第二話 黒い物体
黒い謎の球体は、耳が痛いくらい大きな声でしゃべる。
「まさかそんな馬鹿がいるなんてなァ、ナーハッハッハー!」
うるさい。大きさは片手で持てるボール程度なのに、その大きさに合わず、声はとてもでかい。身体の大きさが声にすわれてしまったのかもしれない。
「んぁ? おい、そこの白い奴。テメェ、いつからいやがった」
どうやら、こちらのことにきずいていなかったようだ。目がないから気が付かなかったのだろうか。
「最初から」
「はあ?! んなわけねェ、この俺様がきずかないはずがねェからなァ! 正直に言ったほうが身のためだぞ?」
面倒くさくて頭の悪いやつとは此奴のようなものを指すのだろう。だが、話ができるのだから意思疎通はできるはずだ。
「君、此処がどこだか知らない?」
「君じゃねェ、オレはラーベ様だッ! てか、無視してんじゃねェ!」
本当にうるさい。一回黙ってくれないものか、しかし、いろいろと聞きたいことがあるから、今黙ってもらっても困るわけで、我慢するしかない。
「居たのは最初から、あと・・・自分はカレンっていう」
「自分はなんか変だな、おいカレン、自分から僕にしろ。ピッタリだ」
「ああ、そう・・・・ それで、僕記憶がないんだ。いろいろと教えてほしいんだけど―――」
素直に教えてくれと頼んだが、黒い物体ことラーベは、こちらの質問に答えることなく好き勝手に喋りまくる。勝手なラードに少しモヤモヤとする、しかし、ここは耐える。
「お前記憶がねぇのかァ?! そらァ、けったいなこった。てかテメェ尻尾生えてんじゃねぇか! 面白れぇ奴もいるもんだなァ! それに―――――」
話が変わりすぎて頭に全く入ってこない。情報量が多すぎるというか、なんというか・・・・・・ん、尻尾?
後ろを振り返る。視界には、槍の刃のような形のものが映る。それは、硬そうな細長いものに繋がっている。長いのを目でたどると、自分のお尻の上らへんから伸びていることがわかる。
おお・・・と、思わず声が出そうになるが、飲み込む。
尻尾は自身の手足のように難なく動かすことができる。体の一部のように自由自在だ。なぜ今まで気が付かなかったのだろう?
あって当たり前という程、身体に馴染んでいる。
長さも自在で、伸ばしたり短くしたりすることができる。
「―――お前髪も白いし、なんかへ――ぬあァッ?!」
私は尻尾をうまく動かし、バッ、とラーベを捕まえる。目に見えぬ速さだった、自分の目にも追えぬほどの。
「おいテメこらァ! 離しやがれ! こんなもの、この俺様にかかれば―――」
うるさいので、掴んでいる力をさっきより強くする。濡れたぞうきんを絞っているような、そんな感覚だ。
「ああああ! 早く離せえええ! 伸びちまうだろうがあああ!」
「離してもいいけど、私の話を聞いて、私に従って、そうすれば離してあげてもいい」
「はああ?! 何でオレがお前に従わなくちゃなんねぇんだよ! 逆に、お前がオレに従うべきだ! なんせ、オレはあの魔人様なんだからな!」
魔人だか何だか知らないが、騒いでうるさいので、もっと力を加える。いつか千切れるかもしれないな。
「あああああ! 分かった、分かったから! ああ、なんでも、何でもする!お前に従うから、お前の使い魔でも、だから離してくれ!」
仕方ないので、掴んでいる力をさっきよりも弱くする。此処で逃げられては意味がないので、逃げられない程度に力をおとす。
「私に従うんだね? 逃げないでよ、逃げたら―――」
「オレをお前の使い魔にすれば、オレはお前から逃げれない!」
「どうすればできる?」
「オレを手で持って使い魔にする魔法をかけろ、そしたら――――」
こいつは何を言っているのだろうか。
「魔法って何」
「―――は?」
魔法、聞いたことのない言葉だ。私の記憶に、そんな言葉はない。