第八話 初めての
―――アタシがカレンの一番最初の友達だね!―――
心地の良い風に起こされ、重たい瞼を開ける。顔に温かい光が当たり、眩しい。
ぐぅーッと伸びをし、また目を閉じて眠りに落ちる―――――ことはなく、突然の衝撃に、木がグラグラと揺る。
「うえ、何だァ?!」
「え、わわっ」
カレンはバランスを崩してしまい、真っ逆さまに木から落ちる。
己の反射神経で空中でバランスを取り、ラーベを抱きかかえると、木の真横にいるイノシシの魔物へ、尻尾を振り下ろす。
核を破壊した魔物の死体を避け、地面に着地する。
今起きたばっかだというのに、朝っぱらから魔物は騒がしい。
「うわー、ごめんねー! 大丈夫?」
声が聞こえた方へ振り返ると、一人の小柄な女性がこっちに走ってくるのが見える。女性は大きな弓矢を背負っている。
「はぁ、まっさか、こんな子供が森にいるなんてねー。 迷い込んだの?」
女性は笑顔だが、不思議そうにカレンを見つめる。
「いや、木の上で寝てたら、急に揺れて、落ちた」
「落ちた?! 怪我はない?」
女性はあわあわとなりながらカレンの身体を観察する。
「あなたは?」
「あー、アタシ? いやー御飯用のイノシシの魔物を仕留めようとしたら矢を外しちゃってさー、追いかけてたら、君がいる木に突進したもんだから、あれは焦ったねー」
なるほど、落ちたのは追われていたイノシシが木に突撃したのが原因らしい。
「名前は?」
「あ、そうだそうだ自己紹介! アタシはイレーネ! 君は?」
「僕はカレン。これは使い魔のラーベ」
すると、カレンの手からスルリと抜け出し、小さく黒い物体は高らかに宣言する。
「オレは最強の魔人、ラーベ様だ! 聞いてオノノケ! ナーハッハッハ!」
自称最強のラーベは呆れられていることも知らず、笑い続けている。
「あれが?」
カレンはコクリと頷く。
イレーネは苦笑いをしながらラーベを見ている。
「とりあえず、ギルド行く?」
「え、カレンって冒険者なの?」
カレンは尻尾でラーベを確保しながら、イレーネの話に耳を傾ける。イレーネはカレンに生えている尻尾をギョッとしながら凝視している。
「そうだよ」
「へ~・・・」
ラーベをガッチリと捕まえ、ゆらゆら揺れている尻尾に、イレーネは興味津々だ。
「ねえねえ、そのー・・・カレンって魔人とかなの?」
「え? なんで?」
「いやー、尻尾って言ったら獣人の子とか思い浮かべるんだけど・・・カレンは耳とか生えてないみたいだし、それに、尻尾の質感とかドラゴンみたいだし」
「僕もよくわかんない。気づいた時からあった」
「そうなんだ」
尻尾で捕まえたラーベを両腕で抱え、街の方を向く。
「行こ」
「あ、うん!」
イレーネは小走りでカレンの隣まで来ると、歩幅を合わせて歩く。
すると、イレーネは丸っこいラーベに顔を近づけ、ぽよぽよしているラーベを指でつつく。
「うぉー・・・」
「おい! オレ様をつつくな! 気安くラーベ様に触るな! やめろ!」
ラーベは体の一部を伸ばして変形させ、カレンよりも小さい手を生やした。その生やした手でイレーネのつんつん攻撃に応戦しているが、イレーネは楽しんでいるように見えるため、逆効果なように感じる。
「よっ、はっ・・・とぅ!」
「フンッ、少しはやるようだな人間! だが、まだオレ様には敵わん!」
「く、くそぅ・・・!」
「ナーーハッハッハー!!」
冒険者ギルドに入り、たくさんの依頼の紙が貼られている掲示板で依頼を探すが、良い感じの依頼は見当たらず、受付嬢のオリヴィアに絡むイレーネと―――それを見守るカレン。
「オリヴィアー、いい依頼ないー?」
「探したどうかしら?」
オリヴィアはダル絡みに近いイレーネを呆れ顔で対応する。
「探したのー。でも無かったのー!」
「なにも、依頼で時間を潰すこともないじゃないの? カレンちゃんはこの街に来たのも昨日だし、観光でもしてみたらどう? あなたはカレンちゃんの付き人で」
「ええ! 昨日来たの?!」
「うん」
「なるほどね! じゃあ、アタシがこの街を案内してあげる!」
「カレンちゃんがいいって言ったらね」
「いいと思う」
「おお! じゃあさっそくー! 行ってきまーす!」
イレーネはカレンの手を引き、ウキウキしながら冒険者ギルドを出た。
大きい街の中を歩きながら、あそこは街でも有名なレストランだとか、あっちはイレーネの好きなパン屋だとか、時には買い食いをしながら街の風景を楽しんだり、店に寄って商品を見たりと、初の観光を楽しみ、いつの間にかあたりは暗くなっていた。
しかし、それも、街の明るい灯りが人々を照らしているため、あたりが暗いのも関係ない。
「じゃあ最後の買い食い! なにがいい?」
「おまえ・・・まだ食うのかァ?」
「よく食べる」
「あったりまえでしょ? 観光って言ったら、買って食って見る、でしょ!」
「食べすぎだぞ・・・太るぞ」
イレーネはカレンから黙ってラーベを奪い取り、両手で左右に伸ばせるだけ伸ばす。
もはやスライムみたいだ。
「やめろォ! イテェよ! 放せ!」と騒ぐラーベを無視し、イレーネはカレンの方に振り向く。
「カレンは何か食べたいものとかある?」
「いや、特に。でも、十分楽しい」
ほんの少しだけ口角を上げ、しかし真顔に近い表情でカレンは言った。
「観光とか、初めて」
「友達は? 観光とかしたことないんだ?」
「うん。友だち、もいないかな」
「じゃあ・・・アタシがカレンの一番最初の友達だね!」
「・・・。うん」




