9 襲撃と真実
私はファミレスを出たところで汐里と別れた。
駅に向かって歩き始めた。
しばらく歩いたところで、いきなり襟首をつかまれた。
「何をする」
腹を殴られた。
そのまま路地裏に引きずり込まれた。
下腹部を膝で蹴られた。
倒れたところを顔や肋骨をサッカーボールのように何度も蹴られた。
蹴りが止んだ。
霞む目を開くと加島圭が私のことを覗き込んでいた。
「貴様、何をする。こんなことをして、自分が何をしているのか分かっているだろうな。警察を呼ぶぞ」
「呼べよ。だが、汐里もお前もそれで終わりだ」
「終わりなのはお前の方だ。汐里の父である私に暴力を振るった。傷害罪で刑務所行きだ」
「汐里の父だと」
加島圭が大笑いした。
「何が可笑しい?」
「汐里のオヤジは札幌市民マラソンに参加しているところだ。さっきSNSでチェックした」
そういうとフェイスブックの画面を私に見せた。
「これが本物の汐里の父だ。お前、いったい何者だ?」
私は言葉に詰まった。
「汐里から、ストーカーに注意をしてほしいと頼まれた知人だ」
「俺がストーカーだと?」
「そうだ」
「お前、本当に何も聞いていないのか?」
「どういうことだ」
「俺が汐里のことを恋愛感情でつきまとっていると思っているのか」
「そうじゃないのか?」
「金だよ。金」
「金だと?」
「あいつは俺から金を騙し取った。800万円だ。俺が7年間、汗水たらして働いて貯めた金だ」
「何のことだ」
「しらばっくれるな、お前もグルなんだろう。汐里の方から俺にアプローチして来て、気があるような素振りをして、俺から全財産を巻き上げたんだよ」
「違う、汐里はそんな子じゃない」
「あいつがただの飲み屋の女将だと本当に思っているのか。あいつはネットワークビジネスの中堅幹部だよ」
「ネットワークビジネス?」
「怪しげなカルト団体がバックについているマルチ商法だよ」
「……」
「警察でも弁護士でもいいから呼べよ。そうすれば、俺の言っていることが本当だと分かる」
「なら、何故、弁護士を立てたり、警察に相談しない」
「それは騙されたにせよ、汐里が好きだったからだ。刑務所に送るのはしのびないから、金を返せば、表沙汰にしないつもりだった」
私は返す言葉がなかった。
「お前を襲ったのは、ついにカルトの黒幕が出てきたと思ったからだ。だが、お前も騙されたくちで、本当に何も知らないのか?」
私はうなだれた。
「まあ、それも演技で、お前はカルト教団の幹部かもしないが、いまさらどうでもいいことだ」
急に辺りが騒がしくなってきた。
「あそこです。あそこで喧嘩をしています」
通行人の声がした。
「いけねぇ」
加島はそう言うと逃げ出した。
人がこちらに駆けてくる。
肋骨が痛む。
意識が遠くなっていった。