第七話 冒険者ギルド
「帰ってきたぞー、命拾いしたぜ」
三人の冒険者についていき、冒険者が集まる冒険者ギルドへとたどり着いた。
ギルド内は簡単な酒場のような形をしていて、受付から少し離れた所に四角のテーブルと長椅子が置かれ、受付場の左右の壁に文字がつづられた紙が、適当に張られている。
ほんのり酒臭い。
「オリヴィア」
「お帰りなさい。命拾いしたんですって?」
「ああ・・・まあ、そうさ」
「けど、意外な奴に助けられたんだよな!」
「いがいなやつ?」
受付嬢はキョトンとした顔をして冒険者のリーダーをじっと見つめる。
やれやれ、というような顔をして、冒険者は言う。
「そのことで、紹介したい奴がいるんだぜ」
更にキョトンとした顔をし、カレンを見る。
「もしかして、そこの子?」
「おう」
オリヴィアという受付嬢は冒険者たちを一瞥し、カレンを見る。
深呼吸をし、フロア一帯に響く声で、冷ややかな声で言う。
「こんな幼い子供を、冒険者にしよう、とでも?」
受付嬢はさっきの親しみやすい雰囲気と反対に、真冬の外気温並みの冷気を巻き散らし、冷ややかな眼差しで冒険者たちを見捉える。
サア―――っと血の気が引くのを感じ、背筋がピンと伸びる。
「い、いやいやいや! 確かに子供で幼いけど、実力は本物だし! D級ぐらいの魔物を一人でやっつけたんだぜ?!」
受付嬢、オリヴィアは、驚いた顔をしたが、目を閉じて冷静になる。
「それで? 子供なのは変わりません」
冒険者たちは青ざめながら、文字をつなげて弁明する。
カレンの口はチャックが付いたかのように開くことすら許されず、おかげで言葉を発せない。
「実力は本物で・・・・・すぐA級にも―――」
「A級にも、なんですか?」
小柄な魔法使いの少女は、カタコトになりながらも、死ぬ覚悟の顔で言った。
「そ、そそそそ・・・そんな、顔、したら、怖がる・・・この子・・・」
少女がそう言った途端、オリヴィアはパッと笑顔を作り、優しい声で言った。しかし、冷ややかさは隠しきれていない。
「まだ幼い子供を冒険者にしようなんて、いかれていると存じます」
「隠しきれてないぞ・・・」
「ウッフ・・・」
カレンは口をパクパクカクカクと動かし、懸命に言葉を繋げた。
「冒険者、なりたい・・・言った、僕・・・」
陸に打ち上げられた魚のようになりながら、必死に口と頭を動かし、冒険者は弁明し、カレンは冒険者になれるように喉がカラカラになるまで言い訳を続けた。
数十分して、やっとオリヴィアの冷気がなくなり、言い訳をすることに成功した。
「カレンさんの言うことは分かりました。しかし、冒険者は自己責任の命を落とすかもしれない危険な仕事なのです。それでもいいのですか?」
コクンと頷き、意思表示をする。
オリヴィアはやれやれとでも言いたげな顔をして、哀れむ様にカレンを見る。
「ええ、ではまず、冒険者になるには冒険者登録する必要があります」
オリヴィアは両手程の水晶玉を取り出した。
「これの上に手を置いてください。優しくですよ」
手を持ち上げ、水晶に触れようとした時、頭の中で声がした。あの不思議な声とはまた別の。
『カレン、魔力をできるだけ抑えろ。教えたろ』
触れようとしていた手は突然の声に停止する。
オリヴィアはそんなカレンを不思議そうに見て、声をかける。
「怖がらなくていいですよ。皆、登録するときはこれでステータスを測るんです。ランクもステータスによって変わりますが」
(口調的に、ラーベ。起きてた?)
