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3話『白黒の熊』



 魔法使いや魔女は普通の人間とはかけ離れた存在だと思っていた。

しかし、実際は私となんらかわらない普通の人だった。



 -------------------------



 ディアマンテ様に手を引かれ、くぐった扉の先は小さな小屋のようなところだった。

生活に必要最低限の設備と壁一面に埋め尽くされた瓶や書籍。

所々にあるのは見たことがあるような、ないような置物の数々。

なぜだか少し居心地が良かった。


「殿下…」

先に口を開いたのは女性の方だった。

女性は眉間に皺を寄せてディアマンテ様を睨んでいた。

「何度も言いましたよねぇ。来る時は事前に連絡をよこして下さいと!」

「すまない、すまない」

ディアマンテ様はこれっぽっちも悪いと思っていないような口ぶりで笑顔を浮かべながら謝罪をした。

「本当に悪いと思っていないでしょう」

女性はますます不機嫌そうな顔になっていく。

ふと、女性の隣を見ると困り顔で笑っている男性がいた。

男性は私の視線に気づいたのかこちらを見た。

彼の瞳はスカイブルー。

彼が第一王子オブシディアン様だとすぐにわかった。


 オブシディアン様は私に少し近づき、

「はじめまして、ルチル王女。私はアジュール王国第一王子オブシディアンと申します。弟、ディアマンテと言い争っているのは私の妻ヴェルーリヤです」

少し申し訳なさそうに微笑みながら自己紹介をしてくださった。

「はじめまして。クォーツ国第一王女ルチルです。突然の訪問申し訳ございません」

「お気にならず。おおかたディアマンテが突然連れてきたのでしょう?」

私は肯定の代わりに曖昧に微笑んだ。

オブシディアン様はディアマンテ様の方を見ながら、

「ディアマンテは思い立ったら即行動といった感じで、今回のクォーツ国への訪問も急遽決めたんです。驚かせてしまい申し訳ございません」

「いえ。…確かに正式に結婚するまでお会いできるとは思っておりませんでしたので驚きはしましたが、結婚前にお会いして、お話することができて良かったです」

そう伝え、にっこりと笑うとオブシディアン様は少し驚いたような表情を浮かべた。


「それで、今日はどういった御用で?」

言い争いが終わったのかヴェルーリヤ様がディアマンテ様に問いかけた。

「そうだ、そうだ」

ディアマンテ様は思い出したように私の方を見て、

「ルチル王女に魔法使いを紹介したくて連れてきたんだ。ルチル王女、私の兄オブシディアンとその妻ヴェルーリヤだ。2人とも魔法が使える」

ディアマンテ様はニカッと笑った。

ヴェルーリヤ様の視線が私に向いていた。

「はじめまして、クォーツ国第一王女ルチルと申します」

私は軽く会釈するとヴェルーリヤ様は座ったまま同じく会釈した。

「はじめまして。オブシディアンの妻ヴェルーリヤです。ヴェルと呼んでください」

柔らかい表情をしたヴェルーリヤ様はお腹がふっくらしていた。

妊娠しているのだろうか?

初対面で聞くのは失礼かと思い、口には出さなかった。


「ルチル王女は魔法に興味があるのですか?」

ヴェルーリヤ様の隣に戻ったオブシディアン様がそう聞いてきた。

「いえ。ディアマンテ様が魔法を見たことあるかと仰ったので、ないと答えたらここへ…」

私はディアマンテ様にそうですよね?と言ったように視線を向けるとヴェルーリヤ様のため息が聞こえた。

「はぁ…。そんな事で一国の王女を突然連れてくるなんて…。しかも、よりにもよってここにいる時に連れてくるなんて…」

「むしろここだから連れてきたんだが?」

ディアマンテ様がそう言うとヴェルーリヤ様は目を見開き立ち上がった。

「こんな狭くて、物で溢れかえってる所に大の大人4人も!しかも、王族だらけって!私、責任持てませんよ!ってか、持ちませんからね!!」

「落ち着いてヴェル」

オブシディアン様はヴェルーリヤ様の背に手を当て先程まで座っていた椅子へと促した。

「そうだぞ、ヴェル。お腹の子に障る」

やはりヴェルーリヤ様は妊娠なさっているようだ。

「ディアマンテ…お前がそれを言うんじゃない」

オブシディアン様は呆れたようにそう言った。


 3人がそんなやりとりをしている間、私は若干蚊帳の外だったので小屋の中をキョロキョロと見回していた。

失礼だろうとは思ったが好奇心に負けてしまった。

壁一面にある収納棚に目を向けると上半分には乾燥させた薬草らしきものが瓶に詰められている。

身体の弱い私には馴染みのあるものもあり、ここで薬でも作っているのだろうと予想がついた。

収納棚の下半分は分厚い書籍が詰め込まれている。

共通言語の物も何冊かあるが大概が別の言語のもので見たこと、習ったことがある言語もあれば、全くわからない言語のものもちらほらあった。

所々に飾ってある雑貨は異国のお土産なのだろうか。

その中でも一際目を引いたのは白黒の熊のようなぬいぐるみ。

物心ついた時からクマのぬいぐるみが好きで両親からのプレゼントは決まってクマのぬいぐるみだった。

気がつけばクマのぬいぐるみ部屋が出来るくらいのコレクションになっていた。


 ジーッと白黒の熊を見ているとヴェルーリヤ様が気がついたようで、

「それはパンダという動物なんですよ」

「パンダ?」

ヴェルーリヤ様は立ち上がると1冊の本を手に取り私に近づいてきた。

「これです」

開いたページにはぬいぐるみと同じ白黒の熊がいた。

「熊に似ているですがちょっと違っていて。雑食なんですが基本的には草食動物と同じような食生活をしているんです。その影響で顔が熊に比べて丸いでしょ?」

そう言われてよくよく見てみると確かに丸みがある。

「そうですね」

「奥歯で物をよく噛む影響なんだそうですよ。私も実物を見たことがないので本当かどうかはわからないのですがね」

そう言うとヴェルーリヤ様は本を近くのテーブルの上に置き、パンダのぬいぐるみを手に取った。

「これは私の師匠が異国を旅していた時に買ったものだそうです。この一角にあるものはだいたい師匠が自分へのお土産として持って帰ってきたものです」

私はぬいぐるみの近くにあった金色の象や魚を咥えた木彫りの熊に目をやる。

「ちなみにパンダは別の大陸にしか生息していないらしいです」

「そうなんですか…それは残念ですね」

ぬいぐるみや本に描かれているパンダはとても可愛らしくて1度でいいから実物を見てみたいと思ってしまった。


 国から出ることすら簡単に出来ない私が別の大陸になんて…

そんな夢物語みたいなことを。



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