価値観の違い
「嘘でしょ。こんなに高いの?」
花梨や侍女たちは唖然とした。
「当然すっよ。これは人間たちの中でも高級ですけど、ここじゃあ、さらに高級になりますよ」
店の店主はおちゃらけた口調で話す。
「でも、ここじゃあ、誰も着ないじゃない」
「そうっすね。でも、あなたたちはこれが欲しいんでしょう?」
妖狐は妖の中では卑しい存在だとよく言われる。
その言葉を聞くたびに腹が立つが、今花梨たちもこの店主に対して同じことを思っていた。
(足元を見やがって)
花梨は花嫁にたいしての怒りすらまだ収まっていないのに、店主のせいで怒りが爆発しそうになった。
それでも我慢するしかない。
この店以外で人間の世界のものを手に入れることなどできないのだから。
「とりあえず。これとこれとこれ。それと、ここの棚にあるものを全部ちょうだい。それと、指定したものを用意することはできる?」
「もちろんできますよ」
店主は目を細めながら怪しく笑う。
「なら、お願いするわ。その件はまた来たときに話すわ。とりあえず今は、これだけでいいから早く用意して」
「畏まりました」
店主は花梨が言ったものを包んでいく。
商品と代金を交換すると、花梨たちは店主の言葉を聞く前に、さっさと店から出て言った。
「ありがとうございました。またのお越しを楽しみにしております」
誰にも聞こえないのに、店主はそう言った。
売れた商品が置かれていた場所を見て、にんまりと笑う。
「はぁ。あの噂はほんまやったんやな。花嫁様が西園寺未桜になったって。これは、面白くなりそうやな」
店主は顎をさすりながら悪い顔をして笑った。
「あ、西園寺未桜が花嫁になったのなら、人間の世界にあるもの沢山仕入れてとかんとな」
店主は店の看板を営業中から休業にして、人間の世界にある商品を仕入れるために出かけた。
※※※
「それで、用意できたのはこれだけだと?」
「はい。申し訳ありません」
花梨たちが出かけてから戻ってくるまで一時間が過ぎたくらいだ。
その間に、誰かが「遅い」と呼びに来るかと思ったが来なかった。
私が花梨たちに虐められているから邪魔しないように来なかったのか、それとも既に朝食を終えたかのどちらかだろう。
後者の方が一人で朝食を食べられるので気を使わなくていいが、やり返すのには前者の方が罪悪感を全く持たなくて済む。
「まぁ、今日はこれでいいわ。その代わり、明日には全部揃えておいて」
花梨たちが用意したのは、ドレス三着とワンピース一着ヒール二足スニーカー一足とメイク道具一式だ。
これだけあれば、朝食に出るには問題ない。
とりあえず、ドレスを着るわけにはいかないので着る服は必然的にワンピースになる。
このワンピースはハイブランドで尚且つ世界に百着しかないものだ。
洗練されていて美しいが、なぜこれが妖の世界にあるのだと疑問に思う。
「謎だわ」
考えても答えはわからないので意味はないが、気になってしまうのは仕方がない。
「準備するから手伝って。それくらいはできるわよね」
「はい。もちろんです」
花梨は雅家の者たちの顔や髪を整えることを許される数少ない者の一人であるため自信があった。
「なら、よろしく」
「はい。お任せください」
花梨は侍女たちを部屋から出すと仮面を外した。
私の顔を見た瞬間、花梨は驚いて固まった。
妖狐は美しい妖として有名だが、私の顔はそれ以上だったみたいだ。
花梨は気を取り直すと、髪から始めた。
雅家の方々がお待ちしているから急がないといけないと内心焦るが、それよりも焦って失敗して花嫁の機嫌を損ねることの方が怖かった。
雅家の女性たちにしたときよりも丁寧に施した。
だが、花嫁からの贈られた言葉は最悪だった。
「なにこれ?信じられない」
私は花梨の「終わった」という言葉を聞いて、渡された手鏡に移った自分の姿を見て絶句した。
人間と妖では美の基準がここまで異なるのか、と。
花梨の様子からわざとやったわけでなはいとわかっていたので怒ることはしなかったが、それにしてもこれはひどい。
江戸時代、いや平安時代にまで時が戻ったのではないかと思うほどだ。
買ってきたメイク道具を使っていない時点で気づくべきだった。
慣れてないから、慣れているものの方がいいだろうと思い花梨の道具を使わせたが、それが仇になるとは思わなかった。
仕方ないので、メイクは全部落とし、髪もほどいた。
ここには電気がないのでヘアアイロンやコテを使うことができない。
そもそも、燃やされたので今はない。
方法は一つしかない。
神力を使って髪を巻くしかない。
「こんなことに神力を使って」と西園寺家にいたときは怒られたが、今はその経験が役に立った。
メイクをするにも鏡が必要なので、手鏡を神力を使って顔の前で固定し、メイクをしていく。
いつもは西園寺家の侍女がしてくれるので自分ではあまりしないが、したことがないわけではないので問題なくできた。
「うん。完璧ね」
鏡に映る自分を見て私はそう呟く。
花梨も私の顔を見てうっとりとした表情を浮かべていた。
「仮面を」
「つけていかれるのですか?」
「ええ」
「せっかく、お美しいのにもったいなくありませんか?」
媚びをあからさまに売られるのはあまり好きではないが、今は花梨を手駒にできたことの方が嬉しく聞き流すことにした。
「だからよ」
私が何を言っているのか理解できていない花梨は首を傾げたが、それを無視して雅家の人隊が待っているであろう部屋に花梨たち侍女を引き連れて向かった。




