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ツンデレによって! ③

入部届けにペンを走らせつつ、俺は尋ねた。


「なあ、友達をオカルト部に誘うか悩んでるって言ってたよな」


未だ上機嫌な値緒ねおは、ルンルンと足を揺らしている。

そのまま科学教師のように、人差し指をピンと立てた。肯定のサインらしい。


「ああ、我が友のことか!あの子は中々に考え深かったぞ。闇魔法に関した会話を避けず、素直に話を聞いてくれた唯一の存在だ」


唯一って。つまり、他の奴にもこのテンションでふっかけたってことか?


「変わった奴がいたもんだな…」


「む、変わってなどいない。闇を前にして怯まなかったのだ、むしろ優れている」


…ブレないこいつが一番変わっているのは、言うまでもなかった。


「よし書けた、はい」


ペンを筆箱に入れ、プリントを渡した。

しかし、値緒は首を傾げる。


「私が預かるのか?」


「そうだ。…校則を知らないのか?」


「もちろんだ!」


元気よく返すところじゃねえ。俺は胸ポケットから生徒手帳を取り出し、部活動に関するページを開いた。


「いいか。元からある部へ入るなら、その顧問にプリントを渡すだけでいい」


値緒が頷く。


「だが部を新設するなら、部長が5人分の入部届けをまとめて提出する必要があるんだよ」


「ほう?つまりマナブは、既に我を長として認めたという訳か…よく分かったぞ」


本当に分かってんのかコイツ。俺は生徒手帳を戻し、筆箱を鞄へ放ると、椅子から立ち上がった。


「それじゃ、書くもんは書いたし一旦解散だ。値緒、昼休みは空いてるか。部活についてもう少し話がしたい」


値緒はばつが悪そうな顔になった。

見下ろす俺から視線を逸らす。


「むう、ご飯時か……我が友に断りを入れる必要がある…」


あっちから誘われてるのか。思ったよりも関わりが深いらしい。値緒から一方的にウザ絡みをしているのだとばかり思っていた。


「ならいい。話ってのはその友達をいずれ部に誘うかどうかについてだからな、交友関係は保っていてほしい」


これに値緒はたじろぎ、点になった目でこちらを見上げ、声を大きくした。


「なあっ!け、結局我が友も巻き込むつもりなのか!?うぐぐ、まだ悩んでいるというのに…」


「その悩みをどうするかって為の話し合いだ。実際どう動くかはおいおい考える。それで、今日が無理なら明日の昼はどうだ?」


値緒が唸りつつ身をよじったかと思えば、今度はぐう、と声をあげた。


「ううむ、言ってしまえば、昼休みに時間を作ること自体難しい」


「今のところ、我と友は毎日一緒に昼休みを過ごしているのだ。マナブの言う円満を優先するなら、厳しい話だろう」


「…まあ、たしかにそうだ」


思ったより仲がいいな。…それなら仕方ない。


「じゃあ…明日の朝はどうだ。今日と同じぐらいの時間で、場所もこの教室」


「それなら大丈夫だ!早起きには自信があるのでな!」


一転して、値緒は元気に返事をした。健康的な中二病で助かったな。


「よし」


ちなみに。

昼が無理なら放課後はどうだと候補に浮かんだのだが、そうなれば俺が答えを渋ることになる。

なぜなら、早く家に帰ればみのるとの会話のチャンスがあるからだ。忘れもしない昨日のコンタクト。できれば帰宅を優先して、もっと話がしたい。


安定して話ができるようになった暁には、部活を優先して動いてもいいだろう。ただ、今だけはまだまだこれからってとこなんだ。そういう訳で、俺は自分の都合を優先している。すまんな、値緒。


掛け時計は7時半を指していた。

朝礼は8時半に始まる。もうじき早めに登校してきた生徒が来る頃か。そろそろ戻らなくては。


「それじゃ、明日の朝に。またな」


「あ───」


値緒は何か言いたげだったが、俺は気にせず足を進めた。きっと明日でも話せる内容だろう。扉の引き手に手をかけた。


…正しくは、かけようとした。


目の前にあった戸が、ひとりで横へと滑る。

そこには、ひとりの女生徒が佇んでいた。制服姿は初めて見たが、それでも分かる。そいつはたちまち驚いた顔になった。


「なっ…」」


そこにいたのは、みのるだった。


背後からガガッと音が鳴る。椅子から値緒が立ち上がったのだろう。歓喜の声色だった、オレンジって感じだな。


「おおっ!我が友ではないか!」


その発言の意味を吟味する。うちの妹がこの危ない中二病と友達?ということは、つまり……。


「マジか」


妹を見やる。視線が合ったかと思えば、明らかに逸らされた。つめたい反応だ。春だってのに今日は冷えるな、まったく。


「ふふん、大マジだとも。おはよう、実!今日は一段と早かったな!」


背後から元気のいい挨拶がやって来る。

マイプリティーシスター実ちゃんはといえば、もう落ち着きを取り戻していた。


「おはよう、値緒ちゃん。それと…なんでここにいるのか分かんないけど、兄貴も」


前半は普通だったのに、後半に差し掛かってとんがったような態度になっていった。しかし、いいのだ。お兄ちゃん、挨拶だけでも久しぶりで嬉しいから!!


