8 対決
「君が、加島君だね」
加島は私を睨むような目で見ていた。
私は汐里とファミレスで、ストーカの加島と会っていた。
ファミレスで会うことを提案したのは私だ。
ファミレスの床に固定してある大きなテーブルは相手と距離を保つのにちょうどいい。
さらにファミレスのようなチェーン店は、店内で騒ぎが起これば、マニュアルの通りすぐに110番通報を店員がして警察が来る。
交番と警察署がすぐ近くにあるファミレを選定した。
社内の民事介入暴力団対応に詳しいスタッフに食事をご馳走して聞いた反社的人物とどうしても交渉しなければならない場合の対応の仕方だった。
「私は汐里の父だ。汐里につきまとうのはもう止めてもらえないか」
加島は何も言わなかった。
だが私の顔をじっと見ていた。
不気味な相手だった。
声を荒げることも、脅し文句を言うこともなく、私の警告をただ聞いているだけだった。
「話はそれだけですか」
「ああ」
「もう汐里に連絡しないとここで約束してくれるか」
「あなたは、汐里のことを本当に知っているんですか」
加島が馬鹿にしたように言った。
「なんだと」
私は語気を荒げた。
「汐里の本性ですよ」
「娘を侮辱するつもりか」
「まあ、いいです。ここで何を言っても無駄のようですから。他に何か話はありますか」
「ない」
「じゃあ、僕はこれで行きます。あなたと話をしていても時間の無駄ですから」
「なんだと、貴様!」
私は感情的になり思わず腰を浮かせた。
それを止めるように汐里が私の肩に手を置いた。
加島は冷ややかな目をして、そんな私を見ると席を立って行ってしまった。
「ごめんなさいね」
「君が謝ることはない。しかし、本当に不快な奴だな」
汐里は何も言わなかった。
「もし、これからもあいつがつきまとうようなことがあれば、警察に通報しなさい。なんだったら弁護士を紹介してもいい」
「上田さん、本当にご迷惑をおかけしてすみません」
「何をそんな他人行儀なことを言うんだ」
私は本当に実の娘を守る父親のような気持ちになっていた。