オリヴィアの声はカレンには聞こえておらず、カレンの意識は完全にラーベの声の方に取られていた。
『早くしろ』
(魔力を抑え込む・・・)
カレンは魔力を抑え込むのに集中し、数秒後、水晶に手を触れた。
すると、水晶に文字が浮かび上がった。魔力量、攻撃力、防御力、魔力耐性といった文字と、数値。
魔力量――—一二〇
攻撃力――—七八
防御力――—六七
魔力耐性――—八九
「ここまでとは・・・」
「なにもんだよ・・・」
「魔力量・・・・・一二〇・・・?」
冒険者たちは面白がる者や、呆然とした顔で水晶を見つめている。
オリヴィアは呆然として、ただただ水晶を見ている。
「おっあ、ヤバくね?」
「子供なのか?」
「ただのバケモンだろ」
いつの間にか、周りにいた冒険者たちが水晶の文字を見ようと集まってきていた。後ろから大量の視線を浴び、自然と体が固まる。
カレンは、皆こんなものなのかと、思いながら水晶を凝視する。
(こいつ・・・魔力を抑えてもこれなのか・・・本当に、――—の力はとんでもねえな・・・)
ラーベの心の声はカレンには届かない。
我に返ったオリヴィアに、集まってきていた冒険者たちは追っ払われた。
オリヴィアに冒険者登録証明書兼、身分証明書となるギルドカードを作ってもらい、無事冒険者になることができた。
冒険者の初期ランクはF級、しかし、カレンは冒険者ランクのD級から始めることになった。
本当はB級からでもいいらしいが、子供だからと、D級からにしたそうだ。
冒険者になり、金の出所を得たことで、さっそく依頼を選び、森に来ていた。
依頼内容はゴブリンの討伐。証拠として、倒したゴブリンの耳をギルドまで持ち帰る必要がある。
多く倒した方が昇級への道は早くなるそうだ。
「ちゃっちゃと倒して金貰おうぜェ」
最初のラーベは「ゴブリンなんて雑魚の相手しても楽しくねえ」と言っていたが、いざ来てみれば、少しウキウキしてる様に見えなくもない。
「なあ、ゴブリンのついでに他の魔物もかってこうぜ。その方がショウカク? しやすくなるんじゃね?」
「ん~・・・まあ、いいけど」
「オッシャ! このラーベ様にかかれば、こんなちいせえ森の魔物なんか一瞬で狩りつくせるぜ!」
「狩りつくされるのは困るからやめて」
「フンッ、つまんねえ奴」
カレンたちは魔力感知を使い、魔物の居場所を探りながら森を進む。
ガサガサと葉が擦れ合う音が耳に入り、足を止める。
魔力反応的に、中級くらいの魔物。いきなり相手を襲わないのを見ると、狼系の魔物だろう。
「ヘンッ、まだまだ雑魚だな」
ラーベは胸――—を張っているのか、そもそも胸がどこだか分からないが―――を張って、偉そうな態度をとる。
ばッと狼型の魔物が草むらの中から飛び出し、カレンに向かって襲い掛かる。
カレンは拘束魔法を使い、魔物たちを拘束すると、己のドラゴンの鱗に似た鋭く長い尻尾で、狼たちの核を貫き破壊する。
たちまち狼の魔物たちは動かなくなり、拘束魔法を解くと、脚から崩れ落ちた。
すると、森の奥から複数のゴブリンが木の棒を持って突っ込んでくる。
焦らず相手を観察し、正確に核を尻尾で破壊する。
その後も森で目に入った魔物を一匹残らず殲滅し、亜空間に収納する。
森で遭遇した魔物は数十体のゴブリンと、狼の魔物たち、ムカデの魔物、デカい熊の魔物など。
ラーベはドラゴン級の強い魔物と会えず、プンスカしながら愚痴を吐く。
依頼用のゴブリンの耳を提出し、報酬金を受け取る。今日狩った魔物も買取をしてもらい、まあまあな額の金を受け取った。
オリヴィア曰く、解体した方が高く売れるルールらしい。
金は手に入れたが、宿をとるとすぐに無くなるかもしれない。その為、森で野宿をすることに。
風呂に入らないと臭いので、ギルドについている浴場を使っている。
あのギルド、なかなか金持ちである。
食事もギルドで軽く済ませ、森の木の上で熟睡する。
ラーベはカレンの腹の上に乗っかり、ゴロゴロ落ちそうになりながら寝返りを打つ。
落ちそうになってもスライムの様にビヨーンと伸び、絶対に落ちない。何とも奇妙な使い魔である。
カレンは明日は何をしようかと考えながら、眠りにつく。