「…ああ、おはよう。そういうみのるこそ、こんな早くに登校なんて珍しいな」


振り返り、俺は平常心を保ちながらそう言った。口元がどうやってもニヤけてしまうので致し方ない。


正面にいる値緒が不思議そうな目で俺を見ている。が、特段気にならなかったのだろう。

そのままぽん、と手を打った。


「…というか、貴様とみのるは兄妹だったのか。あっ、思えば苗字が同じだ!」


「そういうことだ。同じ一年生とはいえ、値緒の唯一の友達が実だとは思ってなくてな。本当に予想外だ」


「ところでマナブよ、どうしてそうニコニコしている。キモい方のニコニコだ」


言うな。


ドアの閉まる音が鳴る。実だ。いつの間にか俺の横を通り過ぎていた。自分の机なのだろう、そこにカバンを置き、特に言葉もなく座った。


こうなると、話が変わってくる。またとない突発的なイベントだ。俺はそれとなく元いた椅子に座る。すると、値緒は何かを思い出したような顔になった。


「あ、そうだ。マナブよ、貴様が帰ろうとした時に思い出したのだが、わざわざ集まる必要もないのではないか?」


そう言って値緒はポケットからケータイを取り出し、これみよがしに掲げた。


「文明の力を借りる時だ!刮目せよ、我のQRコードを!」


がたっ!!


「………」


実の椅子から音が聞こえたような。にしてもケータイか、頭になかったな。後輩とはいえ、女の子と連絡先を交換するんだ。自分からなど、とてもとても。


だが───


「そんじゃ読ませてもらうか、その魔法陣を」


今回ばかりは乗り気だ。なんせ色々と好都合だからな。値緒の友人が実だというなら、オカルト部への勧誘は想像よりも慎重に扱う必要がある。


理由は言うまでもない。これもまた、実との交流の機会になりうるからだ。ゆえに、失敗はしたくない。


「そうだ、そこの上を押せばカメラが起動して読み取れるぞ!」


数少ない友達追加の儀式をしつつ、俺は脳内でシュミレーションを行っていた。


実の入部を成功させた後のいつかの日。窓から夕日が差す部室で、兄妹二人でオカルトについて話を弾ませる。その時に、言ってやるのだ。


『俺と実がこうして話しているのも、何かの不思議が起こったせいかもな』


『違うよ。私がお兄ちゃんと話したかっただけ。ただ、それだけだよ』


『実…』


『お兄ちゃん…』


ふ、ふふふ、我ながら完璧すぎる作戦だ。


「あ、おいマナブ。またキモい方のニコニコが…」


言うな。ピロン、と音が鳴る。画面を見ると、トーク履歴の一番上に『✝︎NEO✝︎』が追加されていた。


と、その時。背後からガガッと音が鳴ったのだ、椅子を引いた音だろうか。お次は足音が聞こえた。校庭が見える窓の方、その端に位置する俺たちの方へと近付いてきている。


足音の正体は十中八九妹だろう。やれやれ、夢が現実になる時がこうも早く訪れるとは。


同学年の女子と兄が連絡先の交換をしているのだ。それに嫉妬して、私とも交換して!と口にする。あーもう、これだろうな。これしか考えられない。これ以外ないだろ。これだ。


なんてな。そんな冗談を妄想しつつ、俺は振り返った。


「どうかしたのか、実」


『いや、連絡先の交換。次は私と交換して』


何を言われるかは分からないが、お花畑みたいな展開だけはありえんだろう。うちの妹はチルド食品レベルの冷たさだからな。


第一、そういう飛躍した展開を望むのは俺の脳だけの専売特許である。いわば、冗談というオチがあるから度の越えた発言ができているようなものなのだ。





だから、みのるの言葉が現実だと気付くのに遅れてしまった。





「なっ、はあ…?」


「いや、だから…」


「あ、そういうことか。値緒、実がお前と───」


「…だから、兄貴と、だよ。連絡先の交換しに来たの。値緒ちゃんとはもう交換してるから。早くして、ほら」


信じられない言葉とは裏腹に、コイツは信じられないほどぶっきらぼうな態度だった。その頬が微かに紅く見えたのは、それこそ俺の妄想だろう。


かくして、俺は早朝からとんでもない大躍進を成し遂げたのだ。妹との連絡先の交換という、特大イベントを。






ピロン、と音が鳴る。

画面を見ると、トーク履歴の一番上に『みのる』が追加されていた。

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