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晩恋  作者: サエキタケヒコ
4/11

4 リクエスト


 私は仕事が終わると荒木町に行き『梢』で晩酌がてら夕食を取り、その日あったことの他愛もない話を汐里とするのが日課となった。


 座る席もいつも同じだ。


 入り口から数えて5番目のカウンター席だ。


 そして、他の客が来るまでいて、客が来ると私は帰った。


 たまに何時までいても、私以外に客が来ない日がある。


 そんな時は、汐里にカラオケのリクエストをした。


 私はカラオケでは歌わない。


 しかし、歌を聴くのは好きだ。


 そこで、汐里に私の好きな歌を歌ってもらうのだ。


 恋活や婚活をするよりも、毎晩、汐里の店で飲んでいられればいいと思うようなってきた。





「上田さん」


 会社の廊下で佐々木に呼び止められた。


「どうした」


「恋活アプリの方はどうですか」


 私は頭をかいた。


「ああいうのは苦手であまり進んでいない」


「聞きましたよ」


「なんだ」


「梢に毎日のように行かれているそうじゃないですか」


「誰から聞いた」


「それよりまさか、上田さん、汐里のことを」


「馬鹿言うな、2回りも違うんだぞ」


「でも……」


「料理が美味いから通っているんだ。汐里は、まあ娘みたいなもんだよ」


「それならいいですが、汐里は……」


 佐々木は何か言いかけて止めた。


「なんだ」


「いえ、何でもありません」


 そんなやり取りがあったその日も、私は仕事が終わると『梢』に行った。


 晩酌をして夕食を取り、汐里には2曲リクエストをして歌ってもらった。


「上田さん、いつもありがとうございます」


「いきなり何を他人行儀なことを言っているんだよ」


 私は上機嫌で水割りのお代わりを作ってもらった。


 汐里はグラスの中の氷をマドラーで軽く回すと、水割りを私の前に置いた。


「上田さん、私からも一つリクエストをしていいですか」


「悪いけど歌は歌えないよ」


「カラオケではないんです」


「じゃあなんだい」


「私の父になってもらえませんか」


 私は耳を疑った。


「父?」


「はい」


 何かの冗談だろうと思い汐里を見た。


 汐里の目は真剣だった。




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