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4話『理想の夫婦』



 お二人は本当に素敵なご夫婦で私の理想の夫婦そのものだった。



 -------------------------



 ヴェルーリヤ様に抱かれているパンダのぬいぐるみから視線を上げると先程入ってきた扉の反対側の扉が開いている事に気づいた。

その扉の先には色とりどりの花が咲いていた。

私の視線が移ったことに気づいたヴェルーリヤ様が後ろを振り返る。

「あれは薬草畑です」

「!あそこに咲いているもの全て薬草なのですか!?」

驚いた、あんなにも綺麗な花を咲かせるなんて。

乾燥させたものなんかはよく目にするが生き生きとしているものを見るのは初めてだった。

「はい。私とオブシディアンとで世話している薬草です」

「!お二人自ら育てているのですか!?」

「そうですよ」

驚いているとオブシディアン様がヴェルーリヤ様の隣に来て柔らかく微笑んだ。

まさかお二人で自ら薬草を育てているなんて。

「私とオブシディアン共通の趣味というか研究対象なんです」

ヴェルーリヤ様はオブシディアン様の方に同意を求めるようににっこりと笑いながらそう言った。

「せっかくですし、薬草畑見てみます?」

「!よろしいのですか?」

「もちろん」

ヴェルーリヤ様に促され私はお二人の薬草畑を見せてもらうことにした。


 ヴェルーリヤ様に続いて外に出ると丁寧に手入れされているのが一目見てわかるくらい美しい草花が咲き誇っていた。

薬草畑の向こう側は川のようで水面がキラキラと煌めいていて、さらに奥には森が広がっていた。

陽の光がスポットライトのように降り注いでいて、息を飲むほどの美しさに私はこの景色を忘れぬようにと瞬きすることもなく目に焼き付けていた。

先に進んでいたヴェルーリヤ様がこちらを振り返ってふふっと柔らかく笑った。

その光景がまるで絵画のようで彼女から目を逸らせなかった。


 ヴェルーリヤ様は私が聞くよりも先に私が気になったものについて答えてくれる。

やはり魔女だからなのだろうか?と思っていたらヴェルーリヤ様は魔法の才能がないのだと教えてくれた。

逆にオブシディアン様は天才なのだと少し寂しげに瞳を伏せ笑みを浮かべた。

魔法の才能がないヴェルーリヤ様が唯一オブシディアン様と肩を並べられるのが薬草学なのだと話してくださった。

この薬草畑はヴェルーリヤ様とオブシディアン様の師匠の方がプレゼントしてくれたものらしい。

ヴェルーリヤ様は愛おしそうに薬草畑越しに扉の前でディアマンテ様と話しているオブシディアン様を見つめていた。


「2人ともそろそろ中に戻ろう」

オブシディアン様がそう仰ったのでヴェルーリヤ様と共に小屋へと向かう。

「そうだ。ルチル王女」

くるっと私の方を振り向いたヴェルーリヤ様に内心ドキッとしたがいつも通り冷静に答える。

「はい、なんでしょう?」

「ディアマンテ様には気をつけてくださいね」

ヴェルーリヤ様は私に少し近づき内緒ですよと言わんばかりの声の小ささでそう言った。

「?」

どういう意味かわからず小首をかしげると、

「あの人、突拍子もないことをよくするので真剣に取り合うと疲れてしまいますから。適当にやり過ごすくらいで丁度いいですからね」

「…なるほど」

先程オブシディアン様に言われたことと似たようなことを言われ、少し笑いそうになったがなんとか持ちこたえた。

「ホント…あの人、王太子の自覚あるんだろうか…」

ヴェルーリヤ様はそう小さな声でボヤきながら小屋の中へ入っていった。


 小屋の中へ戻ると、

「そろそろクォーツ国へ戻った方がいいんじゃないか?」

オブシディアン様がディアマンテ様にそう問いかけた。

「そうですね。ルチル王女、帰ろうか」

ディアマンテ様がそう言いながら手を差し出してくれた。

少し名残惜し気持ちをグッと飲み込み、手を取ろうとディアマンテ様に近づくと、

「少しよろしいですか?」

オブシディアン様が私に近づいてきた。

「なんでしょう?」

「突然こんな所に連れてこられて疲れたでしょう」

そう言うとオブシディアン様は私に触れるか触れないくらいの距離で額に手を当てた。

「少し温かくなりますよ」

オブシディアン様がそう言うのと同時に人肌くらいの温かさが体全体を包んだ。

「いかがですか?倦怠感はとれましたでしょうか?」

オブシディアン様にそう問われ、言われてみれば体が軽くなったように感じた。

「今のは魔法…ですか?」

驚きながら問いかけるとオブシディアン様は微笑みながら頷かれた。

「ありがとうございます。ここ数年で1番体が軽く感じます」

私は深々と頭を下げた。

本当に久しぶりの感覚で嬉しかった。

「倦怠感をとっただけですので、無理をしてはいけませんよ」

「はい」

こんなに体が軽くなったのは久しぶりだから、今なら走り回っても大丈夫だろうと思っていたのは内緒にしておこう。

「ルチル王女、よろしければこれを。たいしたものではないのですが」

ヴェルーリヤ様から差し出された小瓶には茶葉のようなものが入っていた。

「リラックス効果の高いハーブティーです」

「気を使わせてしまって申し訳ありません。ありがとうございます」

小瓶を受け取りヴェルーリヤ様にお礼を伝え、ディアマンテ様のいる方へ向かった。


 扉の前で柔らかく微笑みながらディアマンテ様は再度手を差し伸べてくださったのでその手をとった。

「では、兄上、ヴェル。また」

ディアマンテ様はお二人にそう言うと扉に鍵を挿した。

「失礼いたします」

私は振り返り、お二人に頭を下げた。

「お身体に気をつけてくださいね」

オブシディアン様は柔らかく微笑んでくださった。

そのお顔はやはり兄弟なのだろうディアマンテ様ととても似ていた。

「今度は正式な場でお会いしましょう、お二人共」

少し棘のある言い方をしたヴェルーリヤ様にオブシディアン様とディアマンテ様は似たように目を細めて笑った。


 この時、気づいた。

ディアマンテ様はヴェルーリヤ様を愛していらっしゃるのだと。


「行こうか」

そうディアマンテ様に手を引かれ現実に戻った。

「はい」

来た時と同じようにディアマンテ様は眩く光る扉を開き、光の中へ進んでいく。

眩しさに一瞬目を細めながらも進む。

もう一度しっかりと目を開けるとそこは私たちが挨拶を交わした応接間だった。


 戻ってきた…

なぜだかほんの少し寂しい気持ちになってしまった自分に気づかないふりをした。



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