第六話 十四の英雄像
森を歩き続け数時間。ようやく王都アーベンが見えてきた。
「あれが王都アーベンだ」
「おお」
「ようやく見えてきたなあ・・・疲れたぜ」
遠くから見た王都は、手のひらに乗るほどの大きさだ。実際はどれほどの大きさなのか、少しワクワクする。
「王都まではあと少しだ。疲れているだろうが、もう少し我慢してくれ」
そう言うと、カレン含め冒険者たちは、木々が並ぶ下り坂を下りていく。
下り坂を下りていると、冒険者の一人が話しかけてきた。
「なあなあ、さっきから思ってたんだけどよ、その黒いのなんだ?」
冒険者が指したのは、私の頭の上でぐぅぐぅと気持ちよさそうに寝ているラーベだった。寝ているときのラーベは口が閉じているため、ただの黒い球体にしか見えない。
「これは私の使い魔。いつもはうるさい、今は寝てるみたい」
「へぇー、名前は?」
「ラーベ」
「変わっているな、そんな魔物は見たことがない」
「ふぅん・・・ラーベは変わってるんだ・・・」
ラーベ。最初に会った時、初めは意識がなかったようだし、何故か水の中に沈んでるし、溺れてたのだろうか。
そんなことを言えば、カレンも意識が戻った時、水の上に浮かんでいたが、何か関係があるのだろうか。
「なあカレン、冒険者ギルドって知ってるか?」
「知らない」
「冒険者ギルドってぇのは、冒険者をやってる奴が集まる集団みたいなやつで、ギルドで提供してる依頼を選んで、その選んだ依頼をこなす、そういうやつだ」
「依頼?」
「依頼には例えば、魔物討伐だったり、薬草採取だったり、いろんなもんがあって、まあ、冒険者のメイン依頼は魔物討伐が多いな」
冒険者ギルドというのは、命を落とすかもしれない危険な仕事だそう。
冒険者にはランクというものがあり、下から、【F級・E級・D級・C級・B級・A級】とある。魔物も同様にF級からA級まで、A級に近いほど強く、F級に近いほど弱いという。
冒険者ランクによって受けられる依頼は限られるらしく、F級は薬草採取が主で、上に上がるほど魔物の討伐依頼も増えるらしい。
A級になると、受けられない依頼はなくなる。
A級冒険者は人数が非常に少なく、その分優遇されやすいとかなんとか。
冒険者は一種の仕事なので、依頼の内容に応じて、金貨・銀貨・銅貨の通貨で報酬が出される。
他にも、魔物の死体を解体してギルドに売ると、キレイ度、魔物ランク度に応じて、通貨での支払いがされる。
綺麗なほど高く売れ、魔物ランクが高いほど高く売れる。
魔物の解体は金を払えばギルド側がしてくれるらしい。
「冒険者同士でグループを組めるんだ。勿論一人でも冒険者はできるけど、グループを組んだ方が役割分担できるから、グループを組んでる冒険者が圧倒的だな」
「ふぅん・・・・・冒険者、やってみようかな」
「カレンはグループ組むのか?」
「いや、一人でかな。その方が面倒ごとが少なそうだし」
「そうかぁ・・・ ま、頑張れよな!」
王都までの道を進み、足がパンパンになった頃、ようやく王都の門前まで来た。
「入国するには入国税がいるんだ。これを持ってくれ」
冒険者たちのリーダーらしき男が、カレンに銀貨三枚を手渡した。
国に入るには入国税がいるらしい。
ギルドカードというものがあると、入国税が免除されるらしく、ギルドカードを持っていないカレンは、ちゃんと入国の際に金を払わないといけない。
それ用の銀貨だろう。
私は何一つ金目の物を持っていない。そんな自分を見ると、これはとても助かる。
門前には列ができており、カレンたちは列の最後尾に並ぶ。
幸い、入国にそれほどの時間は使わず、無事に国に入ることができた。
「カレンはどうするんだ?」
「私は像を見に行く」
「そうか」
すると、今まで一度もしゃべらなかった小柄な魔法使いの女の子が、少し心配そうに口を開いた。
「・・・案内しなくていいの? 初めてでしょ」
「そうだな、中央まで案内しよう」
女の子の言う通り、この国に来たことはなく、初めて入った国はこの国だ。初めての入国ということも含めて、しっかりと覚えておきたい。
女の子の呟きにより、この国、王都アーベンの中央にある像まで案内をしてもらうことになった。
王都の中は人々で賑わっていて、あちらこちらから話し声が聞こえてくる。一つの国であるだけ人口も多いのか、外部からの人間も出入りしているからか、国自体の雰囲気はいい。
広い道の両側には、カフェやパン屋、レストランなどの店、国民たちの家であふれている。
途中途中道が分かれている時があったが、冒険者たちは変わらず真っ直ぐ進み続けている。
段々と人の集まりが見えてきた。
「あれが市場だな。王都の中央だ、あそこに像があるぜ!」
未だカレンの頭の上で熟睡しているラーベを、落ちないように両手で抱きかかえ、市場に向かって歩いていく。
市場はさっきの道よりも人々で賑わっている。
魔法使いの女の子がこちらに来るよう手招きをする。
女の子の方に歩いていくと、目の前には、十四人の人物が並んだ一つの大きい像が目に入る。像の台座部分には、〈十四の英雄〉と書かれていた。
「英雄・・・・・」
一人ひとりの顔を見ると、心なしか、何処かで見たような面々だった。
「此処が中央の〈十四の英雄〉像だ」
ここでずっと立ち止まっていても、案内してくれた冒険者たちに迷惑が掛かるのを気にして、像をじっと見た後、一息ついて口を開く。
「・・・また後でじっくり見に来る。ギルドの場所が知りたい」
「そうか、じゃ、次はギルドにご案内だな!」
「そうだな」
「・・・・・」
カレンたちは広場を後にすると、今度は冒険者ギルドに向けて歩き出した。