、なにかあるのか?」
ようやく話が終わったと当主は思ったのに、私がまだ部屋から出ていかないので苛ついた口調でそう尋ねてきた。
「まだ、大事なことを聞いていませんので」
「大事なこと、だと?」
なんだ、それは、と言いたげな表情をして睨みつけてくる。
「はい。謝罪です」
謝罪、その言葉を聞いた瞬間、もう我慢できないと言った感じで、梨々花が立ち上がった。
「あんたね……!」
調子に乗るのもいい加減にしなさいよ!と怒鳴るつもりが、それより先に長女の霞に「座りなさい」と諫められた。
だが、梨々花は座ることはなく「でも……!」と言わせて欲しいと懇願するが、さっきよりも冷たい声でもう一度、目を見ながら「座りなさい」と言われ、素直に座った。
「悪かった。このようなことは二度とないようにすると約束しよう」
当主は梨々花が座るとすぐに謝罪をした。
全く心の籠っていない謝罪だったが、これ以上を求めるのはやめといたほうがいいだろう。
今日のところは。
「そうですか。わかりました。その言葉、信じていいですよね」
「あぁ。もちろんだ」
「では、今度こそ失礼しますね。荷物が見つからなければ、全部弁償してもらいますから、そのつもりで必死に探してくださいね」
最後の最後に一番大事なことを伝え、今度こそ部屋から出た。
そのあとは、来た道を花梨と外で待機していた侍女たちを連れて戻った。
外に出た瞬間、待機していた侍女たちと雅家の各々の世話係の使用人たちは顔面蒼白だったが、いい気味だと思い、彼らには神力を使わず、そのまま怯えていろと見捨てた。
用意された部屋に戻ると、朝食を持ってこさせ優雅に食べた。
用意された嘲笑は豪華だったため、彼女たちが頑張って料理人たちからとってきたのだろう、とすぐにわかった。
変なものでももってきたら自分の命が危うくなるのだから、頑張るのは当然のことだった。
だが、彼女たちはこの行動がのちのち自分たちの首を絞めることになるとは思ってもみなかった。
最初から豪華食事を当たり前に出せば、これからずっと三食豪華な食事を用意しないといけなくなるのだから。
まだ、そのことに気づいていない侍女たちはとりあえず難は逃れたと安心しきっていた。
あと数時間後の昼食で大変な目に合うとは思いもよらずに。
※※※
未桜がはやから出て行った後の雅家たちの空気は張りつめていて、当主と長男、長女以外は息をするのもやっとの状態だった。
それは、当主から漏れ出した妖力が原因だった。
当主が何も言葉を発さないので、誰一人口を開くことが許されなかった。
「梨々花よ」
ようやく当主が口を開いたと思ったのに、自分の名前が呼ばれた梨々花はあからさまに肩をビクつかせ怯えた。
「はい。お父様」
梨々花は当主が声からも怒っているのがわかり、怒られると身構える。
「なぜ、あのような愚かな発言をしたのだ?おかげでこの私が、人間の小娘に謝罪する羽目になったではないか」
「も、もうし、わけ、ありま、せん」
当主の殺気が恐ろしく、梨々花は声を出すのもやっとだった。
「彪雅よ」
「はい。父上」
今度は自分か、と彪雅は梨々花と違い顔と態度には出さなかったが、内心は怯えていた。
声が震えていて、聞けばわかるほどだった。
「お前もだ。なぜ、あのとき‘花嫁様’と言った」
「も、申し訳ありません」
手を床につけ、頭も床につくくらい下げて彪雅は謝罪した。
「お前たちは、いつも口ばかりだな。もうよい。それより、どうなっている、凪。お前の報告と実際の‘花嫁様’は偉く違うんだが」
凪に怒りの矛先が変わり、梨々花と彪雅は安心からかドッと疲れ汗が大量に出た。
「申し訳ありません。私のミスです。西園寺茜がここまでだとは思いませんでした」
凪は怯えることなく淡々と話す。
凪自身が調べたのではなく部下に調べさせただけなので実際はわからないが、もし人間社会にいたときは性格を偽り過ごしていたのなら大した女だと感心した。




