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5話『お手製のハーブティー』



 貴方にとってどれほど大きな存在だったか、そんなことは貴方を見ていれば手にとるように分かったの。



 -------------------------



 応接間に戻るとディアマンテ様が自らヴェルーリヤ様から頂いたハーブティーを入れてくださった。

「このハーブティーはヴェルが作ったものなんだ」

「ヴェルーリヤ様がお作りになったのですか!?」

「あぁ」

ディアマンテ様からカップを受け取り香りを嗅ぐとヴェルーリヤ様に言われた通りリラックスできる柔らかな香りがした。

「ヴェルは薬草学に精通しているからハーブティーもお手製なんだ」

そう笑いながらディアマンテ様はハーブティーを口に含んだ。

続くように私もハーブティーに口をつけた。

香りと同じように柔らかい風味が口に広がった。


 しばらく黙って2人でハーブティーを味わっていたがディアマンテ様がカップを空にすると沈黙を破った。

「2人の元に行く前に私が兄上を国王にしたいと言ったのを覚えているだろうか」

ディアマンテ様はこちらを伺った。

「はい」

「この歳になるまで結婚しなかったのはそれが1番の理由なんだ。私が国内の有力な貴族の令嬢と結婚し、子を成してしまえば兄上が王位に就く可能性は限りなくゼロになってしまう。これまでは、まだまだ未熟だから結婚は考えられないなどと理由をつけて逃げていたのだが、今度ばかりは逃げきれなかった。そのせいでルチル王女には迷惑をかけて申し訳ない」

「とんでもありません。私も先程話した通りこの国を出る機会を頂けて本当に有難い話だと思ったのですから、迷惑だなんて仰らないでください」

「しかし、貴女には婚約者がいただろう?そうじゃなくても10以上も上の私に嫁ぐなど。しかも、子どもは諦めて欲しいなんてお願いまでする始末。貴女という1人の人間の人生を弄んでいるようなものだ」

なんとお優しい方なのだろうか。

眉を下げ、申し訳なさそうにこちらをスカイブルーの瞳が伺っている。

そんなこと気にしなくて構わないのに。

「ありがとうございます」

そう言うとディアマンテ様は驚いた。

「私のことをそこまで慮ってくださって嬉しいです」

私はそう微笑んだ。

「婚約のことについては彼も分かってくださいました」

「そうか…」


 元婚約者で今日も護衛を担当してくれたノゼアンとは同い年で10歳になる年に婚約した。

ノゼアンの母親はキャシテの乳母でノゼアンにも弟が2人いることもあり、体の弱い私に代わりキャシテの遊び相手にもなってくれた。

騎士団に入隊し、私の護衛を務めるようになってからはほとんどの時間を彼と過ごしてきた。

彼に対して恋心のようなものがあったかと問われれば頷くことは難しい。

それはすでに彼が私の家族も同然だったからだ。


 愛してはいる。


 家族として。

それは間違いなく断言出来る。


 今回の終戦の条件、ディアマンテ様との婚約でノゼアンには申し訳ないことをしたと思っている。

最初、ノゼアンは反対していた。

私のことを思って言っていることは分かっていた。

でも、国の外に出たいという私の思いを知っていた彼は銀灰色の瞳を心配でいっぱいにしながら婚約破棄を受け入れてくれた。


「先程まで私の護衛を務めていたのが元婚約者ノゼアンです」

「!?そうなのか!…道理で…」

ディアマンテ様は口元に手を持っていき、少し考えを巡らせると

「彼にも話を聞いてもらった方がいいか…」

と呟いた。

「ノゼアン…ですか?」

「あぁ。彼はとても貴女を…大切に思っているようだったからな。誤解を生まないためにもちゃんと話を聞いておいてもらいたい」

「わかりました」

そう応えるとディアマンテ様はご自身の護衛と私の護衛、ノゼアンを部屋に呼んだ。


「君がルチル王女の婚約者だったと聞いた」

ディアマンテ様はノゼアンにそう切り出した。

「…はい」

「君にも申し訳ないことをした。すまない」

ディアマンテ様はそう言うとノゼアンに軽く頭を下げた。

「おやめください。一国の王太子が他国の貴族にそう簡単に頭を下げるなどあってはなりません」

ノゼアンは冷静にそう伝えるとディアマンテ様は顔を上げた。

「君はルチル王女のことを…」

そこで言葉を切り、視線をノゼアンから私に移しまたノゼアンに戻した。

「とても大切に思っているだろう」

「……はい」

一瞬ノゼアンの返答が遅れたように感じた。

「いきなり子どもは諦めてくれと頼んだかと思えば、今度は2人きりにしてほしいと頼んで、常識のないような態度をとって申し訳ないと思って謝りたくてな。すまない」

ディアマンテ様は今度は頭を下げず、ノゼアンをしっかりと見据えてそう告げた。

「…わかりました」

ノゼアンは渋々と言った顔で謝罪を受け入れたようだった。

私はその様子に少し笑ってしまいノゼアンに軽く睨まれてしまった。

ディアマンテ様は私たちのやりとりに少し頬を緩ませていた。


「ここからの話は君にも聞いて欲しいと思う」

そうディアマンテ様がノゼアンに言うとノゼアンは私にいいのか?といった顔で伺ってきた。

私は軽く頷く。

「わかりました」

ノゼアンはディアマンテ様をしっかりと見て応えた。

「私が兄上を国王にしたいと言ったのは覚えてるだろうか?」

ディアマンテ様がノゼアンに問う。

「はい」

ノゼアンは短く返事した。

「君や王女は若いから知らないかもしれないが10年ほど前は兄上、第一王子オブシディアンが王太子に近い存在だった。しかし、とある事件で兄上は王太子の座から遠のいた。私自身もその事件があるまで兄上が王太子になるだろうと高を括って王族として相応しくない行動ばかりで、王太子という座に相応しくないと陛下から猶予を与えられた。そこからは兄上に王位に就いてもらえるように自分なりに動いていた。しかし、罪を犯した兄上がそう易々と王太子、国王にはなることは難しいと分かった。だから、一度私が王位に就き、兄上には補佐をしてもらい実績をあげた上で兄上に王位を譲ろうと考えていたんだ。その為には私に子どもがいるのは望ましくない。だから、ルチル王女には子どもは諦めてもらおうとここまで来た」

ノゼアンに向いていたスカイブルーの瞳は私に移っていた。

「わざわざ出向いてくださり、ありがとうございます」

私が微笑みながらそう応えるとディアマンテ様は少し困ったような笑顔を作った。

「決してお礼を言われるようなことではないのだと思うのだけどな…」

「私は体が丈夫ではありませんから、子どもを産もうとするとそれなりのリスクがあります。ですので、少し長生き出来る可能性が増えたと思いまして、有難いと思ったのです」

「……」

ディアマンテ様は複雑そうな顔をした。


 王族に生まれたからには子孫を残すことはは1つの責務であることはわかっている。

でも、私にとってそれはリスクが高すぎる。

狭い世界で不自由に暮らしてきたのだ、少しくらいは我儘を言ってもいいだろう。


 生きたい。

少しでも長く、生きていたい。



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